料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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  ひびこれぎもん  
 
 
  某月某日
   ひどい乱視である。三日月が満月になるくらい。もちろん優雅な満月ではない。シマシマ満月だ。ウサギが入り込む余地もない。おまけに近視でもある。シマシマ満月はボウと膨張して、空気のぬけた熱気球のようだ。転じてシワシワ満月。その上、近頃は老眼まで虎視タンタンとこの目をねらっている。考えてみれば、いさぎよく老眼になってしまえば満月はよく見えるだろう。しかし老眼はイヤだ。名前がイヤだ。だからシマシマシワシワでガマンしている。
 視線を地上にうつす。ところは山梨県韮崎市の、とあるホームセンターだ。悠久の時を見ていたはずが、急に俗っぽくなってしまった。ま、私ごとき、そんなものだろう。
 さっきから探しているのは、ほんの日常雑貨だ。なかなか見つからない。それにしても、どうしてこう商品タグ小さいのか。当然書かれた文字も小さくなる。近視乱視はいちいちそばへ近づかなければ読めない。
 そのうち、ある商品名がドッカーンと飛び込んでくる。驚いて、出目がいっそう出目になった。よくよく見れば、なんのことはない「ベニスの指サック」と書いてある。間違いない。下に「venisu」とローマ字まで書かれている。濁点とマルの差がわからないような乱視の客は相手にしていないらしい。
 脇を二人の高校生が通った。後から歩くほうがなにやらゲタゲタ笑って前に声をかけている。見れば指サックを指さしている。前も振り向きざま笑っている。先刻承知の商品らしい。となると、関心を持った者は他にもいるわけだ。しかも高校生。目が悪いわけがない。勉強するタイプでもなし。ハナから違う読み方をして笑っているのだ。
   
   あの会社は、わざとああいう名前をつけたのだろうか。インパクトはあっても営業に結びつくとは思えない。買うのは頭の悪い高校生だけだろう。主婦は買えないと思う。包丁で指先を切ったからって、レジで「ベニスの指サックどこですか?」と訊けるだろうか。・・・ベニスだから訊けないとは限らないか。「ベニスの商人」というのだってあったんだから。水の都ベニスなんだし。名前はさわやかなんだから。それでも、私は訊けない。
 もし、あの会社がまじめに名前をつけていたらどうしよう。なにかいわれがあったりして。たとえば先代の社長がベニスで死んだとか。そうなると、私の思いを知ったら烈火のごとく怒るだろう。なんと貧しい想像力かと軽蔑されるかもしれない。冷や汗が流れる。
 私はとうとう何も買わず、ぐったりと疲れてホームセンターを後にした。空では三日月がつぶれた熱気球のような顔をして笑っていた。
 
 
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