2002.06.18
ガーナから掲示板に書き込むのに、higeoyazで検索して思ったのですが
テンキーさんのHPから
リンクされてませんか、ベルデセルバ戦記。
ものすんげえことのように思います。
ただいまですただいまです
結構みなさん心配してくれていたようで感謝感激雨霰。
ではお待ちかね
ガーナ編をぼちぼちと。
5月23日 〜出発まで
僕が日本から持ってきた普通の旅の用意では、足りない品物を妹と買い揃えながら
バタバタと過ごす。
例えば帽子にサングラス。
「お兄ちゃんサングラス似合わんよなあ」
「それヘン。そんなんで私に近づかんといて」
日焼け止めに抗菌石けん。
歩いたり運動できる、しっかりしたサンダルと
風呂場や海で履く、濡れてもいいサンダル。
ディートという虫除けスプレーや
イモディウムという下痢止め。
そして
仲良くなった人へ贈るプレゼント選びなどなど。
そしてボストン空港・スイス航空カウンター前に15:30集合ということで
余裕を持って2時に部屋を出たのだった。
「本人が時間通りに来やへんのやで。すごいよな」
「ジョーはあんましっかりした人じゃないから自分らで気をつけなアカン」
「こっちの人はみんなルーズやで」
「私らも遅くてもよかったなあ」
いいや。
他の人が遅れるからといって、自分が遅れてもいい理由にはならない。
「アフリカ行くけど、一緒に行きたい?」
うん。
ということなので、僕はよく知らないんだけど、この旅行、
妹の留学しているバークリー(Berklee)という音楽大学の、ジョー先生が生徒を連れて行く
というものらしい。
ふーん。
ジョー先生はあんまり頼りにならないのかあ。そんな人がリーダーで大丈夫かいな。
なんとなく、ひょろっとしてフラフラしていそうな人物を頭の中で思い描く。
それで参加者は?
「全部で10人くらいやって」
へええ。
なんか空港まで来て急に不安になってきたなあ。
16:00になろうというとき、先生到着。
うわあ、大きい。よく肥えていてお髭ですか、ジョー先生。
ジョー! ジョー! とまわりからみんなが集まってきて参加者同士で握手し合う。
「トモーコ!」
妹とジョーが握手しながら、これが兄で英語ができないとか紹介してもらっているよう。
ま、マイネーム is サトシ。
「サトーシ!」
がっちりと握手。
そして各自カウンターへと並び、ジョーから受け取った航空券を搭乗券へと換えてもらう手続きを。
しかし僕のチケットを見た妹が顔色を変える。
ジョーにワーッと英語でしゃべってカウンターへ走っていく。
なに? なに? いきなりトラブル発生ですか?
「ちょっと! お兄ちゃんも来てよ!」
え? え?
どうやら妹と僕の座席番号、荷物タグ番号までがまったく同じにされているらしい。
なるほど。
ボストンの空港で日本人のちょっと変わった名字。
そんな同じ名前だから同じ人物だと勘違いしたな、スイスエアー。
ジョーがこのふたりはbrother&sisterだ、と事情を説明して速やかに解決。
そしてこれからはホテルや空港で、brother&sisterだということをハッキリいうように、と。
頼りになるやん! teacher ジョー!
スナック菓子が大好きで手放せないんだ、たぶん英語でそんなことを言って
みんなとボリボリ食べながらジョーから諸注意。
僕にはびた一文わからなかったけど、妹の友子が言うには
一人でどっかに行くな、とか一般的な注意だったそうだ。
合間をぬってお互いに自己紹介し合う。
えと、女の人がクリスチアンさんで・・・
Tシャツに自分の名前を付けているcalebさんが、カレブさんかセレブさんだな
で
マンクさんとマイクさんがいて
ははあ、マンクさんは丸坊主でモンクみたいなマンクさん、と。
そして長身でお髭で合気道をしている、というのがエヴンさん、か。
大きいなあ、180センチは超えてるんじゃなかろうか。
みんな異国の人だから。
顔を覚えるのも名前を覚えるのも難しい。
2002.06.20
5月24日? スイス
ガーナまで直通ではなく、スイスで乗り継ぎ。
少し時間があるということで市内観光をすることに。
日本人はビザなしでも、観光目的で航空券を持っていれば
スイスもアメリカと同じように問題なく入国できた。
だけどクリスチアンさんが。
「彼女、中東の人だから」
入国はできたけど、特別に厳しい扱いを受けていた。
わずか3時間で何が見れるのかいなあ、バスで流してシマイだろうか、
などと考えていたのだけど・・・。
長身。
若い頃に鍛え上げたんだろうな、という立派な体躯。
握手をする手も大きく力強い。
そんなジョーのお友達らしい人の歓迎とガイドを受けて驚きの充実。
まずは電車に乗って空港から市内へ。
当然、切符を買ったのだけど・・・どこにも見せなかったような・・・?
ノーチェック???
着いた駅なんか階段も改札もなくて
ホームと駅の出口が同じ高さ、同じ平面でビルの中に入っていた。
ホームの高さなんかも、もし線路に落ちたとしても上がってこれるくらい低い。
そんな中を音もなく揺れもなくスーッと走る。
街には路面電車がひっきりなしに走る。採算採れるのか心配になるくらい走る。
車道を車と一緒に。人とも同じ高さ、同じ平面で。
なんだろう、この列車と人間との独特の距離感は。
心地いい。
澄んだ湖に、絵に描いたような路地、美しい時計塔。
なんなんだ。
空気もきれい。
すぐ横の車道が混み合って、トラックがアイドリングしているのに
まったく臭くない。
どうなってるんだ。
標高が高いらしくて、気温が低い。
Tシャツに長めの半ズボン、という思いっきりアフリカ向けの格好をしていた
お髭のエヴンは・・・
航空会社のブランケットをそのままマントにしていた。
「すごいよな」
て、適応力たけぇ〜
エヴンがこっちを見て笑ったので、ブランケットを指さして
Cool!
