お料理とワインの店 BISTRO KRI-KRI
   

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  ますたーのおくさんのこーなー  
     
  いぬけい  
     
 
左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  犬の名前  
     
    との、スイカ、ひじき、三年、アチャ、チャツネ、ものぐさ、デン助、なまけもの。
  この一群の名前(そう、名前なのだ)は、タケシ軍団のメンバーの名前ではない。レッキとした犬の名前なのである。現に狂犬病予防週間になると町のあちこちで、
「さあ、デン助くん、すぐ終わるからね」
 とか、
「飼い主さん、この犬、えーと名前は、えっ、ものぐさあ?とにかくなんでもいいから、おさえててくださいよ、いいですね?」
 などと白衣の獣医が言っているのを耳にすることができる。

 もちろん、こんなふうに奇妙かつ遊びゴコロあふれたもの以外にも、バロンだのアーサーだのといった昔からのオーソドックス組も健在で、そうくれば女性陣もクイーンありエリザベスあり、つづけてスージー、ジゼル、ルビー、ビアンカ、カトリーヌと、なぜか尻取りまでできてしまう。 

 洋風ばかりが主流ではない。タロウやハナ子は石を投げれば「キャン」と当たり、リュウ・ダイスケ、サクラ・モモコと二つつなげれば、なにやらどこかで聞いたふう。
 
     
   かつて犬がただの番犬でしかなかった時代、彼らはポチとかシロとか呼ばれるのがせいぜいで、なかには名前のないものもいた。終生クサリにつながれ、ぶっかけ飯をくらい、散歩や風呂などというゼイタクな言葉は辞書になく、異性と話すチャンスときたら皆無にひとしい。その腹いせなのか人くれば吠え立て食いつき、ノミを唯一の友として、暑い夏には皮膚病とたたかい、寒い冬には丸くなってじっと我慢のコ。これこそが、ただしき犬の飼いかた飼われかたであった。
 それが空前のペット・ブームである。都市部ばかりではない、かなり田舎へ行っても座敷にリボンなんかくっつけた犬がチンザましましている。
 どうしてこれほどペットが求められるようになったかは、各方面の諸先生がいろいろブンセキ発表なさっていることだから省くとして、数が多くなれば、珍名珍現象があらわれるのもムリからぬことなのである。
 とくに子どもがそのユニークな発想でつけた名前には、実に楽しいものがある。たとえば、ある公園で出会った茶色の犬は、おどろくなかれその名を「ウンチくん」といった。
 
     
  ウンチくん  
     
   その日、カレを連れていたのは上品な初老の婦人であった。
「孫がつけてしまって・・・ホホホ。子どもってホントにナニですわねぇ、ホッ。あたくしたちはしかたなくウーちゃんなんて呼んでますのよ。オホ、オホホホホ」
 と、さかんに口元鼻元をおさえていた。まさかじっと飼い主を見上げているウンチくんが匂うわけでもあるまいが、しかし妙なもので、気がつくと私も口でハーハーと息をしていたのである。
「最初はあなた、シバ犬だと思いましたけどね、なんだかだんだんヘンなとこの毛が長くなってきて」

 ヘンなとこといってもアンナとこの毛ではない。つまり身体の毛並みはシバ犬ふうなのだが、頭部、とくに顔のまん中がモジャモジャと毛が長いのである。目も鼻も口もどこにあるのかわからない。もちろん、それはそれでひどくアイキョウがあってよろしいのだが、印象としては「モップくん」に近い。
 それから話はウンチくんの出生の秘密にうつり、婦人は声を低くしてこう言った。

「いやだわ、ほら、あそこ。まさにあのトイレの裏で孫が見つけたんですの。いやだわ、どうしてこの道きちゃたのかしら・・・。あら失礼、ですから、その、どうしてもトイレにちなんだ名前がいいってきかなくて。ウオーターくんとかペーパーくんとかもカッコいいわよなんて娘たちはすすめてましたけど。結局、孫に押し切られて。ほんとうに子どもっていうのは。ホホ」

 トイレならウンチもわかる。これが図書館だったらゴホンくん、豚小屋だったらハムくんか。ブーくんやトンくんでもいい。とんかつ屋をごろうじろ。大人だってやっておる。だったらトイレでウンチがなぜ悪い。私はすっかり、まだ見ぬ利発そーなお孫さんのシンパになっていた。

 さて感心しながら当の本人、いや本犬に目をやると、長話につかれたのかウンチくん。すっかり地面に丸まって、なるほど雨でふやけた落し物にそっくり。
「それじゃこのへんで、ごめんあそばせ」
 婦人は伸びをしているウンチくんをむりやりひっぱってトイレの彼方へ消えていった。
 あれからウンチくんに会っていない。路上の落し物はよく見るけれど。
 
 
     
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