料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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イチヤクソウ

 我が家への坂道の上り口でイチヤクソウを見つけた。今にも崩れそうな急斜面によくぞ咲いたものである。事実、ここは大雨の度にいくつかの小石と土砂を落とす。それが少し心配だ。
 イチヤクソウとは一薬という意味だそうで、野草ハンドブックには「煎じて脚気に、葉や茎の汁は切り傷にもきくのでニ薬草かも」と書いてある。

 ニ薬で思い出したのは、富山の薬売りのことである。
 子供の私はおまけの紙風船が楽しみだった。折りたたまれている硫酸紙を丸く開くとアラブの帽子のようになり、息を吹込めば赤、緑、黄、白の色鮮やかな球形になる。手の上でトントン飛ばす乾いた音がなつかしい。
  薬売りは大きな荷物を縁側に置いて、母の出すコーヒーに鼻をならしている。継父がコーヒー好きで毎朝手動で豆を挽いていたので、我が家はいつも良い香りがしていた。四十がらみの、その薬売りもコーヒー党だったのだろう。缶詰だったからエバミルクのようなものだろうが、とにかくそれをちょろっと入れ、お砂糖はたっぷり二杯掬って嬉しそうに飲んでいた。私は十六になるまではと飲ませてもらえなかったので、一挙手一投足をという感じでじーっとその姿を見つめていた。薬売りのほうは小さな子供のそんな仕草に慣れっこなのか、大して気にする風もなく、まだ若くて美しかった母を相手にとりとめもない話を延々としていた。
  半年後か一年後か、次に来たときには継父が恐い顔で新聞を読んでいたので長居はしなかった。それでもコーヒーだけはしっかり飲んで帰った。後で継父が「油を売って」と舌打ちをした。あの人は薬のほかに油も売るのかと聞いたら、母がころころと弾けたような笑い方をしたので吃驚した。ずっと後になっても母がこのときの話をして笑うものだから、「そんな小さなときのことを」とむくれた覚えがある。
 
  富山の薬売りのおかげで母の薬箱はいつ何が起きても大丈夫のようになっていたが、マーキュロ以外に使っているのを見たことがない。ひょっとしたら熊の胆なんかは継父が飲んでいたかもしれない。毒消しというのがあったが、あれはどんなときに使うものだったのだろう。

 母はひどい頭痛持ちだったが、薬は飲まずに温湿布でしのいでいた。熱湯につけたタオルを絞りおでこに当てるのである。自分でできないくらいひどいときは私が絞った。苦しそうだった母の表情が和らぎ、「お茶漬け作れる?」と言えるようになると、勇んで梅干入りのお茶漬けを作ってあげた。
 その私も今やひどい頭痛持ちで、一ヶ月に一度は同じ方法でしのいでいる。(2008年5月31日)

 
イチヤクソウ イチヤクソウ科 常緑多年草 山野の林の下にはえる 白色の花冠は梅に似て深く五裂する。ベニバナイチヤクソウは深山の樹林下に、ジンヨウイチヤクソウが針葉樹林下にはえる。
 
 
 
     
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