ある意味、濃すぎるヒマ潰しをしつつ。 一時間前。ついに列が動き出す。
係員が全員を立ち上がらせ、列を整える。
「どうする」
どうするも何もないだろ。あまみやさんは午後からでもいいって言ったんだから
まずは白目ZMだろ。
くろがねぎんさんっていう人のところも捨てがたいが、二手に分かれるなんて技巧は・・・
「初心者らしくないよな」
ああ。こういうときはわかりやすく動くもんだ。
その方が不測の事態も起きにくくなるからな。
それにしても、パンフレットから見ると、控えめに推測しても
人気、二番手、三番手じゃあないか、春風亭工房。
うーむ。恐るべし。
さすがに80万ヒットは伊達じゃあないか。
「うーん。あとは運次第か?」
運ねえ。というより在庫次第じゃないか?
後ろに列んでいる人の話しているのが聞こえる。
「やっぱり白目ですか?」
「いえ。いつも無理なので他へ回ります」
・・・。
僕らは会場へ入れる横手の通路のところにいる。
二つに分かれた外周組の、後ろの先頭。
係員さんから説明を受ける。
「これから前が動きますが、ついていかないように注意してください」
「この横手から入ってもらって後ろにつなげますから」
はい。
「なんだか重要な位置やね」
ああ。貴重だな。運がいい。
要するに指示があるまでは動かない、ってことだな。
入場が始まると同時に
ポツリポツリと雨が落ちてくる。
それにしても広場に溢れていた人々が、整然と三列ずつ入口へと吸い込まれていくのは
壮観、その一言だった。
僕らもなんとか雨が本降りになる前に建物内に。
ちょっと濡れるくらいで済んだ。
黙々と階段を登る。
確か会場は3階。
だけどなんだか中二階とかあるみたいで長い。
「ここってわかりにくいよなあ。M2階とかあってさあ」
ベテランさんなのか、そんな声も聞こえた。
登り切り、いよいよ。
まわりのみんながパンフレットを取り出して
おでこのあたりに掲げている。
ふーむ。
パンフレットが入場券代わりなのだが、そういうしきたりなのか。
なるほどなあ。
春風亭工房さんは入口から真っ直ぐ突っ切って、さらに真っ直ぐ右の奥。
というか突っ切っただけで長蛇の列にぶつかった。
はあ?
しかもそこが最後尾ではない。
そこから階段へと連なっている。
ガンガン階段を降りながら最後尾へ。
春風亭工房・最後尾とか書かれたダンボールを受け取ったと同時に
すぐ押し寄せる次の人に手渡す。
ははあ。そういうシステムですか。
リレーみたいでわかりやすいですねえ。
とか思っていたら
上から口伝えで「新刊売り切れ」と。 同時に解体する行列。
はあ?
まだ、ほんの2、3歩しか動いてませんでしたよ? 列。
一体、開始何分やねん。
「開始20分か・・・」
答えるように呟いてくれる人あり。
はー。 呆然。
3階まで戻ってきたはいいものの、フロアー中、人で埋まってます。
僕にどうしろって?
壁際に生える、華麗なる一輪のHige。
「お前どうする?」
どうするも何も。壁以外にいるとこなんて、ないやないか。
「そうか。じゃあ冒険してきてもいいか?」
冒険って。・・・好きにしてくれ。
ところが、この壁にさえ、人が押し寄せる。
頭上に掲げる、サークル名の書かれたダンボールカードを
オリンピックか何かの競技と見まごう手際のよさで
次々と手渡していく集団が迫る。
あやうし! びれっじαッ!
なんとか逃れたものの
もう居場所がない。
立ち止まれないのだから。
流れるプールのように人の流れに身を任せながら放浪して
やっとこさ同行者と落ち合う。
なんかお前、たっくさん手に持ってんなあ。
「うん、名前を聞いたことのある所があったから ”全部下さい”って言った」
おうおう。そいつああ上手くやったな。
「でもこれで、わずか4千円なんやで」
ほー、そいつぁますます。そうか秋葉原より安くなるわけか。業者が間に入らないから。
ふむふむ。
まあ、とりあえず出よ。
ここにいては邪魔になるし居場所もない。
「出るんやな。わかった」
出ると・・・。
入るときには気付かなかったけど
すぐとなりでもイベントがやっている。
例の、『えんい〜2』というイベントだ。
しかも入場無料とか言っている。
なか、すいてるし。
他に居場所ないし。
これは入らなきゃ嘘だよな。
「いったい、コレはなに!? 何なんだ一体!?」
この前、おまえん家で同人CDをいくつか聞かせたったやろ。
恋愛CHU!の替え歌とか、ものすんごいのばっかり。
「あ、ああ」
その中にさあ、ふたりの女の子が音楽にのせて掛け合いしてるのあったやん。
ほらほら
「今日12日のスケジュールです」
「早朝、というか徹夜。午前、大手に列ぶも目の前で完売」
「午後、ビッグサイトの前で鍵っ子に説教」
「深夜、椎名○きるとあんなことやこんなことを」
とか
「ガンタンクって胸きゅん?」
「胸きゅんやね」
「野生のガッツ石松って」
「胸きゅんやね」
とかいうCDがあったやろ。
あれが
この青い髪のお下げの女の子、多分、さくらって名前と
この謎の生き物、うにゅう
っていうのの掛け合いだったに違いない!