5月24日? ガーナへ
乗り継ぎのガーナ行きの列は・・・こ、黒人の人ばっかり。
「いよいよって感じやな」
あ、ああ。
よく考えてみれば、日本に住んでいる僕が、こんなにたくさんの黒人の人を見る機会
なんて当然なかったわけで。
なんというか、びっくりだった。
ここでFMとコフィさんが遅れて合流したんだっけ。
ニルス、カモン、ニルース、カモーナップとか甲高い声で言われ
そのまま思わずガチョウに乗って旅に出てしまいそうな景色を眼下にしながら
スイスをあとに。
途中の景色も絶句ものだった。
あれってアルプスなんだろうか、とか
この広がっているのは砂漠だろうか、とか。
高度を下げ始めた飛行機から見える物は・・・
森の中を切り開いて豪快に走る道路、
低い建物が密集しつつ、どうにも活気のありそうな街。
これがアフリカ・・・。
着陸したとき、ガーナは夜だった。
赤道に近い国ということで、降りたとたん熱風が吹き付けてくる、くらいの覚悟を
していたのだけど、別に暑くない。普通の気温。
空港も、あえて言うなら、
ただっ広い滑走路とターミナルビルの大きさが少しアンバランスかな
というくらいで立派なもの。
ビザと帰りの航空券、それに機内で記入した入国カードを見せて
・・・あとは相手が何をしゃべっているのか理解できない。
え? え? なんですか? ワンスモア、プリーズ。
と言っているうちに入国審査は無事に。
たぶん無事に。
次は預けてあるスーツケースの受け取りだな。
コンベヤーで流れてくる自分のカバンを見つけて、よいしょっと。
そこへ制服を着た人がやってきて、your sisterのカバンも、と言って
車輪付き手押し車に乗せてくれる。
あ、これはどうも。thank youです。
とお礼を言ったら
「お兄ちゃん何やっとんの! 自分でやらんとお金とられる!」
なにィ?!
まだ税関も通過していなくて、制服を着ていて、兄妹だと知っていて
もうかよ!?
あとで妹に教えてもらったことだけど
黒人の人は、一般的な女の人に対しても「sister」と呼びかけるんだって。
注意して聴いていると、実際そうだった。
税関・・・? なのか? ただ人が列んで順番に通過していっているだけだけど。
「お兄ちゃん! もっと強引に行かな!」
「あっ、また抜かされた! ほらあ!」
・・・僕は人を押しのけるのが好きじゃあないんだよ。
「もう、わたし自分でやる」
とっとと行ってしまった。
なんだか、僕だけ遅れちゃった、な。
「ジャポン! ジャポン!」
はぐれた僕の荷物に、次々と人が取り付いてくる。
myselfだ! myselfで運ぶ! 運べる!
ますます歩みが遅れてしまう。
No thank youだあ!
あ、myselfというよりNo thank youの方が効果が高いのか。
潮が引く様に下がっていく。
ちょっと心の痛むセリフではあるが、この際、致し方ない。
No thank you!
No thank you!
No thank you!
「サンモジ ミツユニュウ」
・・・?
「サンモジ ミツユニュウ」
・・・三文字、密輸入・・・
どこで覚えたそんな日本語。
I dont know!
No thank you!
No thank you!
No thank you!
すいません、遅れました。
やっとみんなが集合している場所へとたどり着く。
どうやら迎えを待っているらしく、そこでしばらく待つことに。
道は舗装されてるし、蚊もいないな。
外国人の集団をまわりの人たちが放っておいてくれるはずもなく
次々と話しかけて握手を求めたりしている。
僕は眼だけを光らせ、身を固くしていることしかできなかった。
アメリカから来た、というだけで、とんでもないことであり
こちらの人が一生働いても手に入らないようなものを
気軽に持ってしまっている。
・・・そう、妹から送られてきた注意書きに記されていた。
日本の外務省渡航情報によると、ガーナは危険度1国で。
予防注射をし、水に気をつけ、生ものは絶対に避け、
食べ物は調理されたものを熱いうちに食べなければならない。
・・・そんなふうに書かれていた。
民族衣装を着た、とても陽気な人がやってきて、みんなと握手をしている。
僕は誰が誰だかまったくわからない状態。
この人が迎えに来てくれた人だったのに、すごい眼つきで握手したと思う。
そしてワゴンと乗用車の2台に荷物を詰め込み、分乗。
誰に荷物を預けていいのかも疑心暗鬼。
ちゃんと積んでくれるか最後まで眼で追っていた。
パンチの効いた排ガスを吹き上げ、自動車のエンジンがかかる。
僕はジョー先生と同じ、乗用車の方に乗ることに。
空港のゲートにもたくさんの人が張り付いている。
それだけ外国人旅行者の持つお金がすごいということだろうか。
「ジョー! ジョー!」
走る車の外から、ジョーを呼ぶ声もする。
信号で止まれば、窓へ人が走り寄ってくる。
そしてしゃべられている言葉は、すべて英語で。
もう、なにが、なんなのか。
ホテルについて、荷物をおろして。
ジョーからまた諸注意があったけど・・・またひとつもわからなかった。
そして部屋割りがあって、僕は妹と同室で。
部屋へむかってカバンを転がそうとすると、またひとり。
No thank you。 myselfで運べます。
しかし
自己紹介をして、
「Dont worry あなたの手伝いがしたいんだ」
というようなことを。
この人は、僕らの乗った乗用車を運転してくれていた人だね。
そして、それでも断る妹のカバンを頭の上に担ぎ上げ
あっ、というまに階段を駆け上がり、2階の部屋まで運んでしまった。
なんて力だ。
スーツケースを頭上かよ。
カギをしめて、その扉の前に立たれる。
密室でどうにもイヤな位置取りだな。
力の差は見せつけられてるしな。
そして、何かお礼はないのか、と言っているらしかった。
くっ。
手伝いってのは、そういう手伝いなのか。
「お兄ちゃん、なにか渡せるようなもの、ある?」
ないよ。
「そうやんな」
まだ僕らは両替前で、ガーナのお金を持っていないのだ。
なので仕方なく、妹が、これは私からあなたへのgiftである、と言って
