9月22日 月曜日

    朝から雨音がする。S木さんがデカイねずみがいたって。
    「それにしてもホントでかいネズミだったなあ」

    まずはレタス。今度の畑のは、あざやかな緑が目に美しいものの、まだ少し若いらしい。
    昨日に続いて、段ボールを雨に濡らさないためのリレー。
    積めた段ボールを持ってきた人を確認すると、トラックのひさしの下から走り出て
    空の段ボールと交換。
    受け取った段ボールは、2L12玉などとクレヨンで書きこんで積み上げる。

    朝食後は雨がやむ。

    やはりレタス。
    空コン並べと、入ったコンテナをマルチの端に寄せるなどの
    積みこみのお手伝い。

    サニー・リーフ。
    まだ下がぬかるんでいるので畑に車が入ってこれない。
    空コンや段ボールを届けて、詰められたものをトラックまで運ぶ。
    ぬかるんで足場の悪いなか、長い距離を往復しつづけ。

    集荷の軽トラックが一台ムリヤリ入ってきたけど、大ハマり。
    タイヤが泥深く沈み込んで空まわりする。
    みんなで押そうとするけど、ダメ。後ろから押したり、前から押したり。
    H川さんが来て、これだけの人数がいるなら、押すよりも持ち上げてしまうのがいい、って。
    となりの比較的固そうな地面へとジャンプ。

    お茶の時間。
    「どうした兄ちゃん、倒れそうな顔して」
    疲れました・・・。
    「疲れた? えらいボンボンだな」
    うう。そんな。
    「疲れたって?」
    はい。
    「正々というからいいわな」

    ついに白菜登場。
    キャベツ以上に重い。S木さんによると重いものでは1箱、20キロにもなるという。
    まあ今回のはそこまで重くはないらしいんだけど。

    ホッチキスの親玉みたいので段ボール作り。
    そして集荷のお手伝い。
    20キロでこれか・・・。
    ローラ姫はもっと重いんだろうなあ。ラダトームまで抱きかかえて帰った
    勇者ロトの末裔はすごいなあ。

    そんな箱をH川さんは左右に片方ずつ、2箱も持ってしまう。

    午前中、この白菜が長引いて、昼食は13時半くらい。
    「午後はロメインだ」
    はい。
    「ロメインはあれだな、鉄塔1番だ」
    はい。
    「あんたもだいぶ話が通じるようになってきたな」
    あははははは。

    台風一過、青空にちょっと雲が多めというくらいの、15時半からロメイン。
    今日がO合さん最終日。最後くらい青空になってほしいと言っていたから良かった。
    切り口にホースで水をかけつつ、空コンを並べ、詰まったコンテナもトラックへ運び込む
    という役目。

    16時半から終業の17時までは、ビニールハウスの草むしり。


    お昼を食べる部屋で使うストーブが、この住んでいる2階の部屋にあるというので
    それらしいのを探す。探し出して、取っ手はどこだろうと傾けたら
    大変なことに。 枕元
    あーあーあー。
    こぼれた石油をふきとりまくり。
    窓という窓全開。

    場所が悪い・・・S木さんの寝床のそば。

    最近なにかをしたらミスがついてくる、ってくらいだ。
    僕の作った段ボールの底が抜けるとか。こぼれ落ちるキャベツ。
    昨日は空コンを数え間違って、リーフの収穫にご迷惑を。
    今日は今日で積みこんでて段ボール破っちゃうし。

    石油の件などをS木さんにいじられつつ
    O合さんと3人で、天狗の茶屋というところへお風呂へ入りに行く。
    いつものところは月曜休みだから。
    民宿のようなところで、
    「サウナ開けたら、寒かったっすよ」
    あっはっはっは。冗談みてえ。

    「うわ。ヒゲがねえ」
    これが通常の状態です。
    「通常って。おばちゃんに兵隊さまって言われてるし」

    それにしてもO合さん、2週間一度も休まずに、すごかったですよね。
    「アー! 今朝ソーセージ食べなかった! プリンも食べてない!
     ・・・不完全燃焼だ」

