料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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左:MAY 右:十兵衛
撮影:岡崎伸彦
 
     
  好事魔多し  
     
 

 十兵衛が下半身不随になった衝撃の日から2年が経とうとしている。歩けるようになってからでも1年以上が経つ。近頃は歩ける距離が多少伸びてはいるが、変則ウオークは相変わらずである。人々が気の毒そうに振り返るのも同じだ。神経の麻痺からくるナックリングという症状がおかしな歩き方をさせている。

 距離が伸びた最大の理由は近くの小さな公園にある。小型犬のメスがいっぱい集まっているからだ。入れ替わり立ち替わりアイサツに走ってくる。顔にバシャバシャとジャブを入れられても十兵衛は嬉しくて仕方がない。目を細めて待つ姿は孫を遊ばせる好々爺のよう。しかし、心は好々爺ではない。
「もう、それしか考えてないんだから」
「オスのサガでござる」
「おもらし犬のくせに」
「たとえ身は汚物にまみれんとも、男子たるもの最後まで、えー・・最後まで・云々」
「ウンヌンに逃げちゃだめじゃない、あ、そっか、ウンウンか」
「ウーン」

 しかし好事魔多し。月にムラ雲花に風、十兵衛には一匹のポメラニアン。
「ワワンワンワンッ、やいっ、そこのくたばり損ないっ、デカイ面すんじゃねえっ。ワンワワンッ、オレさまの縄張りから早く出て行けっ、ワワワワワワワワワワワワーーーンッ」
それでも、犬というのは群の動物だから毎日会っていればそれなりの連帯感とほどよい距離感を持つものと思っていた。事実、他のオスたちは十兵衛を受け入れはじめていた。しかしポメは違った。頭が悪いのか、権勢症候群がひどいのか、いつ行っても激しく吠える。飼い主は困ったと思うのだろう、しゃがみこんで懐に掻き抱く。それが叉いけない。称賛されたと思って尚さらボスの道をマイシンする。
 
  とうとうある時、吠え合うことになってしまった。それまでじっと我慢のコであった十兵衛がキレたのである。痩せても歩けなくてもドーベルマンのオスである。小さな犬に毎回吠えまくられてはプライドが許さない。しかし十兵衛の声の迫力は小犬の比ではない。やめさせようとしたが珍しく抵抗して吠え続けた。仕方なく首を芝生に押しつけ黙らせた。ドーベルマンは公園で吠えてはいけない。それがボスである私との約束事である。破った時は制裁を受けねばならない。そうしなければ去勢もしないドーベルマンを都会で散歩などさせられない。老犬になったからといって許されることではない。
 以後、その公園には通えなくなってしまった。犬の大合唱は小さな子供や近隣に迷惑だからだ。雨の日にだけそっと行く。寒がりの十兵衛が雨に濡れるのも厭わずメスの匂いを嗅ぎ回る姿が少し哀れである。

 
     
 
     
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