1ドル札を差し出した。
ドルを相手に見せることは絶対にしちゃいけない! ・・・んだけど・・・。
返す返すも無念な。
相手はいったんは1ドル札を受け取りながらも・・・なぜか返してくる。
そして両替が明日だと知ると、じゃあ明日、贈り物はくれ、と。
僕からも欲しそうな顔をしたけど
僕の恐怖・疲労・無念・ぶ然、あらゆるものが混ざった表情を見ると
そのまま出ていった。
「お兄ちゃんは手伝ってもらってないんだから払ったらあかんよ」
ああ。
「いい勉強になったな」
ああ。
電気はきてる。
水道もきてる。
お湯は出ないけどシャワーを浴びて、電気を消し、ベッドに横になる。
かつてない、深い不安。
この先、元気でいられる保証はなにもなく。
スピード速くしゃべられる英語は、まったく聴き取れない。
知らない人間に囲まれて
言葉が通じない。
そのうち誰にも相手にされなくなるんじゃないだろうか。
友子に話しかけようとして、やっぱり口をつぐむ。
いま、僕の口から出るのは不安ばかりだ。
不安をうつしちゃいけない。
僕にはこの体ひとつしかない、というまわりをつつみこむような不安。
闇に体をつつまれるような。
ダメだ! こんなことじゃダメだ!
こんな気の持ち方をしていては、すぐに潰れてしまう。
気を抜いてはダメだけど、もっとリラックスしないと。
堂々としろ。
自分から話しかけるのが苦手とか言っている場合じゃない。
言うようにしよう。たとえ言葉が足りなくても。
もはや、自分の生きるか死ぬか。
言葉をこえた気迫あるのみ。
時差を直していない時計を見ると、出発してから24時間ほど経っていた。
2002.06.22
5月25日 朝
寝付きは悪かったけれども、結局は結構眠れたようだった。
昨晩、もうひとつ思ったのは、
カバンを持とうとしてくるのは契約を持ち掛けられているのだな、ということ。
親切ではなくて、契約。
親切は断りにくいけど、契約ならYES、NOをハッキリ言える。
妹も昨晩は思うところがあったようだ。
朝起きると、僕に
「日本の常識はまったく通用しやんな」
そう話しかけてきた。
そして僕の譲る態度や、挨拶のときにする『おじぎ』をやめろ、と。
譲ったり、頭を下げても馬鹿にされるだけ、だという。
さあ? それはどうかな。
形にかかわらず、心ってのは通じるものだと信じたい。
アメリカ人もガーナの人も、みんな自分のスタイルでやっている。
僕も自分のスタイルは捨てないよ。
う、海?!
階下に降りて驚く。
目の前に海が広がっていた。
昨日は暗くて気づかなかったけれど、このホテル、海に面してる。
海から吹き付ける強い風のなかで食べたオムレツは
なんでこんなに?!
というほど美味しかった。
オムレツ、トースト、それに紅茶。
あれ? すごい優雅な。
日本やアメリカにいるときよりもいいもの食べてないか?
エヴンが食べている、その、おかゆみたいなのはなんなんだろうか。
あんまり気になるので、思い切って訊ねてみることに。
whats this food name. what is this?
「〜〜〜オートミール〜〜〜〜〜〜」
ああ、なんか聞いたことがあるような気がする。名前だけ。
オートミールっておかゆだったのか。でも、米なのだろうか? なんなのだろうか?
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
え、えーと。まったくわからないんですけど。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜a kind of rice〜〜〜〜〜〜」
あ、ちょっとわかったような。
kind of rice? rice? 米の一種?
ふうむ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜フクオカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
福岡? 福岡で穫れるんだろうか? そんなのの産地だっけ?
「フクオカって人の本を読んだことがあるって」
妹から助け船。
あー、あー、とおーーーい記憶にそんな名前が・・・あるようなないような。
ナチュラル? ナチュラル農法の人じゃあないですか?
「知ってるのか?、って」
だーーーいぶ前、新聞をとっていた頃、読んだような気がする。
外国のやせた土地とかで、なんかすごい功績を上げているとか、なんとか
i read newspaper.
朝食後、ジョーの部屋に集まる。両替。
ジョーのベッドがすごいことに。
札束がゴロゴロ、ゴロゴロ。
僕は昨晩のうちに300ドル預けておいたんだけど。
「トシオ」
呼ばれて、片手で持てる限界くらい厚みのある札束を渡される。
なんか違う名前で呼ばれてるけど、それよりもまずはコレだ。
なにコレ。
うなる札束を持ったまま、ジョーからの話をきく。
話の内容は、やっぱりびた一文わからなかったけども。
妹、「29枚とって返す」
ふーん。
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
ん、もう一回数えてたしかめておこう。
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
うん。間違いない。29枚だ。
じゃあ、返しまーす。
「ちょっと! お兄ちゃん何やっとんの!」
え?
29枚を手許に残して、あとの札束全部返した僕を見て
民族衣装の人、大爆笑。
「トシオ! トシオ!」
あ、えーと、僕の名前は my name is サトシ。
「サトシ! サトシ!」
思いっきり握手を求められて。あ、なんかすごい嬉しい。不安が少し薄らぐような。
だけど、あれれ? なんかうまく握手できない。
ガーナの握手は普通の握手とちょっと違う。
お互いに握りあったあと、手を離すときに中指だけ残して
最後ににパチンと指を鳴らす。
へええ。
その握手の仕方を教えてもらった。
やっぱり300ドルはすごい札束の方だった。返す方が29枚。
すごい札束にみえるけど
ボク サクセスしたよー マーム!