    うはははははははは。
    M渕さんが今日になって、実はお昼の弁当、大盛りにできるって教えてくれたってのも
    なかなかわかるなあ。

    朝食風景 ソーセージ プリン

    O合さんは日本一周を親に、ちょっと出かけてくる、くらいの話でやったらしい。
    4日に1度くらいの割合で連絡する約束だったらしいのだけど
    今、沖縄、とか、北海道とか言っていると
    「あんた日本一周してるの?!」
    みたいな。
    あっはっはっは。

    O合さん最後の夜ということで、この2階に招いて
    3人で豚肉と白菜の鍋で一杯やる。
    たくさん食べるO合さんのために肉は3倍くらい。
    ギョウザも入れる。
    最後にはご飯も。

    二日酔いだろうがなんだろうが根性で仕事すんだよ、この根性なし!
    とだいぶ酒をすすめられたけど。
    ダメです。飲めません。
    ビール1缶と焼酎のグレープフルーツジュース割り2〜3口くらいにしておく。
    O合さんも飲ませたかったようだけど、こればっかりは。
    給料もらっちゃってるし。
    毎日がいっぱいいっぱいなので、普段から根性でやっている。
    さらに二日酔いにまで耐える根性はない。





9月23日 火曜日

    レタスの水やり。「あんちゃん、ついに出番が来ただな」
    F井さんやO合さんがやっていたもの。

    サニー・リーフの水やり。
    キャベツの積みこみ。
    草とり。

    おばちゃんからキャベツを一発で切り離すのを実演付きで教えてもらうけど
    なかなか難しいものだ。
    力を入れすぎると地面までいって刃が泥で汚れるし。

    草とりをしていてこんなことを思いついた。
    もしも、なまはげが「わるいごはビネガー」
    と言ったら意味はよくわからないなりに
    すごい迫力だと思うが、どうか。

    社長さんから今後の話。
    当初の契約どおり月末までということで。
    ニュアンス的にはもう少しやっていってほしいようだったけど。むしろ
    戦力外通告だったらどうしよう
    とか少しドキドキだった。

    レストランのじゃんけんデーだった。
    チョキを出そうかと思ったが
    出す直前にパーがいいような気がして出したら勝った。
    抹茶アイスゲット。
    クロマティ高校の2巻を読む。

    なんかとても眠い。文章もおざなり。





9月24日 水曜日

    朝食後から雨が降り始める。ホントにピッタリ測ったように朝食後から。
    レタスの水やりに忙しく走り回る。

    水やりというのは。
    レタスでもリーフでもサニーでも。切ると切り口から白い液体が出る。
    これをそのままにしておくと、白くきれいな切り口が茶色く変色してしまうらしい。
    なのでホースを使って、この白い液体と、葉などについた泥を洗い流すのだ。

    切っているのは一箇所だけとは限らないので。
    あそことあそこで切っている。
    水の車から引き出したホースを、レタスの列やコンテナの間を縫ってどう通すのが良いのか。
    自分の引いているホースでレタスを傷つけたり汚したりしてはならないし。

    水をかけているだけでは、手が空くので。
    詰めている人に先行して、レタスの列に沿って空のコンテナを並べていくのも役目。
    だからトラックから空のコンテナを下ろすのも役目。

    あそことあそこで詰めている。
    僕が水をかけないと詰めこめない。僕が水をかけないと作業が遅れる。
    詰める人の手を止めずに水をかけていく順番はどれがいいのか。
    あまり切っている人の近くでホースを使うと水をかけてしまうかもしれない。
    合羽を着ているとはいえ、水しぶきはあまり気分のよいものではなかった。
    空のコンテナは足りているか。
    コンテナ並べが遅れても作業の手が止まる。
    水とコンテナのバランス。

