料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ツルリンドウ
 

 今年は秋が暖かくて紅葉も遅れぎみだったが、12月の声を聞くというのに雑木林の足元にはまだお伽の国の赤い靴よろしくツルリンドウの実が転がっている。
 靴といえば、私のダンスシューズを母が誂えてくれたこと、銀座のワシントンに私の靴の木型が置かれていたこと、フィギュアスケートの靴を揃えてもらったことなど、幼い頃の靴に関することは以前にも書いたが、注文品はこのような靴の類だけであった。洋服や帽子はみな母の手作りだったのである。

 七五三の洋服も母が作ってくれた。その頃も七五三といえば和装が多かったので、ベルベットの白いドレスはかなり珍しかったかもしれない。写真の私は年齢の割に大人っぽく、手に提げた金太郎飴がそぐわない。髪をポニーテールにして、コサージュのように派手なリボンをつけている。足元はもちろんワシントンの靴。
 母自身も足元には贅沢をしていた。また帽子好きでもあった。外出というと鏡台の前で箱をならべて悩む母の姿があった。

 帽子をかぶったキューピーの話をしよう。
 キューピーは貯金箱になっていて、幼時にその名で呼ばれていた母のために私がプレゼントしたものである。直後に母が棚から落とし、頭のてっぺんが欠けてしまった。「大丈夫、帽子をかぶせれば大丈夫」と母はしきりに気にしていたが、私の方は捨ててしまえばいいのにと思っていた。
 しばらくして棚に戻されたキューピーを見て驚いた。本当に帽子をかぶっていたからだ。色はベージュでフェルト製、フリルのついた紐がくびれのない首で結ばれていた。もともと万歳の形をした貯金箱だったのでキューピーが喜んでいるように見えた。

 小銭が入らなくて軽くなったせいか、帽子でバランスが崩れたせいか、貯金箱は何かというと棚から転げ落ちた。その度に母が調べるのだが、頭の欠けがそれ以上大きくなることはなかった。
 帽子をかぶって一年くらい経ってからのことである。高校生になった私は水上スキーの社会人クラブで競技に明け暮れる日々を送っていた。ある日、合宿に出ようとしてスキーの板を当ててしまい、貯金箱を落としてしまった。これは致命的だった。キューピーは大きな亀裂の入った笑顔になって床で万歳をしていた。
 一週間して家に戻ると貯金箱は姿を消していた。母がやっと捨てたのである。(2006年11月26日)

 

 

ツルリンドウ リンドウ科 径1センチほどの長めの球形の実。長い柄の先につく。先端に雌しべの花柱の先が残り、基部のほうはかれきっていない花冠に包まれる。

 
 
 
     
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