料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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サンショウバラ
 

 山中湖に別荘を持つ友人がいる。そこで焼き物を焼き、花の写真を撮っている。一帯は植物の宝庫でサンショウバラの自生地としても有名である。別荘は川辺に建つが、その川の中にまでサンショウバラが生えている。大雨で地形が変わり岸辺の木が取り残されるのだそうだ。遠からず朽ち果てる運命ならばと友人に枝を切り分けてもらう。しかし根付かなかった。切り口から黴菌でも入ったか、乾燥地へ持ち込むことに無理があったか。主人は諦めきれずにまだ水をやっている。

 ある時、別荘の近くで一人の男性が家を建て始めた。世の中そういう気骨のある人がたまにいるものだ。しかしその人が世の中の人と違うのは、材木を運ぶため斜面に道を作り、川に橋を架けてしまったことだ。道はとうとう友人の別荘前に広がってきて、そこに作業小屋まで作ってしまった。そんなある日、男性は忽然と姿を消した。建築中の家と作業小屋と橋を残して。
 久しぶりに友人に会ったので聞いてみると、家は危ないからと誰かが来て壊したそうだ。作業小屋はまだ別荘の前にあるという。橋もそのままで、もっぱら友人の犬が愛用している。

 一度、この男性を私たちの村へ招待したことがある。借りていた農家は崩壊寸前で、いよいよ新しい小屋をと思い始めた頃だった。とはいえ資金が豊富なわけもなく、先達の知恵を必要としていた。
 土地を見てもらった後、ラーメン屋で話しをした。
「なあに、いくらでも安く上がりますよ。ちょうどカナダから材木が届くところでね。一度見てみたらどうです?」
 家を一人で建てたことも一度や二度ではないそうだ。主人が「ほーう」と息を長く引いた。男性に聞けばいとも簡単に家など建ちそうだった。
「来週、東京へ行きますよ。カノジョが店をやってるしね。そこのランプが実にいいんだな、味があってね」
その笑顔に屈託がない。こちらもつりこまれて笑顔になる。その日駅前で別れ、結局それっきりになってしまった。向こうから連絡をするからと、住所も電話番号も知らされていなかった。悪い人とも思えなかったが言動は理解の外と言うよりほかない。
 
  あの時、闇雲に材木を注文しなかったのは主人にしては上出来だったと、その手の夢を見ない私は胸を撫で下ろしたことである。(2010年6月29日)

サンショウバラ  バラ科 富士山、箱根周辺に自生する落葉低木。よく分枝する。径3cmくらいの球形をしたトゲのある実は頭部にガク片が残り、形がおもしろい。

 
 
 
 
     
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