    さらに手があけば、集荷の人たちのために、詰めこみ終わったコンテナを
    道側へと運んで並べなおすのも、また役目。
    水やりをするようになるまえは、最初は切っていて、詰めこみ終わったコンテナが増えてくると
    僕がこの並べなおしと集荷の人の手伝いをしていたわけだ。
    もう(ボラ)バイトの人間が僕一人になっちゃったから、やってくれる人がいないなあ。
    もっともS木さんによると、
    本来は積みこみまでが水やりの守備範囲らしいけど。


    水 レタスの列に沿って


    「最近がんばってるじゃん」
    え? あ! 走り回って目に付くからそう見えるだけじゃないですか?
    僕は前からがんばっていますよ。というか前の方ががんばってた。
    「じゃあ今日は手を抜いてたってこと?」
    そうじゃなくて。
    前は、運んでくださいって言われたら、ずーーーっと運びだったわけですよ。
    今は途中で水やりが入るので。
    その間、体自体は休まります。

    サニー・リーフ。
    雨でぬかるんで集荷の車が入れないので畑の端までみんなでコンテナを運ぶ。


    午後。かなりの雨。
    M田ムネさんの指導で草刈りに挑戦。
    僕の感覚では、あの棒の先についた円形の刃をエンジンで回転させる道具は
    かなりの危険物だ。近づくのも憚られる。

    「もっと強く引いて! もっと! もっと!」
    エンジンをかけるのにヒモを引くのだけれど、引けない。かからない。
    まさかこんなに力が出ないなんて。
    午前リーフを運んだとき、右肩が重みで、抜けるとまでは言わないけれど
    そんな引っ張られるような違和感があった。
    痛くはない。まったく痛くはないんだけど、力が入らない。

    かけてもらったエンジンで、右から左、右から左、と切っていく。
    一度目で浅くきって石がないか確認し、二度目で地面ギリギリを切るんだそうな。
    一度目で石がないかわかる? 全然わからない。
    おそるおそるしか。ゆっくりとしか動かせない。

    「上がろうか。雨も強いし」
    はい。
    「握力とかなくなってきたりしてない? 休み言ってね。あんまりひどくなるまえに」
    はい。

    部屋で寝ておく。
    目覚ましにも気づかないくらい眠っていた。

    起きると顔が熱い。
    疲れが頬から噴き出しているかのような。
    少し熱っぽいかもしれない。

    そばにある神社で村祭りがあるらしい。アナウンスが聞こえる。雨がひどいのに。

    風呂に行こうかどうか。迷うこと自体、ちょっと変調。
    鈴木さんに便乗して軽トラで乗せて行ってもらうことに。

    「帰っても遊びに来てくださいよ。電話しますよ?」
    あ、いや。電話は。
    「またそんな」
    いやいや、帰ってからもこの携帯の電源が入っているとは限りませんよ?
    僕が持ち歩いているところ見たことないでしょ?
    「部屋に帰ってからみてるよね」
    あれは着信があるかみているのではないんです。何時かな、と。
    「意味ないじゃん」
    便利な目覚ましです。

    これからS木さんは、M田ケンさんの家へとお呼ばれだそうな。
    M田ケンさんというのは、収穫している現場の長のような人。
    僕より年下らしいのに立派なものだなあ。
    というかみんな軒並み年下らしい。
    ここは、「若いのがしきっているところ」 として知られているってS木さんが。
    ちなみにS木さんとは同い年。

    二日酔いでダウンしたとき、僕はなにも言われなかったけれど
    「S木さんの立場でそれはマズイよね」
    とM田ケンさんから叱責を受けたとか。





9月25日 木曜日

    S木さんは5時台から活動開始。
    「風邪引きそう。体調悪い。この俺が。何年ぶりだろ」
    はい、早めのパブロン。
    「あんの? そんなのが。セイロガンじゃなくて?」
    はい、早めのパブロン。
    「風邪引いちゃったよぅ〜」 ぐずぐずと鼻をかむ。
    ・・・早め。

    今日は収穫が少ないとかで、朝は7時スタート。
    S木さんの目覚ましはいつもどおり3時55分に鳴ったけど。
    7時からということで、朝ご飯は出してもらえないらしい。
    昨晩も、雨で自転車が使えないこともあって食べられなかった。
    昼が待ち遠しい。
    小雨が降っている。

