料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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豆グミ

 四月になると小さな庭にマメ桜が咲く。三年前に植えたいソメイヨシノの元気のないのに気をとられている間に、端のほうでひっそりと咲く。去年など気付かずに終わってしまった。豆という字がつくほどだから花が小さい上に他の木の陰に寄り添うように立っているからつい見過ごしてしまう。寄り添われているのはズミの木である。これも小さい花だが沢山咲くので目立つ。花期はマメ桜のわずかに後である。多くはこの花に気付いて、終わりかけたマメ桜を発見する。木などわずかしかない庭だというのになんとも申し訳ないことである。
 ズミが終わってしばらくすると、隣との境の斜面に野生のグミが咲く。マメグミの一種だと思うが、これが咲きだせば四月も終わりだ。グミの花はことに小さい。それなのに気付くのは香りが漂うからである。
  この三本の木は私たちが来る前からこの土地にあった。過酷な条件の中で生きながらえてきたつわものである。私たちも苗木をいろいろ植えてみるが、どれもうまくいかない。椿の類は全滅に近い。小石だらけの土は雨で粘土になり、乾いてコンクリートになる。穴を掘るのも至難の業という火山灰地なのだ。
 その中でムクゲばかりは元気である。十センチに満たない苗を知人に十本ほどいただいたのだが、これが信じられない速度で育っている。いい気になって自分でも挿し木をしたりする。とにかく強風や日照りをものともしない。念願の、木陰のティータイムは近いかもしれない。

 グミちゃんと呼ばれた子のことを書きたい。本当は久美子というこの小学生はたった一年を一緒に勉強しただけでの友ある。お父さんの仕事の関係で頻繁に小学校が変わるらしかった。そのことを久美ちゃんは気にしていないようだった。「いつでも引越しできるように整理整頓うまいんよ」「お母さんも?」「ううん、下手。だからあたしがみなやるんよ」
 久美ちゃんの話し方がおかしいと男子生徒が「そうなんよ」「ああなんよ」とふざけたことがあったが、久美ちゃんはこれもあまり気にしないようだった。 そのうち誰もからかわなくなった。

 千葉への遠足で薩摩芋を掘ったのが唯一の思い出らしい思い出だろうか。上手にお芋を引き抜くので先生が褒めると、土のはねた久美ちゃんの頬が赤く染まった。グミというのはこの赤くなるほっぺからつけられたあだ名である。そう呼ばれるとあまり嬉しそうな顔をしなかったように思うが、お別れ会のときに私にくれた絵葉書には実に立派なグミの絵が添えられていた。
「葉書はポストにいれなくちゃ」。今度は私が照れる番だった。「こうしたら切手いらないんよ」と久美ちゃんは小さな声で答えて、いつものように顔を赤くした。
 

 その後久美ちゃんから葉書はこなかった。住所がわからないから私も出さなかった。
 もう顔もよく覚えていないが、小さくて渋い野生のグミを口にする度にグミというあだ名の少女がいたことを思いだす。(2008年4月30日)

 
豆グミ  グミ属 落葉低木 山地に生え、高さ2〜3メートルになる。果実は約1センチの広楕円で7〜9月に赤く熟す。実は渋い。

 
 
 
     
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