料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

 
花族
 
 
 
シュウメイ菊

 雨上がりの庭でまたキツネを見た。シュウメイ菊の植えてある斜面の下側でゴソゴソ動いている。ススキと一緒に尻尾を揺らしていたかと思ったら、シュウメイ菊の間からぬっと顔を現わした。家の中から見ている私には気づかず、しきりに地面の匂いを嗅いでいる。
 

 このキツネを最初に見たのは早春のことであった。劣化したワインを畑に撒き、空き瓶をそのまま放置しておいたらキツネが来たのである。舐めているところを見たわけではないが、酒の匂いに惹かれて来たのは間違いない。以前から隣家との境に獣道が出来ていたのでキツネかタヌキがいるとは想像していたのだが。
 ふっくらとした毛並みや輪郭の鋭い横顔が橋本関雪の絵に似て、気高い。
 
 キツネと言えば真砂小学校でも思い出がある。
 学芸会で母ギツネを演じたのだ。話の筋や題名は記憶の彼方だが、両掌を耳の上に立てて、「コンコン子ギツネ、どこ行ったぁ?コンコン子ギツネどこ行った」とスポットライトの中で繰り返した歌詞はよく覚えている。歌い終わって視線を遠くにやる瞬間、かすかな快感がこの身を走り抜けたことも。
 もう最初の児童劇団「あすなろ」に入っていたから、他の子たちよりは演技に慣れていたのかもしれない。

 やがて「木の実」という別の劇団に移り、映画やテレビのチョイ役をやっていた。
 どちらの劇団だったか忘れたが、大人の部で「ドモ又の死」という芝居をやった。ドモ又を演じた役者さんが私を可愛がってくれて、その人のひざの上で稽古を見たり小道具が作られている様に目を見張ったりしたものだ。
 初演の日には母と一緒に一番前の席にいた。共演の女優さんが稽古では見せなかった薄物のシュミーズ姿になったのでドキドキしてしまった。自分でも子供の部で何か演じたはずなのに少しも思い出せない。極々小さな役だったのだろうが、それよりも、女優さんの白いシュミーズ姿が鮮烈だったのだろう。
 

 手元に色褪せた写真が一枚ある。ドモ又終演後の舞台で全員を写したものだ。私と母もちゃっかり収まっている。あれから四半世紀、あの人たちは一体どこへ消えてしまったというのだろう。
 
 いつの間にかキツネはいなくなり、差し始めた薄日の中でシュウメイ菊がふわりと散った。(2006年9月25日)

 

シュウメイ菊  キンポウゲ科 貴船菊とも。草丈50〜70センチの多年草。地下茎を伸ばしてふえる。中国原産。交配種が作られ、変異が多い。

 
 
 
     
    目次
    ページの一番上へジャンプ