    午前中。リーフ・サニー、育苗ハウスの片付け。
    午後。片付け。ひたすら草むらに埋もれる鉄パイプを拾い続ける。
    5本で一組になるように並べていく。
    体力的にはきつくなかったが、精神的に。
    脳味噌がとろけそうだった。

    はみ出し 今日は全体的にちょっと早めに終わったようだ。
    奥さんがどんな風に住んでいるかみたいということでご案内。
    二部屋にまたがるS木さんの寝床を見て、
    なんでこんなにはみ出して寝ているの、と大笑いしていた。

    精神面といえばO合さんがいなくなったのが大きい。
    やはり同じボラバイトの人との方がうちとけやすい感じがする。
    S木さんと相部屋だったのは実はすごく良かったのかも。
    もしも違っていたら、親しく話せる相手に困っただろうから。
    S木さんはひと目、イカツイからこんなには話せなかったはず。
    しかし、最近は仲良くなりすぎたのか間合いの取り方が難しいようにも思う。
    下手するとケンカもできるくらいの距離になってしまっているのかも。
    以前、居合道八段の先生が
    「人生なんでも、間と間合い」
    と話してくださったっけなあ。

    美味しんぼを読みながらテーマを口ずさむS木さん。
    「山岡の声ってどんなだっけ?」
    えっとあれですよ、井上和彦さんです。
    「お、マニアだね。じゃあ田中真弓って知ってる?」
    クリリンとかパズーとか。
    「ラピュタって面白いよね」
    「♪とーさーんが くれた にゃにゃーにゃにゃーにゃーにゃー」

    なにくれたかわからんのですか?!
    「♪かーさーんが くれた」
    お。お母さんはなにをくれました?
    「♪ふんふーんふんふーんふんふん」

    風呂のあと晩ご飯。
    麒麟淡麗の6缶セットをプレゼント。
    「え!? なにコレ」
    ほしいって言ってたじゃないですか。驚きすぎです。
    「うれしいけど、さびしいような・・・なんかさびしいね」
    あと5日か。





9月26日 金曜日

    うわ、なんじゃこら。すごい霧ですね?
    「晴れるなこりゃ」
    霧がでると晴れるんですか?
    「なんでかは知らないけどパターンだ」

    晴れというよりは曇りに。昼になっても浅間山が見えない。

    午前中はやたらと運びだった。
    リーフ・サニーの水やり。
    ロメインは今日で最後。120箱の積み込み、さらには積み下ろし。
    最後はキャベツの積み込み。
    65箱と少なかったけれど、地面がぬかるんでいたので一旦トラクターに積んでから
    畑の外で待つトラックへと届けて積み直し。

    なんとなく、リズムと勢いを大事にすれば筋力のなさを補えるのではないかと。
    そんな気も。

    今日は、M田ムネさんの包丁を借りてキャベツを切ったのだけど
    切れる切れる。これなら一発で切り離すのも楽にできる。


    ひらひらと緑の畑を舞う、白いちょうちょ。
    のどかさを醸しだして
    「うりゃ!」   気合一閃叩き落とされる?!
    「だって憎かったんだもん」
    そうかそうか。
    害虫なんだ。
    自称:バタフライ・キラーS木。

    S木さんに、「あー このひと疲れてんな、って顔してる」
    と言われてしまう。
    「ちょっとしたことですぐムキになるし」
    それは普段から。むしろ反応しなくなった方がヤバイんだけど。
    缶コーヒーをおごってもらってしまう。


    午後。草とり。再三にわたってM山さんから注意を受ける。
    どうしても、しゃがまずに草とりをさせたいらしい。
    しゃがむほどの草でもなくて、レタスが結構大きいのでしゃがむと傷つける。
    話はよくわかるし、できれば僕だって中腰でとりたいのだけれども。
    もしも中腰でやったとしたら
    おそらく30分もたたずに故障者リスト入り。

