料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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マユミ
 本郷館からすぐのところに求道会館というのがあった。この異国風の建物にはまるで覚えがない。こちらも古いのか大理石に時を経た趣がある。上の方には落ち着いた色のステンドグラスが幾つか見えて、今風に言えば、なかなか美人な建物である。当然、本郷館を通ればここを通るはずで、しかも昔の我が家から一、二分の距離にある。知らないはずはない。それなのに覚えがない。そこで立看板を読んでみると、この浄土真宗大谷派の建物は平成になってどこかから移築されたと書いてある。記憶にないのも当たり前なのだ。それにしても心惹かれる建築物である。ヨーロッパの教会堂の空間構成を踏襲していながら、中部には和式の床の間や畳敷きの祈祷室もあるようだ。毎月一度公開しているとのこと。是非、近々もう一度来て、中を見てみたいものだ。

 それから裏通りをやたらに歩き回った。
 通っていた真砂小学校は本郷小学校という名に変わっていた。以前に来たときは建物を壊した直後だったのか、戦場のような瓦礫の山に呆然とした覚えがある。今回はそこに近代的な校舎が建っていたのでまた驚いた。たまに来ると一夜で建物が出現したような錯覚を覚えて不思議である。記憶の中に経緯のページが欠落すると、こんなふうに簡単に異邦者になってしまう。 
 しばらくの間、見知らぬ校庭を眺めていた。明るくて、誰もいない。葉っぱ一枚落ちていないのだ。空気はひんやりと澄んでいる。まるで物語がすべて終ってしまったかのようである。

 真砂小学校の裏門からすぐのところに桜木神社があった。これは昔のままだった。ここでよくかくれんぼをした。お参りをしてまた歩き始めると行き止まりだった。近くの家の人が怪訝そうな顔つきでこちらを見た。知らぬ顔の通らぬ路地なのだろう。そういえば本郷小学校の裏門も閉まっていてカメラが回っているとか書いてあった。不審者が多い昨今では仕方がないことだろう。
 表通りに出ると、花屋にマユミの枝があった。冬の曇空にちょっとほっとする色だった。

 歩きながら真由美という名の女性のことを思い出していた。
 柄にもなくお茶を教えていた時期があって、その頃の生徒の一人である。色白で日本的な顔立ちの、少し鼻にかかった低い声の持ち主だった。たしかにマユミの花の色の着物など似合いそうな女性だった。大学の事務員をしていたが、家が近かったので無理やりお茶の世界に引っ張り込んだ。免状も幾つか取ってもらったと思う。こちらに力がないものだから他人の茶会の手伝いなどに彼女を使って、ずいぶん苦労をかけた。今頃は良いお母さんになっていることだろう。(2008年12月15日)

 

 
マユミ ニシキギ科の落葉低木。日本全土の山野にはえる。雌雄異株。材を細工物、樹を庭木とする。
 
 
 
     
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