料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

 
花族
 
 
 
カタクリ
 小菅村の、ある寺の境内にカタクリの小さな群れを見つけて通ったことがある。ちょうど田舎に家を探していた時期だった。かれこれ二十五年は経つだろうか。ほどなく念願かなって農家を借りることができたわけだが、山梨も長野に近い場所だったので、以来小菅村へ通うことはなくなった。

 一度、その小菅村近くで家を借りられそうになったことがある。ところが突然、家主の態度が豹変してしまった。私たちはわけもわからず他所を探すことになったのだが、おそらくは見てくれとか、自由業であるとかの問題だったのだろう。
 それとよく似た経験を後々、高速道路のSAですることになる。懇意になったレストランの従業員の世話でその辺りに畑を借りることになった。レストランの責任者が土地持ちで畑が余っていた。偶然レストラン内で姿を見かけ、ご挨拶をと従業員と近づいたら逃げてしまった。答えは無論「ノー」。毛色の違うものが排斥されるのは動物の世界と同じなのだろう。話をするチャンスも与えられなかった。そのとき主人は派手なアロハシャツ、私は上下が黒で同色のウエスタンハット、つまり黒尽くめだった。
 思い出のカタクリの紫が切なく感じられるのはそれらのせいもあるかもしれない。

 小学生時代、母親が芸者さんの子がいた。学校は違ったが、教会か何かのバザーで知り合いになった。
 ヨウ子ちゃんは普段、お祖母さんと暮らしていた。家には三味線や着物が何気なくおかれていて、やはりどことなく粋な雰囲気であった。お祖母さんの方は昔、着物の仕立てを生業にしていたようだ。
 その家で一度だけ母親を見た。春色の着物姿そのままに表情も明るく、小顔の美人であった。子供の私に愛想よく「いらっしゃい」と言うと、風呂敷包みをかかえたまま二階へ向かった。髪飾りがカタクリの花びらのようにパラパラとそっくり返り、暗い階段を光りながら上がっていった。「アタシがあげたんだよ」。ヨウ子ちゃんがクスクス笑った。夜店の安物だったのである。「でもね、お誕生日にはカネヤスでバッグを買ってあげたんだ」と胸をはった。
「すごいね」「うん」
 会話はそこでおしまいになった。カネヤスとは、「本郷もカネヤスまでは江戸のうち」の、あのカネヤスである。
 やがてお祖母さんがお菓子を出してくれた。私は遠慮して食べなかった。家では母が必ずおやつを作って待っていてくれたし、高級そうなお菓子を一人で食べることも辛かった。私もヨウ子ちゃん同様、母を大切に思っていたから。(2007年3月12日)

 
カタクリ ユリ科 花被片6枚をくるりと反転させ、内側の黒紫色の模様が目立つ。同色の雌しべが突き出ている。葉が二枚なければ花をつけない。根茎にデンプンを含んでいる。
 
 
     
    目次
     
    ページの一番上へジャンプ