料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

 
花族
 
 
 
ハマナス

 それは実際、奇妙に鳥づくしの旅であった。
 友人達と六名で鳥の渡りで有名な伊良湖岬へ向かったのは十月九日。
 高速道路に入ってすぐに車に轢かれたトビを見た。番のかたわれとおぼしき一羽が諦めきれず回りを低く飛んでいた。大きな羽が見るからに不器用そうで、通り過ぎてからもずっと気がかりであった。途中で寄った山梨では畑でコジュケイを見た。ドングリ目でしばらくこちらを見ていたが、やがて草むらへ姿を消した。

 伊良湖岬には夜の八時過ぎに着いた。龍のような暴れ風が吹いていた。身体は冷えるが心の熱はいや増すばかり。やはりそこは特別な磁場になっているのだろう。
 散策に出てまた鳥にでくわした。黒っぽい羽のムクドリが歩道の隅で動かない。怪我でもしたのかと手を伸ばすと弾けたように飛び去った。
 それから恋路ケ浜でビールを飲んだ。コップはすぐに砂だらけ。横長の海の上には冴えた月、確か十三夜が過ぎたばかりだった。漁火、潮騒、それに白い花、東京ではとっくに終わっているハマナスが、そこではまだ咲いていた。

 いよいよ朝の五時、コーヒーを飲むのももどかしく双眼鏡を首に歩き出す。
 すぐにサシバの影。パタパタと焦っているような飛びかただった。すでに前日鷹柱が立つほど飛び去ったというから、この日の飛翔は鷹竿ぐらいかと冗談を言っている間にも、どんどん渡っていく。真ん中にひときわ大きな鳥がいて、ハチクマですと説明される。
「あっちはツミですね。鷹類の中で一番小さなものです。後ろはカケスです。二、三十はいるでしょう。大きな群れはヒヨドリです。百は下らないでしょう。あ、山のほうにいるのはハヤブサですよ。群れから離れる小鳥を狙っているんです」
 ハヤブサが急降下した。
「あー、失敗したようです。今度は白い鳩を狙っていますよ」
 白い身体が横に流れる。皆いっせいに唾を飲む。おそらくは赤い血を求めて。
「あーあ、まただめだったようですねえ」
 ウオーという人々の声。赤い血は心の中だけに流れて。

 鳥たちは千メートルの上空を北東風に乗って九州方面へ飛び、さらに南下して沖縄経由で東南アジアへ渡っていく。驚いたことには蝶までそうやってフィリピンあたりまで渡るのだそうだ。この日もかなり高いところを蝶が数匹飛んでいた。突上げる何の力があの小さな身体にかくも過酷な長旅を強いるのか。
 

 高速道路で死んだトビも、鷹柱を作るサシバもハチクマもどこかで力つきたカケスも、ハヤブサに食われるヒヨドリも、羽のちぎれた蝶たちも、生死を越えて皆どこかへ渡っていく。それは人間とて同じなのだろう。伊良湖崎への私の旅は、渡って行った母を改めて送る旅だったのかもしれない。サシバの消えた空を見ながら、そんな風に考えていた。(2006年10月11日)

 

ハマナス バラ科  径7から8センチの五弁花を枝先に二三個つけ、平開する。中央に多数の雄しべがあり、甘い香りがする。アジア東北部の海岸近くに分布。平たい球形の実が赤く熟す。

 
 
 
     
    目次
    ページの一番上へジャンプ