三木二寸のあれも言いたいこれも言いたい

ハリー・ポッターの不思議

2002年1月20日

 ハリー・ポッターが流行っていますね。映画も、本も、…

 映画を見に行ったら結構面白かったので、本を読むことにしましたが、 一念発起して英語で読んでみることにしました。
アマゾンのHPを見ていたら、とっても安かったのです。
映画が見てありますので、分からない単語はどんどんとばして読んでも、 何とか筋は分かります。 それに、我が家には家人が読んでいる日本語版もありますので、英語力の不足は日本語版で補うことにしました。
 読み始めてみますと、映画とはところどころ違うところがあります。いろいろな疑問や発見もあります。

気が付いたことを随時ご紹介。
私にとっては三日坊主にならないための保険。
いつまで続きますことか、お楽しみ。

不思議その1  ◇題名が違う◇ 

 ハリー・ポッターの第1巻は、日本語版では「ハリーポッターと賢者の石」です。
今読んでいる 英語版では、「Harry Potter and the Sorcerer's Stone」となっています。
まてよ、映画館で買ってきたパンフを見てました。
表紙に「Harry Potter and the Philosopher's Stone」とあるではありませんか。
それではと、 手元の日本語版を見てみますと、日本語のタイトルに添えて、 「Harry Potter and the Philosopher's Stone」と、原題らしきものが書いてあります。
ミステリアスですね。

原題が二つあるわけはないので、原題がいつの間にかすり替わったようです。
なぜ、そんなことになったのでしょうか。

調べてみました。

映画の方ですが、 ワーナーの公式サイト では言語が選べるようになっています。 選択しますと、小窓が開いてタイトルが出てきますが、
English UKを選ぶと、「...& The Philosopher's Stone」、
English USを選ぶと、「...and The Sorcerer's Stone」
と記述されています。

作者は英国人ですから、もともとは、「...& The Philosopher's Stone」だった、
それが、何かの事情で、米国では、「...and The Sorcerer's Stone」になっているのだと推測できます。
過酷な調べはさらに続きます。
検索を続けるうちに、 http://www.bookbrowse.com/index.cfm?page=title&titleID=452 に行き着きました。
Harry Potter and The Sorcerer's Stone:
1st Published in UK as Harry Potter & The Philosopher's Stone
by J.K. (Joanne) Rowling
Publisher: Arthur A. Levine Books
Published: Sep 1999 (Paperback)
Published: Sep 1998 (Hardcover)
とあるではありませんか。
とりあえず、推測はあたりました。

そして、最後に行き着いたのは、 『ハリー・ポッター』の秘密の教科書です。
この本の、3ページ、218ページに事情はすべて書いてありました。
引用します。
(3ページ)
 1997年の夏、「Harry Potter and the Philosopher's Stone」というタイトルの本が、イギリスの本屋さんにならびました。…
 1998年には、アメリカでも出版されました。
 アメリカでは、題名が変わって、「Harry Potter and the Sorcerer's Stone」になりました。
(218ページ)
 同じ英語を使う国なのに、題名まで変えてしまうなんてどうしてなのでしょう。
 アメリカのスコラステック社(注:アメリカ版の出版社)の副社長であり、…レビンさんは、… … 「いや、Philosopher's Stoneという題名も私は好きだったのですよ。 ただ、この本の英語版を読んだとき、この小説のスピリッツ(根本的なテーマ)を的確にとらえているようには感じなかったです。… 彼女(注:作者のJ.K.ローリング)は、Sorcererはどうかと言ってきた。…」
 そして、題名変更にともない、内容も、アメリカの読者になじみのある、アメリカ英語に注意深く訳していくことにしたのです。

事情はよく分かりましたが、…。では、私の読んでいるのは、原作ではないの! すごくショック。

ところで、「賢者の石」とは、何でしょう。 映画のなかでも、登場人物の会話でおおよそ分かりますが、これも調べてみました。

  「ハリー・ポッターの魔法世界ガイド」という本がありますので、 それで調べてみますと、「賢者の石」は、魔法使いの石の名で知られる伝説の魔法物質だそうです。 錬金術と関係があって、賢者の石を作り出したニコラス・フラメルも中世の錬金術師だそうです。
そこで、百科事典をひもとくと、物語の中で「賢者の石」を作り出したというニコラス・フラメルは、 「二十数年の苦心の末,3度にわたって黄金造成に成功したと伝えられる」(平凡社・世界大百科事典)実在の錬金術師だそうです。 生没年は、1330年ころから1418年とのこと。
「賢者の石」は、英語の辞書にも載っていていて、
philosopher's stone
 n. [the 〜] 賢者の石
《卑金属を黄金に化したり寿命を延ばしたりする力があると考えられた物質で, 中世錬金術師たちが捜し求めた》 とあります。(リーダーズ)
CODという権威のある英英辞書でも、
the supreme object of alchemy, a substance supposed to change other metals into gold or silver.
と、同様の説明です。

不思議その2  ◇ダーズリーさんは、社長さん? それとも課長さん?◇ 

 ダーズリーさんは、ハリー・ポッターのおじさんです。
ダーズリーさんの奥さんが、ハリーのおかあさんの妹で、ハリーはダーズリーさんちで養われています。
(英語版では、sisterですので、姉か妹かは分かりません。日本語版では「実の妹」と訳しています。)
そのダーズリーさんの職業ですが、
 日本語版では、
「ダーズリー氏は、穴あけドリルを製造しているグラニングズ社の社長だ。」
とされています。

 一方、英語版では、
「Mr.dursley was the director of a firm called Grunnings, which made drills.」
とされています。
問題は、「director」が社長さんかどうかです。

リーダーズという英和辞書では、
管理者とか、重役, 取締役という訳が出ています。
CODという英英辞書では、
「a person who directs or controls something.」
「a member of the managing board of a commercial company.」
一般的には、何かを指示あるいは管理する職にある人、会社では取締役、重役ということですね。
COBUILDという英英辞書では、
「The directors of a company are its most senior managers, who meet regularly to make important decisions about how it will be run.」
会社では最上級のマネージャーで、経営に関する重要な決定に参画する、ということです。

 日本では、課長さんの名刺をいただくと、裏に英文で「director」と刷ってあったりしますが、 「director」はもう少し偉い人のようですね。課長さんは、「manager」でしょうか。 和英辞典では、「a section chief」という訳が出ていました。
 子どもに分かりやすく社長と訳したのでしょうが、日本で社長というと、 中小企業の場合は会社のオーナー、大会社では雲の上の人のイメージがあって、 「director」とはイメージが違うように思います。
「重役」か「部長」あたりの訳でよかったような気もしますが、 素人がこんなことを言っては、訳者に失礼でしょうか。

なお、英語のお師匠さんに調べてもらったところ、 一般的ではないが、社長を'director' と呼ぶこともあるそうです。
ちなみに従業員4〜5人の小さい会社の場合は、'owner' が最も一般的だそうです。
ご参考までに、…。



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