とか、はしゃいで無駄遣いしないように。ドラムを買ったら、すぐにお金なんかなくなる。
って多分。
爆笑。すごいノリだなあ。
良質のドラムがアメリカに比べて格段に安い値段で手に入るので
みんなはそれも楽しみにして参加しているわけです。
この民族衣装の人、きっとすごい人だ。
ガーナの人で唯一、両替中の部屋に立ち会っている、その一事だけでもジョーの信頼がわかる。
顔立ちは・・・ダメだ。わからない。
この民族衣装を着替えられたら、正直、他の人と見分けがつかない。
ガーナの人は、まだ一人たりとも見分けられない僕だった。
2002.06.23
5月25日 電気のない村へ
「電気のない村に行く」
「海と熱帯雨林と山の上のガーデンに行く」
これが、この旅行について僕の知らされている、ほとんどすべてだったりする。
そして今日これから、その電気のない、コペイヤ村に移動するらしい。
ここ、首都アクラから車で3時間くらいだって。
みんな部屋から、ホテルの玄関前にスーツケースなどの荷物を運び出し。
そして空港のときと同じく、ワゴンと乗用車の二台に荷造りしてもらう。
そのちょっとした空き時間を利用して、軽く雑談などが交わされている。
友子が昨日のお金を払っているのが目に入る。
あれ、それって2000札だよな? よく持ってたな。
僕らがもらった札束、全部5000札だったけど。
「両替してもらった」
ふーん。やっぱ5000は多いって?
「うん。多いって」
ガーナの通貨単位は、シリーというらしい。
あとで知ったことだけど
1ドルは7800シリー。
そして1ドルが、だいたいこちらでの日給に相当するそうだ。
「なんであのとき、1ドル札返してきたんやろな?」
さあなあ。
「やたらとおじぎしてくるな」
僕がしてるからなあ。
マンクさんは、
ひょうたんのような植物に、魚をとる網をかぶせて、その網に小さい貝殻を沢山つけた
そういうガーナのマラカスを借りて、リズムを刻んでいる。
マンクさんが、本当はマークさんだということを知るのは
もうちょっと後のことになる。
いや・・・僕の中ではもう永遠にマンクさんはマンクさんだが。
マイクさんはガーナの人たちに手品を見せて、大いに沸かせている。
輪ゴムとコインの手品だ。
コインが左右の手を不思議と行き来し
二本の輪ゴムが何故かお互いにすり抜けあう。
なかにはタネを知っているのもあったけど、それでも見事なほどの腕前だった。
TRY!
と叫んで、無理矢理、輪ゴムを引っ張る人まで出て、大盛り上がり。
飛行機の中でも、ずっとトランプをかすってたもんなあ、マイクさん。
たゆまぬ努力のたまものなんだなあ。
まだこんときはマンクさんとマイクさんを混同してたがな。
今度は僕はワゴンの方に乗り込み、走り出す。
サビの浮いた内壁
破れの目立つシート
はずれる扉
がんばれNISSAN! すごいぞNISSAN! 左ハンドルNISSAN!
こんなになってもバリバリ走る日本車の実力、しかと。
ここは首都アクラ。
アフリカの国のなかでは比較的裕福らしいガーナの首都だけあって
窓からの街並みは綺麗なもの。
道は当然舗装されて、中央分離帯を挟んで2〜3車線ずつくらいある。
違うことと言えば・・・
道行く人が荷物を頭の上に載せていることかな。
すごくデカくて重そうなものまで器用にバランスをとって。
手を添えずに歩いている人までいる!
そして車が信号で止まると、そういう人たちが窓に寄ってきて物を売る。
走り出しながら品物とお金をやりとりする様は駅弁の風情か?
僕は、頭の上にものを載せるのって、インドとかのあたりの習慣だとばかり思ってた。
だけどまあ、現に目の前でみんなしてるわけで。
すごい技術だなあ。
たしかに、自分の肩幅を超えるほどの荷物まで頭に担ぎ上げることができて
そして手を添えなくても歩けるのならば
両手が空くから、便利だね。
できるのであれば、だけど。
首痛めないのかなあ。
しかしそういう景色は長くは続かない。
だんだんと建造物はまばら、緑が多くなっていく。
そんな快調に飛ばしているようにみえたワゴンながら、路肩に寄せて止まる。
プシュー
まさに前輪がそんな音をたてていた。パンク!?
こ、これはなかなか。
幸い少し引き返したあたりで修理ができるらしくて小休止。
そんな車から降りた外国人の集団に、当然の事ながら物を売りに人が集まってくる。
やっぱり品物は頭の上。
みんな現地の人と色々しゃべっているんだけど僕は英語ができないからなあ。
ガーナにはいくつか言語があるらしくて
それを統一する、ガーナ国内の公用語として英語を採用しているみたい。
だからほんの小さい子供でも英語が使える。
そんな子供以下です、僕。
というわけで端っこで独りパヤパヤしていた僕をみて、小さい女の子が笑った。
そして近づいてきて
「whats your name?」って。
Satoshi
サ・ト・シ。
何がおかしいのか、また笑われる。
「Japanese name?」
うん。Japanese name。
よく日本を知ってたなあ。
your name?
「エス」
コン(←コングラチュレーションと言いかけた。なんでやんねん)
な、ナイス to meet you。
見ていた周りの人たち、笑ってるし。
頭をかく。
それで握手をしたのだけど、嬉しかった僕は、思わず握手に左手を添えてしまった。
サッと女の子の雰囲気が変わった気がした。
しまった!
