料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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タカサゴユリ

 山梨の最初の住まいは築ニ百年を越える家であった。住人が下の村に移るというのでお借りすることになった。廃屋や民家がもてはやされ始めた時代である。
  大きな養蚕農家で二階が広く天井も高かった。玄関脇には馬小屋まであった。雨戸を開けてもらうと廊下に大蛇の抜け殻が干してあった。聞けば縁起がいいものだとか。それでも抜け殻は早々に片付けてもらった。
  ヘビに好まれる造りなのかそれからも度々入られるのが難儀だった。ヤマカガシや蝮といった類もたまにはあったが、大方は青大将だった。追っても追っても入り込むわけは後でわかった。天井裏にコウモリが住んでいたのである。
 
  山梨での過ごし方にも慣れ食事も楽しくなったある晩、目の前をすーっと影のようなものが流れた。暗い家のことだから目の錯覚だろうと思っていたら、半年ほどして電灯の下をこちらに向かってくるコウモリを見た。体が黒い、というより闇色といったほうがいいような深いやわらかい色だった。口が大きくて笑っているようだった。二階を書庫がわりしていたのだが、上がってみると全部糞に埋まっていた。

  考えてみれば住めないから空いた家なのである。裏側などは壁が全部落ちていた。コウモリどころか人間だって簡単に侵入できた。事実、誰かが入り込んでワインを持ち出したことがある。そちらは泥棒猫とあきらめたが、そのうち本物の猫も出入りするようになった。敏捷な野生の黒猫だった。
  裏の林で赤ゲラの音に聞き入っていたら、その木を猛スピードで駆け上がる彼がいた。コジュケイの群れを目指して跳ねる姿も見た。どれほどの鳥が餌食になったことか。その中に我が家のコウモリもいたことになる。
 
 猫に限らず野良犬も多かった。ある時、家に着いたら玄関先で野良犬が死んでいた。前の道で車にはねられたようだった。誰かがうちの玄関先に投げ込んだ。その者の心を量りかねて私はしばらく通うことができなかった。
 翌年、犬が投げ込まれた場所にタカサゴユリが咲いた。これが不気味に思えて、行く足が再び重くなった。
  しかし、週末にしかいない住人である。野良犬は庭の隅にでも住み着いていたのかもしれない。身を引きずりながら玄関先までたどり着き息絶えたのかもしれない。家を借りてから数年煩わしい事件が続いたので、気が滅入って悪い方にしか解釈できなかった。
 その後もタカサゴユリは咲き続けた。今ではありがたい花だと思っている。

 十年後、家は解体され、私たちは少し離れた場所へ移った。
  近頃は野良犬をあまり見なくなった。逞しい黒猫は五、六年前まで生きていた。(2008年8月27日)

 

 
タカサゴユリ  ユリ科 台湾原産 高さ70から200センチ。種子が飛び散って一年以内で花をつけることが多い。

 
 
 
 
     
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