料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  ヤマト  
     
 

 

 先日ひさしぶりに代々木公園の斜面に行ったら、公園の中で飼われているオス犬にフェンス越しにしたたか吠えられた。大柄な雑種で名前はたしかヤマトといった。
 ヤマトといえばもう一匹代々木公園に住んでいた犬を知っている。かれこれ20年いや22、3年前になろうか、こちらはドーベルマンのメスであった。
 飼い主は土木の仕事をしながら代々木公園で寝ていたYさんだった。Yさんはコーヒーが好きで時々主人の店にコーヒーを飲みに来ていた。外で待たせているドーベルマンを見たのが、私がドーーベルにハマったきっかけであった。とにかくキツい犬だった。少し近寄っただけでもグワッと噛む真似をする。その形相のすさまじいこと。震えながらも、しかし惚れてしまった。
 

 始めはYさんを訓練士かなにかだと思っていた。20年以上も前にドーベルマンを連れ歩く人は少なかったから。やがて代々木公園に住んでいること、土木作業の現場を犬と転々としてきたことを知った。そしてその飼い方に驚いた。皮膚に腫瘍ができたときなど、切り裂いて腫瘍を取り出し縫い針で縫いつけてしまうというのだ。そういえばそのときもヤマトは皮膚に何かできていた。八歳という年齢からみてこれは悪性の腫瘍だとYさんは説明した。しかも内臓にもできている可能性があると。

 それから数週間してヤマトを預かった。治療費を稼ぐために地方へ行ったYさんの懇願に負けたのだ。
 私はヤマトに対してマフィアの親分に対するように接した。
「トントン・・失礼します」
「ウーッ」
「いえあの、そろそろご飯をと思いまして。こ、こちらに置いておきますので」
「ウーウーウーッ」
「あ、失礼しましたっ、ではごゆっくりハイ」
 部屋といってもいくつもあるわけではない。何かとドアを開けねばならず、「トントン」「ウーッ」は日に何度と繰り返され、だんだんこちらも犬語にタンノウになり、「ウッウッ」「ウーッ」「ゴワンゴワン」などと一週間が過ぎたのである。しかし親分はドッグフードが気に入らないのか口にしない。仕方なく牛の生肉やらササミを煮たのやらと、自分たちでさえめったに口にしないものを用意したがダメであった。飼い主が帰るまでは食わないと決めているようであった。Yさんが様子を見にもどって「ヤマト、食わなきゃだめだよ」とさとすと、ヤマトは翌日から食べるようになった。これ幸いとドッグフードにもどしたのだが、部屋の掃除も命がけで、ああ、ドーベルマンはシンドイと思ったのが正直な感想であった。
 

 かれこれニヶ月ほどいただろうか。その間、戻っていたYさんも連れて蓼科へ行ったことがある。主人の仲間の山小屋修理に手を借りたのだ。
 お礼にホテルのレストランで食事をしたが、Yさんは「肉食べたこと、ヤマト気づくだろうなあ」とずっと心配していた。骨をもらって帰ったが、ヤマトは翌日すごい下痢をした。
 代々木公園にもどして数ヵ月後、ヤマトは体調が悪くなり、手術をしたが死んだ。
 うちがドーベルを飼うと、「会わせて」と訪ねて来ていたYさんも、いつのまにか姿を消した。

 
     
 
     
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