左手を使ってはならない。
握手をしたり、物を渡すのに左手を使ってはならない。
理由は知らないけど、失礼らしい。
添えるのもダメなのか。
僕は右利きだけど、日常生活で結構左手も使う。
これ以後、できるだけ左手には何かを持っておくか、
荷物がないときは服の裾でも握っておくことにする。
そして修理を終えたワゴンは再び走り出す。
郊外に出れば車の数は一気に少なくなるわけで。舗装道を飛ばす飛ばす。
ときどき路面の状況が悪いらしくて減速するけれども、ドンドン気持ちよく走る。
古いワゴンにすし詰め。
擦り切れたカセットテープから流れるレゲエのリズム。
暑いから窓は全開。
風のまく車内。
とても目を開けていられない。
まぶしくないけどゴーグル代わりにサングラス。
見渡す限りの緑。
このあたり結構平坦そうだから、あの遠くに見えるラインは地平線でいいのかなあ。
サングラスの隙間からのぞく。
胸が躍る。
2002.06.24
5月25日 コペイヤ
ワゴンが減速し、道の脇へと逸れる。
デコボコと上下に揺すられるなか、子供達が走り寄ってくるのが見える。
みんな口々に
「ジョー! ジョー!」と。
車を降りると、しっかりした造りの建物に通される。そこが僕らの生活の場らしい。
部屋割りは今度も妹と同室で。配慮してくれてるなあ。
荷物をおいて外へ出ると
すぐ正面にある屋根付き石敷きの広場で
さっそくドラムが叩かれていた。
それに気軽な感じでジョーが加わり・・・
と思ったが見ているうちに素人目にもすごいことになって・・・
「マジック!」
と称賛されていた。
そうやってみんなが外へ集まったころ、村の人を先頭にして歩き出す。
僕には何が起きているのかわからなかったが、とりあえずついていく。
すると一人の子供が近づいてきて
「whats your name?」と。
my name is サ・ト・シ。
サ・ト・シ。
どうもサトシという発音が難しいようで。なかなか苦戦している。
それでwhats your name?、君は?
「コブラベ」
う、うーむ。これまた変わった名前だな。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
え? なに? もう一度?
「〜〜〜〜〜〜make〜〜〜friend」
フレンド? ああ、友達になろうって?
friend? each other フレンド?
指でお互いを往復する。
うなずいてくれたので
ThankYou!
感情が動いて無意識に頭が下がる。
子供達が次々に走ってきて、やはり「ジョー! ジョー!」と呼ばわっている。
風の谷を訪れたユパ状態。
そして次々に僕らと手をつないでいく。
僕の所にもひとり。
「name?」
名前か? 僕はサトシ。サ・ト・シ。
Your name?
「マロイ」
ふむふむ。
どうやら村を案内してくれているみたいだな。
この辺りは畑か。この一面に植わっているのは多分、トウモロコシだろう。
これをどう思う?
と訊かれて。
すごいよそりゃあ、great!
で、えっと、your nameはなんだっけ?
「コブラベ」
そうそう。コブラベ、コブラベ、コブラベ。
「Your name アゲイン」
サトシ。サ・ト・シ。
っはっはっは。
お互い大苦戦だなあ。
そしてしゃがんで、手をつないでいる、ごく小さい子供にも訊いておく。
名前なんだっけ?
「マロイ」
そうそう。マロイ、マロイ、マロイ。
土が気になった僕は、そっと地面をつまんでみた。
砂だ。
それも砂漠の砂だと言われれば、そうかと思うくらいの、赤っぽい砂だ。
すぐに払ったつもりだったけど、指の爪に入り込んでとれなくなる。
キメも細かい。
で、えっと、your nameはなんだっけ?
「マロイ」
そうそう。マロイ、マロイ。
手をつないでいる子供が、畑の端を歩こうとするので、畑の中を踏んでしまいそう。
よっ。
ほっ。
ちょ、ちょっと。
ええか、君が、そこを歩くと、僕が畑に入ってしまう。
だから君は、もう少し、そちらを歩いて、ほしい。
全部ジェスチャー付き日本語で伝えたのだけどわかってくれる。
うんうん。
で、your nameはなんだっけ?
「マリー」
そうそう。マリー。
ってあれ?! そんな女の子みたいな名前だっけか?
マリーか? マリーなのか? 本当にマリーか?
妹、「ちゃんとマロイって言ってるやん」
え、あれ? そうか?
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
誰かに話しかけられて。
え? なんですか?
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
え?
「エ?」
え?
「エ?」
え?
「エ?」
え?
「エ?」
え?
「エ?」
え?
どこまでいくねーん。
あ、あー、sorry,i speak a little english。
ちょっと、ちょっとだけ、と人差し指と親指をわずかに開いてみせる。
「your english is small?」
YES、いえーす。my english samll。
そうかあ。smallで通じるのか。
これ以後、コミュニケーションに失敗したときには、そう言うことにする。
畑が途切れると、塀があって、その門をくぐると外観の立派な家が建っていた。
傍らの子供が
「これはエマニエルのお家で、みんなで住んでいる。Do you know エマニエル?」
うーん。
これだけの家を建てられるのは、あの民族衣装の人をおいて他にいないと思う。
だけどあの人、そんな名前だったかな?
そんな名前でいいんです。
だけどまだ覚えていなかったという。
うーん。 i dont know。
あれ? って顔をされる。
その家の庭の木の下に卓球台が置かれていた。
ほほう。アフリカでも卓球をするんだ。ちょっと意外な感じがするな。
そしてすぐに勝負が始まる。
ジョー 対 いかにも腕の立ちそうな村の若者
見ていて腕の差は歴然。
ジョーは1ポイントもとれない。
そして
「台が傾いているからだ」とか
「そちらのコートが狭すぎるから入らないんだ」とか
言っている。
『アメリカ人は言い訳がすごい。遅刻をして教室に入ってきてもその理由を延々としゃべる』
妹がそう言っていたのを思い出す。
さらに見ていると、
村の人も、台の脚に物をかませたりして逐一要求に応じていた。
う、うーん?
