料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ギンネム
 

 はじめてコースケと会ったのは波照島でだった。彼は寒い間だけ山形で板金の仕事をし、あとの大部分を沖縄あたりで潜っていた。とにかく水の中のコースケは普段のひょうきんな言動からは想像もつかない優雅さで、人間が、実は妖精のように美しい生き物であることを教えてくれる。
  この色白の妖精は又、いたずらっ子でもあった。太ももほどもある攻撃的なウツボをからかって穴からおびき出し、私たち夫婦をハラハラさせるのだから。
 ある夕方、民宿の主人が浜辺で魚の蒸し焼きをしてくれた。その時火を焚くのに使ったのがギンネムの枝である。真っ赤な夕日とギンネムと熱帯魚と・・世の中には美しい組み合わせがあればあるものである。
 
 ある夏、そのコースケを私たちはモルディブの海へ誘った。
  そこは浅瀬のずっと続く浜で、あちこちに黒い岩肌が見えていた。先を歩いていたコースケが突然声を上げた。
「うおーっ、サメだあー。引っ張ってみっか?」
 うたた寝をしている間に潮が引いたのか、岩の裂け目にサメが入り込んでいた。
「おれが、こっちさ引っ張るから、あんたはそっちさ引っ張って」「おーし、おーし」
 コースケも夫もガキ大将に戻って私の制止など聞く耳もたない。しかし、ワッセワッセと何度声をそろえてもサメはガンとして動かなかった。
「ヒレで突っ張っちゃって、こりゃ俺らの負けだ」
「これ、ネコザメといっておとなしいんだわ。ちょっと遊べるといがったけど」
 
 その夜、ナイトダイビングをした。
  桟橋から海へ入ると、ぬめっとした水が未知の生き物のようにまとわりつく。対岸の灯がこの世のものとは思われぬほど遠い。
「見てごらん、きれいだよ」という声に空を見上げると満点の星だ。心が少しずつ溶けて、揺りかごのような海を感じる。
 さてはじめるかと言うと、もうコースケの手にハリセンボンがいた。指で突っつくとあわてて身体を膨らませる。あんまり怒りすぎてまん丸になり、プカプカぼんぼりみたいに遠ざかっていった。暗闇の中から、潮の流れに見をゆだねた魚たちが、ふっと懐中電灯の光の中に現れてくる。そして無防備な裸身をさらして、また静かに去っていく。海底では白い砂に埋もれて巨大がエイがレースのカーテンのようなヒレを揺らせていた。それは今にも私たちを乗せて魔法の世界へ運んでくれそうだった。
  大きな魚も小さな魚もみな目を開けて眠っている。この音のない世界は、少し死の世界に似ているのかもしれない。
 

 水面にもどると、ぽおっと白いギンネムのような顔を三つ浮かべて、しばらく流れ星を見ていた。
 明日は裸で泳ぐかな、とコースケが言った。 (2004年8月31日)

 

 

 

ギンネム マメ科 南アメリカ原産の高木。東南アジアへ渡り自生化している。白色の花穂が長い柄の先に単生。薪炭や肥料に。盆栽にも向く。

 
 
 
     
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