料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ハンゲショウ
 一昨年ハンゲショウの鉢を買ってきて軒下に植えた。去年はやっと生きている程度だったが、今年になって三倍に増えた。この時期のお茶では欠かせない花なので嬉しい限りである。かつては家の向かいの山に自生していたが、土砂崩れで減り始め、いつの間にか姿を消してしまった。
 ハンゲショウは半夏生と書く。夏至から11日目のことを半夏生といい、その頃咲くからついた名だそうだ。葉が半分白くなるのを化粧の途中とみなして半化粧とも書くらしい。時代劇などで夜鷹と呼ばれる女性たちが首のところを白くしているのを思い出す。
いつだったか、うろ覚えの人が「薄化粧だったからしら」というのを聞いて、半化粧よりはそちらのほうが素敵だと思った。

 昔は家にお風呂がなかったので毎晩銭湯に行った。仕舞い湯に近い時間に行っていた子供は当時は少なかったと思う。母と一緒に行きたいために家の仕事が終る遅くまで待っていた。継父はその時間には決まって留守だった。いつも食事を済ませると飲みに出かけていたのだ。だから母娘水入らずで話せる貴重な時間帯だった。継父は自分でも無口であったが、目の前の私たちのお喋りもすごく嫌っていたから。
 

 銭湯には馴染みが多かった。以前書いた松子竹子姉妹もそうだが、毎晩のように顔を合わせる芸者上がりや、水商売の女性も多かった。そのせいか脱衣所には化粧品の良い香りがただよっていた。中に一人、少し太めの美人がいた。いつも赤いタオルで頭を巻いていたので遠めにもすぐにわかった。この人は身体中に痣があった。色が白くて面積が大きいので痣や傷がすごく目立った。必ず男性と来ていて、帰るときになると男湯のほうから短い声がかかった。今でいうDVを受けていたのだろう。私も同じような痣をつけていたから、この人のことが気になって仕方がなかった。女性は濃い化粧をしていたが、顔を洗うと少し幼い表情になった。覗き込んでいるとにっこりと笑ってくれた。私も精一杯笑い返した。何回か続くと、それが同じ境遇同士の暗黙の挨拶のように思えた。それでも男湯からの声を聞くと私のほうは身がすくんでしまって笑顔どころではなくなった。女性も緊張した顔つきになって、すぐに帰りしたくをはじめるのだった。私は男と鉢合わせしないで済むようにグズグズと時間をつぶした。しびれをきらした母が脱衣所から呼んでも、サンスケが入ってきて掃除を始めるまでいたりした。一度だけ時間差に失敗して出会ってしまった。男は意外に小柄で、とても暴力をふるうようには見えなかった。ただ目つきだけは鋭かった。その目でちらっと私たちの方を見たが、女性はまるで振り返らなかった。嬉しそうに男にしなだれ、下駄の音をはずませて闇の中に消えていった。
 私は母の手をぎゅっと握った。母が握り返しながら何か喋っていた。私は闇を見つめながら、裏切られたような寂しさを感じていた。(2009年7月30日)

 

 
ハンゲショウ ドクダミ科 別名片白草、三白草。茎の頂近くの半分白くなった葉に向かい合い、逆U字型に花穂をつける。半夏生、半化粧、と書く。

 
 
 
     
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