日本人の僕の感覚では、あまり感心できることではないな。
ここはひとつ、元卓球部キャプテンの僕が名乗りをあげるか・・・ドキドキするけど。
i am tableテニス
player ピンポン。
「Really?!」
YES。
久しぶりだな、この感覚。この闘志!
ジョーからラケットを受け取る。
サトーシ!
サトシ! サトシ! サトシ! サトシ! サトシ! ・・・
なんかテンポの速いサトシ・コールが沸き起こる。
会場は、異様な熱気と興奮に包まれ・・・
惨敗しますた。
気迫だけで相手を連続サーブミスに追い込んだのが、唯一の見せ場。
「ちょっとぉ、お兄ちゃん、がんばってよー」
そ、sorry。
面目次第もござりませぬ。
あとでジョーにも謝らないと。
「サトーシ!」
ああ、すまんなあ、えっと、コブラベでいいんだっけ? 名前。
そうだよな、蛇のコブラ(+)ベ、って覚えておこう。
で? なんだっけ?
ふむふむ、コブラベはこの家に住んでるんだな?
会いたくなったらここに来ればいい?
わかった。
「see you」
うん。じゃあ、また。
2002.06.25
5月25日 コペイヤでの生活
僕らの生活する場は、塀で囲まれていて、どうやら普通の村人は入れないようになっているみたい。
その僕らの寝泊まりする施設を中心にして周りに村が広がっている。
まずは大きな水瓶のおかれているところへ案内されて。
ははあ。
手を洗うには、この洗面器を使う、と。
そしてシャワーを浴びるには
この大きな水瓶からバケツに水をくんで・・・
そのバケツと手桶を持って個室に移動。
バケツから少しずつ水をくんでは自分にかける、わけか。
電気が来ていないというのは聞いていたけど
水道も来ていないんだなあ。
だけど、このシャワーは楽しかったです。
懐中電灯を持って個室にこもり、残りの水の量を睨みながら
今回は頭を洗いたいから体は適当、とか
今回は顔と体中心だから頭は水洗い、とかね。
それに対して閉口したのはトイレ。
汲み取り式の洋式便器。ここまではいい。
問題は、その便器が汚いこと。手持ちのトイレットペーパーで拭くと茶色くなる。
それと
拭いた紙は便器内に落とさずに
横に備えられた箱に入れるというのが。
もし、前に使った人が便器や箱の蓋を閉め忘れると、ハエだらけに。
僕は下痢はするけど便秘はしない方で。
本来は毎日出ます。日によっては2〜3回出ます。
そんな僕だけど・・・コペイヤ滞在中は
気合いを込めて
2〜3日に1回まで減らしました。
飲み水はというと
浄水装置があるそうで、それに通した水をペットボトルにつめて
台所の辺りに置いておいてくれる、という具合。
つまり、僕らがその他の水を飲むのは危険なわけで。
常にそのペットボトルを命綱のように携行することになります。
食事は、どれも美味しかったです。
朝はパンとミロ(ココア?)、それにバナナ。
昼は芋にカレーのようなものをかけて。それに柑橘系のフルーツ。
夜はライスに、やはりカレーのようなものをかけて、フルーツはパイナップル。
日によって多少のバリエーションはあったけれど
だいたい大まかにはこんな感じ。
ハエが多いので。
勢い、右手で食べながら左手でハエを追うようなことになります。
ガーナの果物はどれもおいしくて。
特にパイナップルのうまさと言ったら!
日本でパイナップルをたくさん食べると、口の中が痛くなるじゃあないですか。
あれがないんです。
多分、よく熟しているからだと思います。
甘いんだよなあ、パイナップル。
しかし僕は自分の体があまり丈夫ではないことを知っているので。
生ものであるフルーツはグッと我慢です。
正規の食事で出された物に限って、少量摂るだけにとどめます。
あと、水分の摂り過ぎで胃腸が弱るのを恐れました。
本当にのどが渇いたと感じるときだけ、渇きがおさまる程度に飲むようにしました。
自分の体に正直に。
当然食事の量にも気をつけます。
必ず3食キチンと食べるかわりに、どんなに美味しくても、おかわりはせず
一皿をよく噛んで食べるという作戦でいくことに。
5月25日 夜の海
部屋の中は昼間でも暗くて、風通しが悪いのか暑い。
なので特にすることがなければ、屋根付きの石床の広場で腰掛けておくのが涼しくて良い。
空気の通る日陰なら、日中でも涼しかった。
そうやって涼んでいると、みんな気軽に置いてあるドラムを叩いたり踊ったり。
それも音大の学生さんと、本場本物の叩き手、踊り手なわけで。
よくわからないなりにすごい。
そんなこんなで日が暮れて。
「海に行くんやって! 行く? なんかすぐそこが海なんやって」
行く。
それにしても・・・星が少ないな。
「な。もっと空中、星だらけになるんかと思った」
そうやんなあ。電気が来てないんやもんなあ。
あ。
月のせいじゃないか?
正確には満月ではないのかもしれないけど、ものすごく大きくて明るい月が出ていた。
すぐそこというから、歩いて行くのかと思ったけど
さすがにそこまでは近くではなく。
みんなでワゴンに乗り込んでレゲエに体を揺らしながら海岸へ。
夜の海は・・・。
ただの海、
ただの海岸に
ただの満月が
あたりまえに海面をてらす。
ジョーが、多分、いたずらっぽく笑いながらだと思うけど
「like it?」って。
しばらく言葉が出なくて
だけど両手を広げて。
グレート!
信じらんねぇ
信じらんねぇ
そうつぶやくと、笑いがこみあげてきて。
あははははははは!