    ・・・足を前後に大きく開いて体の高さ自体を下げてみる。
    うん。これなら腰への負担が膝にも分散されるので比較的楽だ。
    ・・・速くはないけど。

    残りの1時間半をそれでなんとかやりぬく。
    終わり頃には、頭への血量が変動するからか、少しクラクラ。
    ねらいどおりに腰は痛くなっていないけど、腿の少し上、もはや尻、のあたりが張っている。
    尻にシップをするのは、なんだかヤだな。

    帰りの車の中で、M田ムネさんと話す。
    「もうすぐ終わりだっけ。あと何日だ?」
    いやあ、数字だけみればもうすぐなんですけど、僕には一日が長いので。
    「どう、農業やれそう?」
    無理です。
    あれはなんとかなるかな、というものもなくはないですけど
    これはどうにもならん、というのが多すぎます。
    それではダメなようなので。
    「そうだね。百姓っていうのは、百の仕事があるから百姓っていうのがやってみてよくわかった」
    「なんで農家以外に百姓って言葉があるのか不思議だったけど」
    「農業はスペシャリストじゃダメだね。ジェネラリストじゃないと」
    「職業っていうのは選べるから、難しいよね」
    「悩めば悩むほど考えるから得だ。いい結果を選べるから」
    会社をやめて、一から農業を始めたときのことを話してくれた。
    今日はお茶のコップを代わりに洗ってくれるって。





9月27日 土曜日

    レタスの水やりのあと、キャベツの段ボール作りと積みこみ。
    「つらくないですか? もっと力付けたほうがいいんじゃない?」
    とM渕さんに。
    あの一番最初、M渕さんが詰めた物を、僕がひとりで積み込んだあのとき。
    あのとき、気が遠くなりそうだった積み込み。
    今でも重いことは重いけど。
    今は、この段ボールはトラックに積み込まれるものだし、これまでも積み込んできた、
    今日だけ積み込めないなんていうことはないはずだし、積み込める、
    という思いが。

    お昼を食べながら、相場の話題に聞き入る。
    白菜が今、1箱(6個入り)1800円と高値なのだという。
    だから午前に200箱、午後にも追加で200箱出すんだって。
    レタスも高いときには3000円、
    リーフも2000円くらいにはなるそうな。
    安いときは300円とか150円だというから
    相場とは実に恐ろしい。
    しかし
    消費する立場からみると、スーパーでの価格からではここまで実感できないから
    流通の過程でどうなっていっているのか
    実に興味のあるところ。

    S木さんが任されたという白菜の畑、収穫のタイミングに悩んでいたっけな。
    できるだけ相場の高い今のうちに穫りたいわけだけど、まだ小さいらしい。
    あと何日で収穫できるようになるかの見極め、これまでに経験が少ないそうな。
    天候にも左右されるだろうし、難しいだろうなあ。

    午前の残りと午後。まるまる草とり。
    足は前後に開かなくても、膝でかがめばなんとかなるようだ。
    3時のお茶まではなんとかもったが、その後は一挙手一投足まで鈍重に。
    頭の中ではフニクリフリクラがエンドレスで流れ出す。
    しかも鬼のパンツの歌詞で。
    非常に危険な状態だ。


    コインランドリーから帰ってくるとS木さんと鉢合わす。
    新入り?! ほー、ハタチ!? のS山さんとそのままラーメン屋で会食。
    へえー。ニュージーランドの農場で収穫を。すごいなあ。
    きっとこのS山さんはなかなか。
    「おふたりは仲、いいんですか?」
    「良くないよ」

    悪くもないですけどねえ。

    楽しく帰ってきてそれぞれ部屋へと引き上げ。
    あ、そうそう、トイレの場所はわかってますか?
    「教えてあげて」
    はいはい、トイレはですね、そこのドアです。電気はそこで。わかりますよね?
    「ちゃんと説明してあげて」
    えっ。
    これが電気で。パチパチとこのようにつけたり消したり・・・
    っておかしいやろ!

