料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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タカサゴユリ
 

 ユキヤナギの株の中から背の高いタカサゴユリが顔を出している。隣の斜面に去年出ていたのがタネを飛ばして移動したようだ。毎年楽しみにしているのだが、条件が悪いのかあまり増えてくれない。

 最初に借りた農家の出入り口にこのタカサゴユリが立っていて、幅のある車では邪魔になったと以前にも書いたが、その後も微妙に位置をずらせてタカサゴユリは咲き続けていた。それがある年とうとう一輪もなくなった。と思ったら、隣家への通路際に生えてきた。その小さな三角のコーナーはずっと虫取りナデシゴの占有地のようになっていたが、そこへ数本、まるでUFOから降りてきたばかりの宇宙人のように頼りなく風に揺れていた。
 
  隣家は両親に長男、長女の四人暮らしであった。次男がいるようだったが他所に住んでいて私たちは顔を知らない。長い間に父親が亡くなり、長女は嫁ぎ、母親も亡くなった。そして最後に残った長男までもが亡くなってしまった。自ら命を絶ったのである。
 この長男は本当に親孝行な人だった。病弱な母親を優しく介護していることは村の誰もが知っていた。母親の方も尽くしてくれる息子に感謝して、不自由な足を押して辻にある道祖神まで毎朝お参りに行っていた。どうぞ、息子に嫁が来ますようにと。自分の病弱が息子の縁談の障りになっていると考えていたのかもしれない。
息子は親を思い、親は息子を思う、今の世には珍しい、情のある親子だった。こんな優しい男性なら、お嫁さんがきたらきっとその人にも尽くしたろう。それなのに、とうとう縁には恵まれなかった。

 隣同士なので何度か遊びに来るようにと誘った覚えがある。しかしついぞ顔を出すことはかった。その時はこちらへの反感があるのだろうと思っていた。私たちも当時はまだ若く、誰かれ友人を呼んでは大声で夜遅くまで酒を飲んだりして、節度ある隣人とは言えなかった。それでも道で会えば礼儀正しく挨拶を返してくれた。結局真面目な人だったのだと今は思っている。
 

 印象に残る思い出がある。ある年の村の祭礼で翁の面をかぶった彼にお餅を手渡されたのである。村には守護神社があって古い神楽舞台が残っている。その上でゆらゆらと舞いながら餅を配っていた。それは本当に神が宿ったと思えるほど無邪気で楽しげな姿であった。翁は順番だからとこなせる役ではない。それをあそこまで奔放に振舞えたのには、秀でた感性があったからだろう。普段は人見知りの、意外に闊達な一面が表出した瞬間であった。場所を得ればどれだけの仕事を成したことであろう。
どのような苦しみがあったか他人に計り知ることはできない。それでも、なんとか生きる道を模索することはできなかったのかと残念でならない。
赤いピックアップを運転しているのを村道で見たのが最後になった。

  誰もいなくなった家は今もひっそりと建っている。きっと今年も三角形のあの場所でタカサゴユリがゆらゆらと白い翁の舞を見せていることだろう。(2010年8月16日)

タカサゴユリ ユリ科 台湾原産。日本にもよく植えられ野生状態になっている所もある。匂いはあまりない。小さい球根があるが、細かい種子が飛び散ってそれにも花をつける。

 
 
 
 
     
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