ひとしきり笑ったそのあとは
ただ静かに見入ったのだった。
2002.06.25 その2
今日は、アフリカのパフォーマンスを観に行って来ました。
マジック・マイクに会って
エヴンに会って
ジョーやマイクがドラムを叩くのを聴いて
クリスチアンや妹が踊るのを観て。
死んでいない生きた伝統を目の当たりにして。
あの旅行がこういう形で結実しているのを観て。
「ジョーとかに会って、アフリカを思い出したんと違う?」
むしろあの日々は終わったのだと、ハッキリそう感じました。
僕もしっかりしなければ。
5月25日 夜
「トモーコ!」「トモコ」「トモーコ」
友子は大モテだ。
野郎どもが群がる様に集まってくる。
いったいサトシとはどういう関係なのだ、結婚してるのか、フィアンセか?
ワーオ!!! brother&sister?!
同じ父親に母親なのか?!
しげしげと見比べながら驚愕の表情を浮かべる野郎ども。
それでどっちが年上なんだ?
お姉さんに、弟か?
「わ、わたしの方が年上に見えるのぉぉぉぉぉ?!」
にやり。
僕がアフリカの人の顔や年齢がまったくわからないように
こちらの人も日本人は見分けられないようだな。
「サトシ!」「トモーコ!」「サトーシ!」「トモコ!」
ワゴンの中では、ひっきりなしに名前を呼ばれているような。
日本人は目立つみたいだなあ。
「サトシはアフリカならサシトゥになるって」
へええ。たしかにそれっぽいなあ。
ときどきサントスって呼ばれているような気もするけど。
木曜日、という意味の名前を持っている人がいて、日本語ではなんていうんだ? って
「「「モクヨービ」」」とみんなで唱和して、大笑いする。
平和だなあ。
車が止まった場所は・・・酒場?
バーだと言ってるからそうなのだろう。
それでしかもみんな飲み始めるし。
マラリアの薬の副作用はいいのかなあ?
ジョーが率先して飲んでるんだから、ま、いいのだろう。
僕はお金を1シリーも身につけてなかったので、ジョーが出してくれるって。
ありがとうございます。
ThankYou very muchです。
ジョーの前を歩いている、僕が酒場の扉を開く。
扉を引いて開いたので、ジョーが先に入る形に。
だけど、ジョー、そこで立ち止まったまま、他の人と話し始めちゃって。
それって僕はどうしたら?
しょうがないのでそのまま扉を押さえ続ける。
そうやって押さえていると、メイサンという人がやって来て
そんなことしなくていい
いいからこっちに来い
まあここに座れ
という感じで席をすすめられ
ガーナはどうだ? と。
それはもうenjoy! happy!だと答えると
お前はいいやつだ
さあ酒を頼め
金がない? じゃあおごってやる、と。
握手をして、ハグ(抱擁)までしてきて。
他の人にまで、こいつはとてもいい奴だ、みたいに紹介してくれて。
そして僕が英語ができないと知るや
妹を呼び寄せて、通訳をしろ、と。
いっぱい、いっぱい、色々なことを教えてやる、って。
とても、とーっても嬉しくて。
実際にはジョーにおごってもらった、この店で一番小さい瓶ビールも
なんだかすばらしく美味しかった、んだけど。
本当にこの人は僕を気に入ってくれたのだと、思いたかったんだけど。
何かがひっかかるのだった。
5月25日 深夜
部屋に戻ってくると、とても眠い。
「みんなで、UNOするって。どうする?」
眠いから寝る。
もそもそと蚊帳付きのベッドに潜り込む。
ありがたいことに、直接にも誘われたけど
sorry,sleepyなんです。
すりーぴぃ。
かわいい響きだなあ。
すりーぴぃ、すりーぴぃ。
ちょっと鳴き声みたい。
時計を見て驚く。・・・まだ9時とはなあ。
でも眠い。
寝る。
しかしまさに熱帯夜。
暑くて眠れない。
眠たいのに眠れない。
この先コペイヤにいる間は毎晩、うちわを持ってこなかったことを悔やむことになる。
もう少しすると、蚊取り線香を持ってこなかったことも悔やむことになる。
だけどこの夜は蚊帳の効果絶大で
羽音はするけど刺されなかった。
む。結構眠っていたのだろうか。
夜明け前くらいに、何かの物音で目が覚める。
生き物・・・だよな。
古い引き戸か雨戸を開けるような鳴き声をあげつつ
同時に羽音か足音かわからない音をバタバタと立てる。
それでいて
遠ざかったり近づいたりしている様子はない。
ずっと同じあたりから同じように聞こえる。
僕が音のする方向の天井・壁をライトで照らしても一向に止む気配がない。
照らしたり消したり。
どれくらいそうしてたかなあ。
そのうち妹も気がついたらしくて、起きあがってライトで照らした。
すると不思議なことにパタッと物音は止んだのだった。
なんだったのだろう。
2002.06.25 その3
5月26日 朝
ニワトリがたくさん放し飼いにされているので、朝はそれらが鳴く。
なんだか早く目が覚めてしまった。
水を浴びに部屋の外へ出るが、まだみんな寝静まっていて
建物の外から竹ぼうきの掃くような音がしてくるだけだった。
ちょっと早すぎたかな
そう思いながらも大きな水瓶のところへ行ってみる。
するとそこには、ほうきを持った女の人がいて。
グッドモーニン
挨拶を交わし、
身振りで水をくんで、あびるのだ、とすると
水を運んでくれた上、風呂場を掃いてくれた。
朝食後、友子と少し話をする。
「村を案内してらったやんか。あれ、すごいイヤやったわ」
??? 歓迎してもらったように思ったけど。
「子供がみんな手つないできたやん」
「みんな、すごくアメリカに行くチャンスとかを狙っとるんやんか」
「なんか私の後ろにあるお金とかコネとか、そんなんばっか見られとるようで」
「ほら、早く手をつないでもらいぃ、みたいな」
ああ。まあそれはあるやろうな。
ところで、昨日の夜のあれは何やったんやろうな?
