料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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キョウチクトウ
 

 もうすぐアテネ・オリンピックがはじまるが、ギリシャといえば、結婚したてに一人旅をしたことがある。期間は三ヶ月余。
  とくに目的があったわけではない、ただひたすらエーゲ海の島々を巡り歩いた。新婚早々の若妻が夫を置いて一人でそんなところへ行かなければならない何の理由があったのか、それを今明確に説明することはできないが、その時にはそうすることが必要だと思われた。

 その旅行中に舅が交通事故で亡くなった。自転車に乗っていて車にはねられたのである。私の立場はひどく悪いものであった。葬儀にも間に合わなかったわけだし、前述したように旅行の目的が曖昧に見えたから。

 お骨に手を合わせると、「最後まで心配していた」と夫に聞かされた。
 その夜である、舅の亡霊を見たのは。部屋の敷居の上にぼうと出た。何度「あそこに」と言っても、夫や姑には見えなかった。とくに青白いという感じではなかったが、かといって色彩があるわけでもなく、足もなかったように思う。とにかく丸山応挙の描いた幽霊のように、さびしげで優しかった。
  亡霊を見たのはそれが初めてだったが、今もってあれは妄想などではなく、間違いなく舅その人だったという確信がある。

 舅とは二、三度、山や温泉に行っただけで、とくに親しく会話した記憶はない。だから忙しそうにチャカチャカと歩く姿と、普段は眉間に深い皺を寄せているくせに笑うと幼子のように無邪気な表情になったこと、瞳の色が少し青かったことぐらいしか知らなかった。
 

 地域につくした人らしく、死んでから何年も感謝の言葉を近隣から聞かされた。また花いじりの好きな人だったようで、ずいぶんたくさんの鉢植えを残していた。大きくなったものには椿や夾竹桃があった。夾竹桃は紅白二本がもたれあってお互いの重さで傾き、やがて木鉢を割り、そのうちとうとう姿を消してしまった。

 今ごろ中央道を走ると、甲府近辺の両側に夾竹桃の大群を見ることができる。車が走り抜けるだけでも花穂がゆれるが、風の強い日には花々が思い思いの方向へ激しく頭を振って、まるで荒野に彷徨うリア王の舞台装置かなにかのようである。華麗で暗鬱、ちょっと運命的な感じのする花だ。
 
  舅は好きな仕事に打ち込み家族に恵まれ、亡くなり方さえ除けば良い人生を送った人と言えるかもしれない。しかし亡霊としての舅は、夾竹桃の陰で永遠に揺れ続けている。(2004年7月31日)

 

 

 

夾竹桃 キョウチクトウ科 インド原産の常緑低木。高さ3,4メートル、花期は7月から10月。花はふつう紅色だが白、淡黄、絞りなどがあり、八重もある。

 
 
 
     
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