料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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公孫樹
 

 公孫樹(イチョウ)については前にも書いたが・・・。

 今年の十月、ある家の公孫樹が倒れた。樹齢三百年になろうかという大木である。
  その日は台風が日本列島を縦断していて、ちょうど山梨にかかった早朝、凄まじい音と共に横倒しになった。
 背後に大きな竹林があるのだが、徐々にその根が広がって公孫樹の根を締め付けていたらしい。木の根がいじけると病気や菌に冒されやすくなる。それで胴回り六メートル以上の大木が一挙にくず折れたのだ。木にはまるで根がついていなかった。足元が象さんみたいに丸っこいのである。私が見たときには黄金色に染まった枝はすべて切り払われていて、幹に残った僅かな葉が、風に揺れているばかりであった。
 幸い竹林のほうに倒れたので家は無事であった。最後まで家の守り神としての役目を果たそうとしたのかもしれない。

 村にはそれぞれの家に守り神としての木がある。祠を根方に置いている家もある。それだけにショックはいかばかりと思いきや、その家の老夫婦が意外と落ち着いていたので安堵した。
 田舎の人は自然を知っている。守り神といえども歳月や状況の変化には勝てない。木に限らず、山にも畑にも、それこそどこにでもいる小さな神々が万能でないことは織り込み済みなのだ。また新たな木を植えればいい。いつか家を守るようになるだろう。公孫樹だって植えた人の孫の代でやっと実がなるところからついた名だそうではないか。村人は世代を超えたスパンで物を考えてきた。しかし限界集落となった今、次の守り神を植えるかどうかはわからない。
 いずれにせよ、倒れても公孫樹は老夫婦を守っていくだろう。釈迦の涅槃のように荘厳な姿を見れば、誰でもそう思う。

 公孫樹を見た日の夜、寝入り端に浅い夢を見た。人の顔がページをめくるように次から次へ出てくる例のあれだ。地面に寝るといつもこれを見る。このところテントを張る機会がなかったので忘れていたが、その夜は家のベッドで見た。目まぐるしく男女の顔が続いた後、一人の老人のところで止まった。長めの白髪に袖なし羽織のようなものを着ている。性別は不明だ。表情はおだやかだが武道家のように身体には揺るぎがない。
 そこで目が覚めた。あの公孫樹の神様かなと一瞬思ったが、村人にそんな話はしないでおこう。奇異な人間と思われてしまうだろうし、広がる噂も厄介だ。第一、皆そこまでリアルに神に触れたいとは思っていないだろう。混乱させては申しわけない。元々が、無責任な夢の話なのだから。(2009年11月26日)

 

 
 
 
 
 
     
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