    トイレは外


    寝る前に、耳がかゆいとかで、2本セットだった耳かきの片方をあげる。
    僕もかゆくなってきて、実に平和。
    テレビではジュラシックパークでティラノが暴れている。





9月28日 日曜日

    朝。またネズミ騒ぎ。コンロの裏に、おぼえのないブドウが転がっていたり。
    S木さんが、見つけた壁の穴に紙コップをねじこんで塞ぐ。

    穴 塞ぐ

    昨日、台風以後、やっとはじめて、レインコートを脱ぐほど暑くなったのだけれど
    今日もまあまあの天気。
    朝はこのまえのように視界を失うほど濃くはないにしても霧。
    遠くの景色がモネの絵画みたいで綺麗。

    午前中。レタスの水やり、マルチはぎ、サニー・リーフの水やり。
    マルチはぎ、以前ほど大変な作業だとは感じなくなったなあ。
    本当は午後の予定だったらしいのだけれど作業がサクサク進んだので
    キャベツも。

    S木さんと組んでキャベツ段ボール作り。
    「あおってください」とM渕さんに言われたS木さんは
    「声出していくぞ!」
    「1箱に3秒以上かかったら遅い!」

    「プップー」

    それ、あおってる?

    キャベツもすばやく終わって、11時にもうお昼。

    午後。1時間ズレての1時スタート、5時までという長い時間、草とり。
    すもうとり、という根っこがとれない手ごわい草が多く、しゃがんでとった。
    おばちゃんからカマの使い方を習う。
    カマっていえば地面と水平に切るものだと思っていたので、草とりに使うのは
    なんだかおかしいなあと思っていたが。
    草の手前の地面に切り込んで、抜きやすくするものだった。





9月29日 月曜日

    「やられた」
    夜、ガサガサ音がしているなあ、とは思っていたけど見事に紙コップを食い破られていた。

    穴 食い破られていた

    レタスの水やりから。
    朝食後はキャベツ。

    「見てみなぁ、これ。水晶みたいだな」
    おばちゃんが言うように、キャベツの葉に浮かぶ水滴は美しかった。
    こんなに早い時間にキャベツを切るのは、初めてだから、かな?
    M渕さんに包丁を借りて、僕も少し切る。

    その次はリーフ・サニー。
    「包丁持ってないのが来た。何しに来たの、包丁持ってない人」
    M田ケンさんがM渕さんをそう呼ばわる。
    すいません! すいません!
    僕が包丁を借りて、段ボール作るときになくさないように
    ホッチキスの親玉みたいのが入っているコンテナにしまってしまったんです。
    「それは違うよ、びれっじさん」
    「これからサニーを切りに行こうと思って包丁がなかったら探すはずだ」
    「だからサニーを切る気がなかったんだな、何をしに来たか知らないけど」


    言葉を文字だけでみると、とても厳しく読めるかもしれないけど
    この台詞を、周りにいたみんなが思わず吹き出してしまうくらい
    コミカルに言ってしまうのが、M田ケンさんのすごいところかあ。
    普段は近づきがたい威圧感を放っているけど。

    「はやく詰めて来いよ」
    「3対1っすか」

    切っている3人を猛追するM渕さん。
    僕も急いで水かけてコンテナ並べないとっ!

    今日は、そんなM田ケンさんの顔に
    ホースで水をかける
    という大失態。
    とんでもねえ。

    午後からはK林さんという1週間の研修の人が参加。
    そのK林さんやおばちゃんと一緒に草とりをしながら色々話す。
    草とりはキツイだろうとか、何日しかもたない人がいた、こんな人もいたというような。
    おばちゃんが僕に
    夕陽 「なんだかんだで、強情にも1ヶ月がんばっただな」って。
    ええ。強情に。
    初日から向いてねぇ向いてねぇ言われながらねえ。

