料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

 
花族
 
 
 
エゴノキ


 久しぶりにエゴノキを見た。いつも通る公園なのに、それまでそこにエゴノキがあるとは知らなかった。地面に白い花びらが幾つか散っているのに気づいて見上げたら優雅な形の花が満開であった。
 この木を庭にとねだったら主人に反対されたことがある。実が毒だからダメだと言うのだ。主人は木であろうが草の類であろうが、少しでも毒と書いてあると許してくれない。飼い犬にもしものことがあったらと心配するのである。その辺は私のほうが大まかで、動物には免疫があるから大丈夫じゃない、などといい加減なことを言う。事実、葡萄というのは犬に食べさせてはいけない食品だそうだが、最近までそうと知らずに我が家の犬は二代に亘って葡萄を食べていた。手ずからやるのではなく、知人の葡萄畑で立ち話をしているときなど、落ちている葡萄を食べるのである。元々桑の実が好きで、路上が赤黒く色付く頃になると舌を染めて食べまくっていたから、葡萄も同じように考えて止めさせなかった。暢気なものである。

  エゴノキの毒というのは実の皮を食すと喉を刺激してエグいのだそうである。死ぬことは無いにしても、下痢や痙攣でも起こしたらやはり往生するだろう。しかしエグさだけでいうなら周辺は毒の山である。山菜や筍、時には畑の野菜でさえ土地柄のせいなのかエグい。家で作ったジャガイモが食べられなくて捨ててしまったことがある。隣人にいただくジャガイモもやはりエグかった。犬はともかく私自身はエグさに特に弱いようである。
 
 かつて、リョウという青年がいた。下北沢のロック喫茶で知り合った。学生だったのか無職だったのか。聞いたかもしれないが覚えていない。その頃は他人にあまり興味がなかった。ただひとつ、彼の「あいつはエゴイストだ」という言葉だけはよく覚えている。口癖だったのだろう。
 おでん屋でもリョウに会った。隣り合った人間と親しそうに話をしては酒をねだっていた。年下の私も時々奢ってやった。私はまだ酒が飲めなくて、わずかな小遣いも使い道がなったからだ。私は夕食を母のお茶漬け屋に食べに行っていたが、お客さんがいるとどこかで時間を潰さなければならなかった。店を手伝うようになってからも嫌になるとすぐに逃げ出して喫茶店やおでん屋にいた。
 私とリョウは気が合っていたと思う。お互い好きな相手がいたが、不思議とその話はしなかった。ただ「やあ」と会い、リョウが一方的に喋り、「じゃまた」と別れて、しばらくすると本当にまた会った。もっとも行く場所は限られていたから会うのが当たり前ではあったが。
 そのうちに姿を見なくなった。郷里へ帰ったらしいとマスターが言った。郷里がどこなのかも知らなくて、彼とはそれっきりになった。

 エゴノキを見ていて、リョウの「エゴイストだ」を思い出した。それで急に可笑しくてたまらなくなった。(2009年5月28日)

 
 
 
 
 
     
    目次
    ページの一番上へジャンプ