料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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夕顔
 今年は源氏物語千年紀とあって、様々なイベントが行われているが、そのどれをも見る機会がなく今日に至ってしまった。その代わりといっては何だが、私自身が源氏物語の「夕顔」の語りに挑戦している。今までも「葵」はやったことがあったが、どちらもまだわずかな人にしか披露していない。拙い芸を見せられる人もたまったものではなかろう。
 男っぽい性格なので平家物語の方が性に合っていると思ってきたが、近年は源氏の女たちの心の闇に惹かれていく。どのような性格、年齢であろうと、男は男であり、女は女であるのだろうか。

 昔、「お妾さんの家」というのがあった。路地の中ほどの低い竹垣の家で、暑い盛りでも簾を垂らし、玄関もきっちりと閉まっていた。子供にもお妾さんは美しいものと決まっていたのだろう、その家の前を通るときは皆、首を伸ばして覗き込むように歩いたものだ。そのとき竹垣に絡み付いていた蔓が、今思えば夕顔である。それをあげたのが私の母だということも後年知った。浴衣の仕立てなど頼まれていたようだ。
 その家に不幸があり死んだのはお妾さんらしいと聞いた子供たちは、揃って葬式を見にいった。別の家かと見紛うほど開け放たれた玄関から、奥にある遺影が見えた。それがえらく歳を取った女性だったことに仰天してしまった。考えてみればお妾さんだって歳を取る。それでも男子などは不謹慎にも笑いながら駈け去ったことであった。

 中学生になると、母の目が悪くなって洋裁ができなくなり、本郷の家を手放さなければならなくなった。母と私は代々木の小さなアパートに落ち着いた。二階に有名な政治評論家の彼女がいた。色白で背が高く、大きな目をした美人だった。挨拶など一度もしなかったが、声だけは聞かされていた。つまり尋常でないときに洩れる声である。それも昼間からだ。評論家が訪ねてくるとはじまる。いくら子供でも徐々に察するようになる。同時に反発も生まれる。子供特有の潔癖感もあったが、実父が女性をこしらえては母を泣かせ、そのために捨てられたような母娘だったから人一倍不倫を憎んでいたのである。きっと鋭い目で評論家を見、女性を見たであろう。一年ほどして女性は越していった。その後をうちが借りて、私の部屋になった。
 二階から見ると、狭い庭で母が夕顔に水をやっている。そのゆるんだような白色にうんざりして、成人するまで夕顔が嫌いだった。

 今、我が家に咲く夕顔を自慢げに飾って源氏を語る私を見たら、母は開けた口がいつまでも閉まらないことだろう。(2008年10月31日)

 

 
夕顔 ウリ科 アフリカ、熱帯アジア原産。ヒョウタンはこれの一変種。果実は円筒形と扁平と。前者は生食するほか花器などに。後者は干瓢にする。ヨルガオも夕顔と呼ぶ。
 
 
 
     
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