料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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オシロイバナ
 

 七月に入った途端、道端のオシロイバナが咲き出した。この花は花期が長くほぼ十月の末まで咲き続けている。
  白い方が清楚で好きだが、家の周りにはピンクの花ばかりが目立つ。しかし葉の緑との対比がキツく思えるこの色も、夜の暗がりにフッと浮き上がる様にはなかなかに色っぽいものがある。

 昔、「白粉屋」という駄菓子屋があった。屋号は別にあったようだが、板塀に沿ってびっしりと生えたオシロイバナと、女主人が芸者をしていたことが子供たちにそう呼ばせていた。

 歳のころは、今の感覚でいえば七十も後半というところだろうが、当時のことだから案外六十を少し出たくらいであったかもしれない。背筋がまっすぐに伸びた小奇麗な人だった。
  たっぷりと纏め上げられたその髪が黒かったのは自分で染めるからである。奥の縁側に盥を持ち出し、浴衣の襟に手ぬぐいをまわして刷毛のようなものを使っていた。子供たちは板塀の隙間からオシロイバナの、こちらもたっぷりとある葉を分けて覗くのである。
  一体に当時の子供たちはよく覗き見をした。覗けるような隙間や穴が塀といわず壁といわず、どの家にもあったからである。
 

 あとは店先でぷかりぷかりとキセルをつかっていた。客が来てもめったには動かない。子供たちは勝手に品物を選び、勝手にお金を箱に入れるのである。その自由さがよかったのか、やはり駄菓子の魅力なのか、子供たちは何かというと白粉屋にいた。女主人は相手をするでもなく嫌うでもなく、ただぷかりぷかりとキセルをつかっていた。
 

 女主人には目の横に黒子があった。特に大きいというわけではなかったが、誰彼が「いいホクロだねえ」と言ったりするのを聞くと、子供たちはその辺の土くれを顔につけては「いいホクロだねえ」とふざけ合うのだった。
 黒子といえばこんなこともあった。女主人が私の耳の下にある黒子を「衣装持ちになる」と言ったのである。普段あまり口をきかない人だったから、それまでに何か経緯があったのだろう。
 またその時だったか別の時だったか、オシロイバナの実から白い粉を取り出して、祭りの日のように鼻につけてくれたことがある。差し出された手鏡は赤い柄の、大層美しいものであった。

 その店が家からどのくらいの距離にあったのか見当がつかない。あまり近くではなかったように思う。当時の子供たちの行動半径はかなり広く、本郷から後楽園あたりまで平気で走り回っていたのだから。

 香りの思い出というものは鮮烈である。今でもオシロイバナの脇を通れば必ず花を摘んで鼻先へもっていってしまう。そして懐かしい香りを嗅いだ瞬間、私は幼い子供に戻って白粉屋の店先にいる。(2005年7月16日)

 

 

 

オシロイバナ  オシロイバナ科 熱帯アメリカ原産の多年草 花は漏斗形で色彩に変化が多く夕方に咲き出す。 黒色の種を割ると白粉状の胚乳がある。

 

 
 
 
     
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