料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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フキのとう
 

 以前借りていた農家は庭が二段になっていて上はほとんど通路、下が果樹園になっていた。狭い敷地に柿やら栗やら梅やら何本もあって、その上竹まで生い茂っていたから、足元は落ち葉と腐った実や栗のイガなどが山をなしていて歩きにくかった。
  畑にしようと試みたこともあったが、日当たりの悪さがネックになり結局あきらめた。耕した後は急激に山蕗がはびこり、重宝していたミョウガの群れまで消してしまった。

 山蕗は茎が細くて始末が面倒だがキャラブキにすると美味しいものである。しかし作ったのは最初のうちだけだった。誰彼が炊いたものを持ってきてくれたし、そちらのほうが格段に美味だった。私はどうしても薄味に作ってしまうが、山のものはどちらかというと濃い味にしたほうがアクにまけず、舌に馴染むようだ。
 フキのとうも少しは取れたが、なぜかあまり見た覚えがない。前述のように落ち葉が多く、また以前は雪も結構降ったので見損なっていたのだろう。

 フキのとうで思い出すのは、継父に連れられて行った飲み屋のおかみさんのことである。老女といっていい年齢だったと思うが、ひどく派手な色のカーディガンを羽織っていた。洋装なのに頭は和風に結い上げて珊瑚の簪まで挿していた。場所はよく覚えていないが、家からそう遠くない距離だったと思う。その日は母が寝込んでいて晩飯がなかった。

 立て付けの悪い戸を開けると「あら」とその人が゙言った。その人は誰が入って来てもそう言った。「いらっしゃい」とは言わない主義らしかった。継父が何も言わずに私の方を顎でしゃくって見せた。するとその人は袖をまくってチャッチャとおにぎりを作ってくれた。指の跡がへこんで見えるようなおにぎりで美味しそうではなかった。それでも食べないと叱られると思ってむりやり呑み込んだ。おにぎりと一緒に出されたのがフキのとうを煮たものだった。これは旨かった。ぺロリと平らげると「あらやだよ、この子は親に似て酒飲みになるよ」と空いた小皿に足してくれた。親とは継父のことである。本当の父親でないことを知っている私はおにぎりがのどに詰りそうになった。盗み見る顔は静かに酒を飲んでいる。私が知っていることは隠さねばならないと必死で思って、パクパクとおにぎりをほおばり続けた。
 

 先に返されたが、遠くないはずの道が途中でわからなくなった。その上お腹が痛くなった。我慢して暗い中を走り回り、やっと家に戻った。母の枕元に行くと「どうしたの?顔が青いわよ」と母が起き上がって私の背中をなでてくれた。とたんに食べたものを吐き出してしまった。その夜はいつまでも口の中にフキのとうの匂いがした。長く蕗が食べられなかったのはそのせいである。(2009年2月28日)

 

 
 菊科。早春、多くの鱗片状の包葉をつけた花茎を出す。雌株の頭花は糸状の白い小花からなり実を結び、雄株の頭花は黄白色の筒状花からなり、両性ではあるが不稔となる。
 
 
 
     
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