    夜はS山さんを呼んで楽しく飲みながら晩ご飯。
    S山さんもやっぱりすごい経験をしてきているんだねえ。





9月30日 火曜日

    「1ヶ月がんばったね。どう、今の気分は?」
    今日を乗り切れるかしか考えていません。
    「ありがとね」
    だからまだ早いっちゅうに。
    「まだ2週間もありますよ、とか言ってたのにね」

    レタスの水かけ。
    S山さんやK林さんは切るのがやはりまだ遅いので、速い人との間に距離ができる。
    そうすると水をかけたりコンテナを並べるときに前後に動かなければならなくなる。
    このふたりにしてこうなのだから、僕は多大な迷惑をかけていたことだろうなあ。
    途中で水のタンクが空になる失敗あり。
    おばちゃんたち
    「びれっじさん、水をかけ終わったら朝飯にしてください」
    朝ご飯を食べに行こうと空を見上げると、虹!
    天気雨がパラついていたけど、これはいいなあ。
    「お、いいもの見ただな。一番に見たかっただに」
    ははははは。
    「このあんちゃんは今日が最後だに、なあ?」
    おばちゃんがそう言うと、H里のおばちゃんがじっとこっちを見て、
    「いやになったの?」
    いやいやいや。

    キャベツ段ボール作り。白菜少量収穫のお手伝い。


    リーフ。M田ケンさんがS木さんに切るスピード勝負を持ちかける。
    「ハンデあげよっか」
    S木さんはK林さんが少し切った続きから、3列。
    M田ケンさんはまだ誰も切っていないところを・・・4列!
    水をかけながら固唾を飲んでいると
    「あれ? そっちにもう1列あんの? おかしいなあ」
    ドンドン差が縮まっていって・・・
    「手伝ってあげるー!」
    最後に3個残ってしまったうちの1個をゴール側から切られてしまう。
    「S木さん明日休まないでね」

    タバコを吸っていてお茶に遅れたときは
    「あれ、泣いてるのかと思った」
    M田ケンさんの一言一言にみんな大ウケ。
    S木さんは「屈辱なりー!」「悔しいなりー!」
    とありおりはべりいまそかり。てふてふ殺し。


    お昼。M渕さんがS木さんと話すために部屋にやって来る。
    そのままお昼寝タイム。
    今夜、送別に来てくれるって。

    午前の最後と午後一杯は、鉄パイプの片付け。
    このまえ5本一組でまとめたパイプをヒモで縛る。
    だけどもう今の僕には、ヒモを引くというような動作は、ほとんどできない。
    もともと結ぶのは苦手なので、それはもうヒドイことに。
    まったくのゆるゆる。

    午後になってひとつの技を編み出す。
    指先の力はもうないけど、まだ残っている力もある。
    鉄パイプを強引に持ち上げて
    股で挟む。

    5時。おしまい。
    「最後の仕事はヒモ縛りかぁ。しょぼいなあ」
    そう。イマイチしまらない。

    なんとかつとまった。アップアップだったけど。

    部屋で鍋の仕度をしながら待っているとS木さんがえらい感動しながら戻ってくる。
    意識だよ、意識。いい話聞けた、って。
    今日、水が途中で切れたのは誰のせいだと思う?
    とM田ケンさんがみんなを集めてそうきいたんだって。
    それでS木さんが、「はい、みんなが悪かったと思います」 そう答える。
    「そうじゃないんだな。俺が悪かったです、って言えるようにならないと」
    ここのみんなは独立して自分で農業をやるために来ている。
    水の車。青いのがタンク ひとりでやるためには、そういう意識でないといけない。
    「俺はここに来て良かったね! なんか変われそう」

    そこに電話がかかってきて、
    M田ケンさんから僕へ最後の挨拶ができなかったから、と伝言が。
    ありがとうございました、お世話になりました、
    「助かりました、だよ?!」
    うお?! ・・・助かりました?!
    「全然助けにならなかったと俺は思うけど」
    うぐ。
    「これがM田ケンさんのスゴサだよね」
    そうっすね。

