料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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山ホトトギス
 

 この二年ほどの間にニ三度血痰にみまわれ、いよいよ肺癌かと検査をしても、何でもない。それでふと思い立って喉を調べてもらったら声帯が腫れ、突起もできているとのこと。
「ペンダコのようなものです」と若い女医が言う。
「どうすればいいのですか?」「話さないことです」
 三分診療が常識とはいえ、あまりに患者の生活を無視した答えではないか。で、今まで通り声を出している。
それにしても、大して朗読をしているわけでもないのに、プロ並みに声帯をやられるとは、加齢によって諸器官が衰えていると思わざるを得ない。

 そこで思いついたことがある。我が家には小さな茶を点てる空間があるのだが、茶室としての体裁は甚だしく乏しいので今までは庵名など考えたこともなかった。そこに、鳥のホトトギスにちなんだ庵名をつけるのはどうだろう。血を吐くほど心をこめて茶を点て朗読をするのだもの。

  都合の良いことには今、茶室の窓下に山ホトトギスの花が満開である。その上、五月になれば茶室の前の谷を、本物のホトトギスが渡っていく。
  今年も何度か必死の形相のホトトギスを目撃している。何に必死なのかはわからない。まさか託卵し、その後もほったらかしていたわが子を、今更たずね歩いているわけでもなかろう。

 とにかく鳴き方がせわしなく切羽つまっているので、聞くほうもなんだか切なくなってしまう。この鳥が明け方に鳴いて空を飛ぶというので昔から和歌にはずいぶん詠まれているが、そのどれもが名歌である。
 しかし我が家の前を渡るホトトギスは、朝も遅い九時ぐらいが多い。その辺を鳴きながらぐるぐる回って、午後は二時になってもまだ鳴いている。後朝の別れがあるわけでもなし、名歌とは程遠いのである。

 近々、Nさんが山梨に遊びに見える。演劇関係の本の出版をし、また役者さんや義太夫の師匠のマネージメントなどで忙しい人である。彼女には是非とも、我が盛りの山ホトトギスを踏み分けて茶室へ入っていただこう。
 床には千草大納言有維卿の字になる「時鳥なきつるかたをながむれば・・・」の短冊をかけ、ホトトギスの飛ぶ姿を蒔絵した香合を飾って、左大臣に「ホトトギス名をも雲井にあぐるかな」と発せられ、「弓張り月のいるにまかせて」と応じた頼政の一節をせわしなく朗読し、バタバタと飛ぶ勢いでお薄でもさしあげてみようではないか。あまりにホトトギスが出すぎて、ほとほとあきれはててしまわれては元も子もないが。(2004年10月25日)

 

 

 

山ホトトギス ユリ科 低山の樹下に多く生える多年草。茎の頂や葉腋に花柄を燭台状に出して一つずつ花をつける。 

 
 
 
     
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