料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ツクバネ
 初釜のお床でツクバネの実を拝見した。いつも感動するが今年は特に素晴らしかったように思う。きりりと形がしまり、今にも空へ飛び出しそうな勢いがあった。ご亭主は秋に生った実を大事に保存なさったのだろうか。残念なことに私自身は山でこの実に出会ったことがない。緑もしくは淡茶なので枝葉の色に紛れて気づかないのかもしれない。

 ツクバネから連想するのはもちろん羽子板だろう。私も小さいときはずいぶん持っていた。母の好みからか歌舞伎から題材をとったものが多かったが、それらはすべて飾り用であった。実際に羽根突きをするのはもっと小さい扁平な板だった。朝日や草花が簡略に描かれていてそれなりに風情があったが、すぐに薄黒くなってしまった。ツクバネを落とした側の顔に墨を塗る間に汚してしまうのである。
 三が日の母との羽根突きは恒例の行事だったが、一度だけやらなかった正月があった。受験のときである。
 私は六年生の後半になってから私立への受験が決まったので大変だった。塾へ通い出したり家庭教師がやって来たりして、それまでも僅かだった外での自由な行動が封じられたからである。

 試験当日、校舎脇で母が寒そうに待っていた。
「で、どうだったの、なんとかいけそう?」「・・名前・・まちがえちゃった」
「なんて間違えたの?」「三国連太郎って・・・」
 それは荒城の月の作者は誰でしょう?という質問だった。滝廉太郎と書くところを、つい三国連太郎と書いてしまったのだ。母はしばらく呆れたような顔をしていたが、「他にも、そんな間違えしたとこあるの?」と訊いた。「たぶん、ない・・」「なら、だいじょうぶよ。ね、元気出しなさい」
 そばにテニスコートがあって、純白のユニフォームを着た男女が練習にはげんでいた。
「ここに受かったら、何がしたい?」「テニス・・・」
 美智子さまが皇太子妃になられてから世はテニスブームであった。

 運良く合格し、真砂小学校から校長先生が祝いの品を携えて駆けつけてくださった。頬を紅潮させて出迎えた母の姿を思い出す度に、あれが親孝行の最後であったかと忸怩たる思いにとらわれる。
 入学後、願い通りテニス部に入ったが、人数が多いせいか素振りばかりやらされるので止めてしまった。
 答案用紙に私が大書した三国連太郎さんの名は今でも頻繁にお見受けするが、真砂小学校の名は統廃合で消えてしまった。
 校長先生にいただいた万年筆もいつの間にか姿を消した。(2007年1月31日)

 

 

 
ツクバネ  ビャクダン科  雌株の枝先に4枚のプロペラを持った7から10mmの長卵形の実がつく。塩漬けにして正月の茶事に使ったりする。
 
 
 
     
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