最後に
えんいー
って叫んでたし。
というかそこッ!
ニュータイプばりに、瞬間、その同人CD(翼音)が売っているのが視界に入る。
買えッ!
「お、おう」
うらやましいぞ同行者。
あのCDを制作者さんから直に買えるとは。
「この列は何ッ!?」
とか言いながら反射的に列ぶまでになったか・・・。 成長したなッ!
だが、僕は御免ゆえ、他をあたっているぞ。
「どうですかー? 試しに押してみてください」
は、はあ。ハンコですか。僕はコレ知らないんだけどなぁ。
ひとつずつ、ひっくり返しながら何のハンコか見せてもらう。
あっ。
おとうさんだ。 あずまんがの。
これを下さい! ・・・3個! 3個ください!
「えっ!? 3個?! 3個もあったかな」
なければ2個ッ! 2個で!
「えっと現品でも良ければ、3個・・・」
いいです! いいです! 構いません!
650円を3個。
「これは現品なので、あの」
まさか引いて下さる!?
「1800円で」
おおおおお。
ということでハンコをゲット。
更にその隣りで売っていた
『multi inside』(インテルってののパロディ。多分)
『来栖川電工』
とか書かれたエンブレムも13個ゲット。バカっていうな。
在庫処分とかで1個100円だったので1300円か。
ふうううう。堪能した。
あずまんがの、おとうさん帽子のような、その、うにゅうとかの帽子をかぶっている人もいたが。
あの帽子は欲しいかもしれんなあ。
同行者と合流。
芝村家の一族に行きたい とか言い出す。
まあ、だろうな。お前ハマってたからなあ。
付き合うけど、パンフ代はそっち持ちな。
ということで4F。
うーん。空いてる。快い。
「これくらいだといいよなあ」
ああ。まったく。
それにしても、こうも客層がガラッと変わるものなのか。
女性が無茶苦茶多いじゃないか。
4割、5割くらいは女性じゃないか?
ふーむ。
館内放送。
「ご来場のみなさまにお知らせします。これよりコスプレスペースにおいて」
「ジュンリュウシ(準竜師?)が直接みなさまからの陳情をお受けします」
会場がドッと沸く。
「こーいうノリは好きやね」
うん。あの悪人顔の司令官みたいな人やろ。
コスプレの女の子たちを眺めながら休憩。
それにしても、かわいい女の子が多いのではないか?
これはコスプレに対する認識を改めねばならんかもしれんなあ。
ところで、あの黄色いリボンみたいなものをつけてる人さ
耳のあたりでクルクルっと髪が巻いてるよな。
あんな髪型、現実で初めてみた。
「あー、ありゃ付け毛だろ」
ほうほう。お前、妙なことに詳しいなあ。
そういう発想、僕には無理だ。
よーし。少し楽になった。僕も限界が迫っているみたいだし
あまみやさんの所にいこう!
おっ、結構すいてきてるな。
で、弓張−25ってのはどこだ? 弓張を一通り見るも見つからず。
お、おい、どこだ?!
「ええか。ここの机、3つ目の一番手前になる」
う、うむ。
ひとーつ、ふたーつ、みっつ。
?!
そこには何もない。
!!
おい。 何もなかった。 売り切れ・・・か?
「どうするんだ。まさかッ! 逃げるのか!」
うん。逃げよう。
そのままバツが悪くなって 逃走。
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で、なんで秋葉原に連れて来る!?
傘も持たずにぃぃぃ
バカだ! キサマはバカだ!
絶対、僕よりバカだ!
その後、下宿に辿り着く頃には息も絶え絶え……。