料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  マムシ酒  
     
 

 

 ハヤテは活発な犬だっただけに、ケガの話にはまだまだ事欠かない。


 追突事件からほどなく、背中の皮がまくれ上がったことがある。ハヤテが全速力で走り抜けようとしたとき、車のドアを開けてしまった飼い主のせいである
 盛り上がった皮は子供の拳大、ピンクの肉が大きく見えて、ひどい状態であった。このときは前述の動物病院がお休みで別の病院に行った。院長は長らく大型家畜の獣医をしていたとかで、その場で麻酔もせずブスブスと縫い合わせるという、東京の飼い主が聞いたら卒倒するような荒療治であった。
  その院長から、ハヤテが最後までじっとしていたとお褒めの言葉をいただいた。「病院慣れしてるものですから」とは言えなかったけど。
 病院を辞した直後にもう山登りができたことを考えると、かなり優秀な獣医であったかもしれない。少なくとも傷の具合の他に、犬と飼い主の性格をよく把握していたと言える。

 それからもケガの連鎖はとまらない。
  まず野球のボールを当てられて片目がつぶれたようになった。このときも犯人はオットである。座頭一のようになった目を見て、ふだん謝ることをしない人が「悪かったなあ」としみじみ言っていたのが印象的だった。
幸い目のほうは適切な処置のおかげで元にもどった。
 次には草刈機の刃で足をパックリやった。このキズには往生した。東京の病院に通ったのだがちっとも良くならず、最後には化膿してしまった。
 勢い余って窓ガラスを突き抜けたなんて、ちょっと間抜けなのもあった。
 山から戻れば戻ったで、どこからか血を出していないことなどない。頻繁すぎて病院通いもオックウだった。
 そこで登場したのがマムシ酒である。

 当時の私は村へ着くなりバイクで走り回るのが習慣だった。しかし、さわやかなはずの走行の途中でさわやかでないものが一つあった。ヘビである。私は長いものが超苦手なのだ。
 ヘビが薮から薮へ道路を横断するのは勝手であるが、バイクが音を立てて近づいているのに、なぜもっと急いで渡ってくれない。のーんびりと横断している。その辺りの道が、それこそヘビのように曲がっているのもいけない。
――カーブを曲がったらそこはヘビだった――
 あわてて両足を上げ、結果、こちらがヘビを横断してしまう。アメリカ大陸やサハラ砂漠の横断ではないぞ。一瞬とはいえヤマカガシや青大将やマムシに乗り上げてしまうのだぞ。踵とヘビとの距離はわずかに40センチ、髪の毛が逆立つほどの恐怖である。
 それでもコワイもの見たさというのか、チラッと振り返ったりして。
 おどろかされるのは、轢かれたはずのヘビが折れもせずソソクサと藪にかくれることだ。そんなに急げるなら轢かれる前にやれ。中にはガケを飛び上がる(本当に上手に飛び上がるのだ)スゴ腕(スゴ尾?)もいる。少しホッとする。苦手ではあっても殺したくはない。
 一度だけ、ヘビが動かなかったことがある。チビ青大将のようであった。このときばかりは「神さまごめんなさい。これからはウナギもアナゴも長いものは二度と口にしません」と祈ってしまった。しかしすぐに「たまーにしか口にしません」と訂正して、なんのことはない今までと変らなかったりして。

 それほど苦手なヘビの、しかもマムシの酒がなぜわが家にあったかというとリョージさんのせいである。
 彼は「一升ビンご本尊入り焼酎」なるものを所持していて、迷惑センバンにもそれをぶら下げてやってきたのだ。とっさに私は遠くへ逃げたがリョージさんはかまわず「湯飲みあるかい?」とポンッとビンの口を開けた。ものすごい匂いが私の所まで漂ってきた。
「キズなんか一発で治るよ、身体にもいい。ちょっと飲んでみろし」
 また余計なことを。
「けっこう強そうっすね、あ、いるいる」
 ゲッ!

 というわけで、ウロコ入り小ビンがわが家の常備薬になった。ご本尊入りはゼーッタイ嫌だと私が言い張ったからである。
 さて犬係が私だから、ヘビ係はあちらで、私はどこにそのビンが置かれているのかカイモク知らない。ハヤテがケガをすると、
「ねえ、持ってきてよ、アレ」
「アレって何だ?」
「アレってアレじゃない。アレが持ってきたアレに入ってる、あのアレよ」
 こんなやり取りをしていると、オットがヘビ顔に見えるから不思議である。もっとも、片やヘラ型頭髪無し、片や同型頭髪無きがごとし、片やギョロ目で片やも同じ、片や口裂け片やデカ口。元々似ているのかもしれない。
 後で判明したのだが、リョージさんが持ってきたのは、どうやらオットが農協で購入して彼にあずけていたものらしい。
 再びゲッ!

 昨今はさすがに村でもマムシ酒の話はきかなくなった。ワタシ的にもバイクはご無沙汰である。したがって横断もしていない。例のアレがその後どうなったか知らない。ただし、キズにはたしかによく効いた。

 

 

 
     
 
     
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