料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  ワガハイは老女である  
     
   

 それからも毎週病院通いだった。動けない大型犬を病院へ連れて行くのは大仕事だ。我輩はひ弱な老女なのである。それまでちょっとでも重い荷物を持つと頭痛で三日は寝込んでいた。それが犬の介護で力がついてしまった。人生何が幸いするかわからない。当初、移動やリハビリはツレアイの老男がしてくれるものと思っていた。しかし老男はすぐにギックリ腰になり「イツツツ」としか言わなくなった。

 最初は立たせるのも大変だった。犬も老女も少しずつコツをつかんでいくしかなかった。やがてわずかな時間立っていられるようになった。足は震え、胴体はゆらゆらとどちらへ倒れるか分からない。それでもエサを食べられるようになった。立って食べれば内臓にも良い、体力もつく。エサ箱を徐々に遠くへ置いて、二歩、三歩と歩かせるようにした。
 やがて外へ出してみる。大仕事だった。小さな共同住宅なのでエレベーターの乗り口が各階の途中にしかない。つまり階段を上るか下りるかしなければエレベーターに乗れない。力の入らない大型犬ほど重いも のはないと知る。
 外へ出したら、休む間もなくメス犬を探さねばならない。運よく遭遇すれば元気の出る一言、「ほら、女のコが来たよ」。十兵衛は七歩ぐらい歩いてしまう。人間も犬も若い異性が生きるモチベーションになる。老男をご覧じろ。
 
  そのうち、ちょっとしたことが起きた。エレベーターの中に誰かがキムコが置いたのだ。詮索は無用。具合の悪い犬がエレベーターを利用しているのだ、体臭は人間の比ではなかったろう。
 それからはハーブの香りの消臭剤をエレベーター内で使うようにした。どうかそれでご勘弁を。
 
 十兵衛が動けなくなってから一年以上が経つ。近頃では1キロぐらい歩けるようになった。むろん普通というわけにはいかない。腰がくの字に曲がっているし、踝が反転してズッズッとつま先を引きずる。それでもメス犬に会いたさでどんどん歩く。会えなかった日は元気がなくなってあまり動けない。ゲンキンなヤツ。往来の人たちは「具合の悪い犬を無理やり連れ出して」という顔をして見る。私は帽子を深々とかぶりサングラスをしているが、近頃はマスクまでして顔を隠している。怪しい老女になってしまった。

 
     
 
     
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