料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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キキョウ
 

 久しぶりにキキョウの紫を見た。車の中からだったが間違えようが無い。園芸品ではなく自生しているキキョウだ。斜面にたった一輪咲いていた。野草にしては花が大きいことも目立つ理由である。山百合と同じで、そのことがまた激減する理由でもある。温暖化の前に人の手によって掘られ姿を消すのだ。

  村へ来た二十数年前は山にも里にもごく自然に見られる花であった。借家の裏山にも沢山咲いていた。群生というほどではないが、ある一定の距離を置いてどこまでも続いている。それがすっかりなくなってしまった。失ってみると、その寂しそうな佇まいが運命を予告していたようで、こちらまで寂しくなる。

 話は飛ぶが、つい先日池内淳子さんの訃報に接して涙がこぼれてしまった。知人というわけではない。特に映画やテレビドラマを選んで観ていたというのでもない。それでもどこかで存在してくれていることに安らぎを覚える女優さんだった。特に着物姿が上品で美しかった。日本人が自国の女性として誇りを持てる人だった。新聞には「日本のお母さん」と書かれていたが、庶民派にしては風格があった。そして少し寂しげだった。たまたまキキョウを見た後だったので、なるほどキキョウのような美しさだったなと思った。

 あれは小学校のニ、三年の頃だったろうか、一度ドラマでご一緒したことがある。台本の読み合わせで出演者が大きなテーブルについた時、私の真向かいが池内さんだった。淡い色のセーターを肩に羽織っていた。私のような子供がその場にいたということは、こっちにもいくらか台詞がついていたのだろう。

  子供時代は二つの児童劇団に関係していて、しょっちゅうオーディションを受けていた。受かってもチョイ役ばかりだったし、たまに台詞があっても一言か二言だった。大きな役がつきそうになっても最終段階で柄が大きいと撥ねられた。結果的に小柄な大人になってしまったが、子供時代は年齢の割に大柄だった。
テレビドラマではこんなこともあった。花壇の脇で誰かを待っている役だったが、つい退屈して花を一輪摘んでしまった。それが思いもよらず造花だったものだから変な音を立てて土の部分までころげ落ちてしまった。本番ではなかったからいいようなものの、監督さんに睨まれたのは言うまでもない。

  池内さんとご一緒のときに戻ると、せっかく台詞があったというのに内容はまるで覚えていない。テレビか映画かも思い出せない。それでも池内さんの透き通った美しさだけは脳裏に焼きついている。きっと私は池内さんばかり見ていたのだろう。池内さんがこちらを見ることはなかった。池内さんと絡む場面はなかったということだ。お開きのときも、恐れ多くてご挨拶をしそびれてしまった。それを無念に思ったのか家へ帰ると感想を聞く母に、「冷たい感じだった」などと意地悪を言っている。(2010年9月28日) 
 

キキョウ キキョウ科 北海道西南部から琉球まで分布する多年草。雄しべが先に熟し、後で雌しべの柱頭が五つに別れ、他の花から受粉する。

 

 
 
 
 
     
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