料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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  いぬけい  
     
 
左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  タキツネと犬とオショロコマ  
     
 

  余市の後は一路、斜里町へ。ここに獣医の友人がいたからである。
  私は彼をひそかにシーラカンスと呼んでいた。顔もそっくりだが、なにより行動が謎にみちていて奇怪なのである。この時も会うやいなや「今晩オショロコマ食べたいんでない?」とさっさと車に乗りこんでしまった。相手の都合もシーラカンス、なのである。
 

 北海道らしくどこまでも真っ直ぐに続く道を、幌つき四駆がゆっくりゆっくり走る。せっかちな私は「ねえ、もっと早くてもいいんじゃない?」と言ってみる。すると「あのね、警官がどっかから見てんのよ」
 なんだかインディアンの襲撃におびえる幌馬車隊のような気分である。さしずめ我は着飾った令夫人。シーラが御者でオットが執事、犬は名馬アオ、じゃなくてサマンサ?
 と、サマンサが急に落ち着かなくなった。車が巨大な森へ突入したからである。森林浴でも満喫しようと首を出すと、御者がヘッドライトをつけクラクションを鳴らしっぱなしにして突っ走る。令夫人、あわてて首を引っ込めたが、ガタガタ道だから今度は頭を天井にぶつけそうになる。「ね、ね、ちょっと早すぎない?それに、うるさいし」
「クマよ、クマクマ、クマよけ、大クマ」
  御者の返事は早口言葉にしか聞こえなかった。

 とこうするうち、一匹のキタキツネが車の前に飛び出してきた。サマンサ、いや犬にもどったハヤテがすさまじく吠えはじめる。ドアのないオフロード車だから今にも飛び降りそうである。キタキツネはクラクションとハヤテの二重苦にたえながら、沢沿いの道を必死で走り続ける。
「ねえーっ、これって、野生動物いじめじゃなーいっ?」
「だーいじょーぶっ、あいつッ、遊んでるんだわーっ」
 やがて目的の場所に着き、車が減速すると、なるほどキタキツネは草の中にさっと姿を消した

 神秘の森だった。深い緑の中に入り組んだ川があった。水は流れているようでもあり、静止しているようでもあった。手をのばせば、とろりと冷たい水がこの身を引きずり込もうとする。そのようにして引きずり込まれたのであろうか、大木が水中に横たわっている。わずかに岸に残った部分にオレンジ色のキノコが生えていた。そのひとつを手にとると「ギャ」というかすかな声が聞こえたような気がした。ほどなくキノコはこなごなに手からこぼれ落ち、足元の闇の中でその色を失っていった。
 だがすぐ神秘の森は、やたらとうるさい森に変じてしまった。理由は言うまでもない。シーラと青ブダイ(オットのことです)のせいである。とにかく声がでかい。森の住人の迷惑などお構い無しである。「おーい、そっちはどうねー?」「こっちはダメダメー。あっちはどうだねー?」「そっちはいいんでない?」「そっちって、あっちのそっち?こっちのそっち?どっちのどっち?」「だからー、そっちのあっちのこっちっち」
 クマもあきれて顔を見に来たくらい。
「ハヤテ、もっと大声で吠えろー」
 そうやってクマも姿を消したがオショロコマも消えた。

 さて数時間後、声を嗄らした幌馬車隊がもどると、シーラの奥さんが「うちのひと、釣ったためしないっしょ。これみんな、もらったオショロコマっしょ」と冷凍庫のドアを開けた。
「あ、また今日もオショロコマだ。ボクもうやだ、やだったらやだやだやだ」
 コうるさく跳ねているのはシーラカンス二世である。ちなみにその名を綾麻呂という。
「アハハハハ、お公家さんでもあるまいし」
 シーラが小さな目をつり上げてこちらを見た。まずい、早くあやまろ。だが、それより先に青ブダイがその大きな口をパクパクと開けてしまった。
「いいよ、ユニークでさ。だけど語尾がROでよかったよ。これがRAだったら・・」
 私が思いっきり蹴飛ばしてやったのは言うまでもない。

 
     
 
     
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