    S山さんと合流してお風呂に向かう車内でもM田ケンさんの話。
    うん。僕も見ていて、S山さんを叱るM田ケンさんはすごくいいなあ、と。
    「よし! 俺も明日からはピシピシ行くぞ、びれっじ!」
    だから帰るちゅうとんねん
    S山さんがちょっと発作気味になるくらいウケていた。
    これでS山さんのスイッチが入ったようで、その後ボケを連発。

    例えば、M田ケンさんに負けねえぞ、と気合を入れているS木さんに
    じゃあ明日の朝、M田ケンさんが来たら
    「おはようございます」って言って下さい、
    きっと「ちーっす」って返ってくるので、さわやかに
    「ちーっすじゃなくておはようございます」
    あっはっはっは。

    「明日電車に乗るのに、ヒゲをそらなかったんですか?」
    えっ、ヒゲをそらずに電車に乗ると捕まったりするんですか?
    「しないんですか?」

    コンビニで買い物かごに手を伸ばすS木さんへ
    3つも渡してみたり。


    部屋で待っていたM渕さんを含めて4人で送別会を開いてもらう。
    銚子出身のM渕さんが、実家から送ってきたというサンマを
    持参の包丁でさばいて刺身にしてくださる。
    うぉーうめぇー!
    なんか、とろけるよ?

    M渕さん さんまの刺身 送別会

    「ここのみなさんってすごいっすよね」 とS山さんが切り出す。
    うんうん。本当にそう思う。
    「もう初めてびれっじさんの水かけみたときビビビってきましたもん」
    えっ?! 僕の水かけ?!
    みんなで笑い転げる。

    よーし飲むぞと。
    S山さんは鹿児島出身ということで焼酎。
    M渕さんはガンガンいくし
    僕もビール1缶と間渕さん持参の松竹梅をワンカップのカラに1杯。
    S木さんはビール2、チューハイ1で寝てしまう・・・あれ?

    僕の話がまだまだ難しくてわかりにくい、ということ。
    今日僕がヒドイことを言われて3人ともカチンときているのに
    当の本人である僕が怒っていないのはどういうわけだ、とか。
    色々勉強になった。

    でも僕はここに来て変わったと思います。
    「うん。変わった。最初レタスのコンテナひとつしか持てなかったし」
    う。それを言われると恥ずかしい。
    「それが今は普通に2つ持てるから。ひとつしか持てなかったんだよ?」
    とM渕さんがS山さんに。





10月1日 水曜日

    昨日布団に入ったときにみた時計は23時45分。
    S山さんは下に住んでいるからそこへ帰り、M渕さんは泊まっていった。
    ここでの仕事を考えると、とんでもない。
    とてもありがたいこと。

    朝

    朝。手をグーにするだけで少し痛みがあるくらい。
    いつもと同じ時間に起きて、最後の挨拶をするために降りていく。
    自分が異質な人間になったような、ちょっとヘンな感覚。


    さ。僕は掃除・洗濯と片付けだ。
    ビン・缶、燃えるゴミ〜っと。
    鍋の油が固まってしまってるなあ。一度湯で沸かしたら溶けるかな。
    サンマもなまぐさい。これも僕のためにやってくれたのだなあ。
    机を拭いて。

    よし。コインランドリーだ。S木さんが貸してくれた服を洗わないと。
    ちょっと遠いけどこのマウンテンバイクで本屋にも足をのばす。
    S木さんへのお礼に『孫子の兵法』っと。

    荷物を詰め込み終わってもまだ数十分残っていたので最後に部屋を掃く。
    お昼休みに戻ってきたS木さんが
    長靴のまま膝で歩いて見まわして。目を丸くしていたっけ。
    「きれいになってるじゃん?!」
    はい。きれいにしました。
    自分で何度も 「掃除しろ」「このまま帰る気じゃないだろうな?!」とか
    言っていたのに。

    事務室に一言挨拶をしてゆこうとのぞくと、
    社長さんがわざわざ見送ってくれて
    恐縮する。

    S木さんの軽トラックで御代田駅へ。
    毎晩のようにお互いの志は語り合ってきたので。
    もはや言うべきことはない。
    握手。