三木二寸のあれも言いたいこれも言いたい

小泉政権への期待と不安

2001年6月3日

 
 ある方から、小泉内閣の誕生をあなたはどう考えているか、小泉内閣は私たち国民を幸せにするのかというお尋ねをいただきました。
 難しい質問ですが、現時点で私に答えられるだけ、お答えすることにしました。

高い内閣支持率は政治が変わるることへの期待の表れ

 小泉政権への国民の期待は大変大きく、内閣支持率 (日経電話世論調査) は、調査する機関で若干数字が違いますが、いずれも歴代内閣最高の高支持率で、80%以上と異常といえるほどの数字です。
 国民の期待はどのあたりにあるのでしょうか。

 小泉さんは、国民の支持によって永田町の論理、派閥の論理をくつがえして、首相に就任しました。
 とすれば、政治が変わってほしいということにつきると思います。
国民不在の永田町の論理、派閥の論理で政治をするのはいいかげんやめてほしい、という国民の願いが高支持率になって現れています。  この期待に小泉さんは応えてくれそうな気がします。
 国会ってこんなに面白いものだったの、という声が聞かれるようになりました。
政治家が自分の言葉で語るようになりました。
また、内々に向かっての発言ではなくて、国民に対して語りかけるようになりました。
 これを国民が待っていた以上、この流れは止まらないでしょう。
 政策も、国民の方を向いてやるようになりました。
官僚の言いなりならずに、ハンセン病訴訟では控訴を断念しました。
今まで「族議員」の聖域のようになっていた道路特定財源の使途についての議論も始まりました。
 このような流れができた以上、 自分の支持基盤への利益誘導を第一に考えているような政治家は、次第に淘汰されていくでしょう。


改革への期待

 小泉内閣は、「構造改革内閣」です。
 小泉首相は、 就任後国会での所信表明で、
 私は、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」という信念の下で、経済、財政、行政、社会、政治の分野における構造改革を進めることにより、「新世紀維新」とも言うべき改革を断行したいと思います。
と述べています。
 
 同じく改革派の鳩山さんは野党でありながら、小泉政権の誕生を歓迎すると発言しています。
    (2001年5月9日小泉総理の所信表明演説に対する代表質問 民主党 鳩山 由紀夫)
  私たち民主党が、党是として主張してきた日本の構造改革に、あなたが嘘偽りなく取り組むというのであれば、あなたの内閣と真摯に議論を重ねていき、改革のスピードを競い合うことは、やぶさかではありません。
 これは、守旧派から改革派への流れを歓迎したものです。
 識者も政治家もマスコミも、口を揃えて「今、日本は改革しなければならない、」と叫んでいるのに、うわべはともかく、基本的なところで改革は進んでいません。
 改革したくない人たち、現在おいしい既得権をもっている人たちがいて、改革派対守旧派の論争が続いてきたのです。
 
 しかしここにきて、高支持率の小泉内閣が改革を断行するというのですから、改革への流れはできてくると思います。
 自民党に小泉政権が誕生して改革の方向はほぼ固まったと思います。
 このように、改革への流れをつくるという意味で、小泉内閣の誕生を、われわれは素直に喜んだらよいと思います。


小泉改革の方向は正しいか

 改革の流れがはっきりしてくると、改革の方向を決めなければなりません。
改革派といっても呉越同舟、大きく二つの考え方があると私はみています。
 一つは「小さな政府」をめざすもの、もう一つは、「福祉国家」に代わる新しい「福祉社会」をめざすものです。
 私は基本的に後者の立場に立つものですが、小泉政権は基本的にタカ派で、前者だと思います。
 タカ派とはどういうことをいうのかとのお尋ねもありました。
 広辞苑によると、タカ派は強硬派、ハト派は穏健派のことをいうのだそうです。
たか‐は【鷹派】
自分の理念・主張を貫くために、相手と妥協せず、強硬に事に対処していく人々。また、武力をもってしても主張を達しようとする人々。
はと‐は【鳩派】
強硬手段をとらず、相手と協調しつつ事を収めようとする立場をとる人々。
 が、基本的に保守の立場に立つ政党のなかでは、タカ派は保守路線を強硬に貫くサッチャーさんのようなイメージ。
経済を発展させることによって人びとが幸せになると考える人たち。
国を強くすることによって、国民が幸せになると考える人たち。
個人が少々犠牲になっても、国や企業が栄えることが大事だと考える人たちといったイメージです。つまり右派です。
アジア諸国は、特に安全保障については、首相は「右」であると警戒しています。

 それに対してハト派、穏健路線ということは、いわゆる中道。
人びとの福祉を充実させることが第一で、それにより国も豊かになると考える人たち。
国が栄えるためには、平和が何よりも大切だと考える人たち。
個人が豊かになれば国も栄えると考える人たち、というイメージです。
 社会主義革命が必要だと考える人たちは左派なので、 基本的に資本主義を守るという前提で以上のような考えの人たちがハト派です。



小泉さんの政策は未知数

 先にタカ派だと言いましたが、実は、小泉さんの政策の方向は未知数です。
国民の支持を背景にといっても、われわれが選挙したわけではありません。
小泉さんから「政策のパッケージ」が示されて、それを支持したわけでもありません。
また、内閣が明確に「政策のパッケージ」を示しているわけでもありません。
 支持率が高いといっても、小泉さんの政策の中身が支持されたわけではないと思います。
 本来は、ちゃんと総選挙をやって政権交代するべきところを、政治家の間でたらい回しにしてきたわけです。
 そのような国民不在の政権交代にようやく終止符が打たれるかもしれないという期待が高支持率になっているだけなのです。
小泉さんの政策や、これから取り組む改革の方向が正しいかどうかは、今のところ、全くと言っていいほど未知数です。


改革の方向を決めるのは私たち

 ここしばらくの改革の方向によって、これからの私たちの社会は大きく違ってきます。
その方向を決めるのは私たちです。
 小泉内閣が今後どのような政策をとるのか、高支持率の雰囲気に流されずに、注意して見ていかなければなりません。
 そして新しい政策については、積極的に議論に参加していく必要があります。
 選挙への参加はもちろんですが、最近はネットなどを通じて国民の意見が募集されることも多くなりました。
 従来の有識者の審議会に代わって、ネット上のフォーラムが政策に大きな影響力をもっているという「うわさ」も聞きます。
 積極的な国民的な議論を巻き起こそうではありませんか。
 特に若い人たちは、あなたたちが人生の主要な部分を生きることになる21世紀の社会、 それをどうしていくかの議論なのですから、積極的に参加してくださいね。


小泉政権の歴史的意義 ジェラルド・カーティス氏の意見

 最後に、偉い学者先生の意見を紹介しておきましょう。
 2001年5月6日付け中日新聞に掲載された、米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授の「小泉政権の歴史的意義」という小論の要約です。
○小泉政権誕生の歴史的な意義は二つの点で大きい。
○一つは、痛みを伴う構造改革の必要性を率直に語る指導者が爆発的な人気で歓迎され、徹底的な構造改革の追求に国民の支持を得られるであろうこと。
○もう一つは、自民党の伝統的な組織構造の崩壊の加速化である。
○小泉政権誕生の歴史的な意義と小泉政権に対する期待は別であって、90%近くの支持率を見ると、その期待は今のところ過剰である。
○小泉政権が成功すれば、それは自民党の変革を意味する。
○小泉政権が失敗しても日本の政治は逆戻りすることはない。
 その場合、自民党の分裂と政党再編も辞さない状況が生まれると思う。
○小泉政権の行方にかかわらず、日本はいよいよ政治の閉塞状況を脱皮する時に来ている。
 



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