「さあ? そういえばムカデがおった」
えーーー!! やっぱデカいのか!?
「小さいの」
とするとヤスデか?!
「あ、ちがった。トカゲやった」
全然ちがうわッ!!
トカゲなら害はない。トカゲは多い。僕も見た。
大きくてカラフルなのや、小さくて木に登るのとか。
素早く走る様は、どこか恐竜を思わせる。
いや、恐竜を見たことはないんだけどさ。
5月26日 午前中
日焼け止めを隅々まで塗って、みんなで海へ。
もしも塗り忘れた箇所があると、真っ赤になって大変なことになるそうだ。
太陽の輝く海はまた違う美しさがある。
裸足になって波打ち際まで歩く。
ガーナの海は荒い。
波に足を入れると、引き際に足下の砂をごっぞり持って行かれて
バランスを崩すほど。
セレブさんか、カレブさんか、よく読み方のわからない人と
マンクさんあたりが果敢にも大波のなかに突っ込んでいく。
高飛びの要領で、引きつけておいて飛び越えようとしたり
直前に潜ってみたり
色々試みているのだけど、なかなか先に進めない。
とんでもねぇなあ。
こういう荒々しい自然が、アフリカの人たちのパワーを育てているのかもなあ。
そんなことを考えながら
ゴミも人も少ない海を眺めていた。
あれ?
なんかおかしいぞ。
目が痛い・・・? や、やば。
my eyes pain、おそらくstorng sun。
とにかく後ろに下がります。
そう手短に、無茶苦茶な英語と日本語と身振り手振りでジョーに伝え
ワゴンまで戻ることに。
なんだろう。目がチクチクする。
帽子をかぶってサングラスもかけていたのだけどな。
大事にならないといいが・・・。
ワゴンには、メイサンともう一人の人が留守番をしていた。
ヨーッという感じで握手。
日本人が目礼くらいで済ます場面でも、明るく陽気にこんな風だね。
そして事情を話して、休みたいんだ、と言うと
側の石に腰掛けるようにすすめてくれた。
すすめられるまま腰掛けると、しばし雑談。
「your sisterはあんなに英語ができるのに、お前はどうしてしゃべれないんだ?」
それでよくわからなかったんだけど
I want to learn English.
とメイサンが言うままに繰り返したら
そのまま英語の授業に。
目をつぶって休みたいんだけどなあ・・・。
houseがあって、その各自の部屋ごとがhomeである、とか
How do you do? と言われたら
I do fine. と答え、
How are you? と言われたら
I’m fine. と答えるのだ、と教えられたあとに、
ランダムにこの二つの問いを繰り返し
僕が反射的に即応できるようになるまで訓練するなど
斬新と言えば斬新で、興味深いと言えば興味深かった。
しかしそのうち例文がおかしなことに。
I give you beer.
言われた通りに繰り返すと、なんか喜んでいる。
ん?
どういうことです?
メイサンが昨日、僕にビールをおごったという意味かな?
『I』というのが、そっちで
『you』がこっち
そして時間は、『昨日』ですね?
違うらしい。
時間軸を砂地に書くと
昨日は、メイサンがビールをおごった。
だから今日は昨日のお礼に、ここにいるbrotherの分を含めて
ビールを二本おごれ。
そう言っているようだった。
うーん。本当は、昨日のビール代はジョーに払ってもらったんだけど。
しかしお金を持っていないときに、あの言葉は心強かった。
嬉しかった。
ok,i see。
それでビール1本は、いくらなんですか?
「ファイブ タウザンド」
こっちの人はタウザンドとなまる。
5千シリーか。
5千というのは、あのお札のことで良かったっけ?
昨日の反省を生かし、5千札を3枚ポケットに忍ばせておいたのは、やはり正解か。
now?
バーの人が近くに来ていたらしくて。
その人にその場で支払った。
「fee free!!!」
うん。ただで教えてくれるんですよね。
「dont worry!」
「free!!!」
綺麗な海に空。うん。自由だね。
「free in justice!」
5月26日 昼
目が痛いというと、友子も同じ症状になったことがあるという。
そのときは目に砂が入っていて、眼科に行って洗ってもらったそうな。
「よく洗った方がいいよ」
わかった。そうする。
水は・・・目だから・・・
ちょっと悪いような気もしたが、飲み水を使わせてもらうことにする。
どうやら友子の見立て通り、原因は砂だったらしく
よーく洗って、次の朝起きたら治ってた。
「ジョーに言われて、彼氏がおるって嘘ついてしまった」
???
ああ。わかった。
まあ、しゃあないよ、結婚できれば国籍とかとれるかもしれんし。
「うん・・・。結婚してって言ってくる人もいた」
なっ?!
僕は嘘は嫌いだ。
嫌いだけど、嘘にはついてもいい場合があると思う。
身を守るときと
相手が不誠実なときには
僕は嘘をついてもいいと思う。
それじゃあ、メイサンと2時に待ち合わせしとるから、行くな。
「大丈夫?」
うーん、本当は休んでおきたいんだけど・・・何かを教えてくれるんやって。
まあ約束は約束だし。
「3時からパフォーマンスがあるらしいよ」
ん? 全員で観るもの?
わかった。3時やな。
2002.06.26
5月26日 14:00
ちょっと早いけど、待ち合わせの場所へと向かう。
お? コブラベか?
相手の態度から推測して、確認をとらないと誰が誰だかわからない僕だった。
がっちり握手して指を鳴らす。
うんうん、会えて嬉しい。
もうあの家への行き方、忘れちゃってたし。
ん? なに?
へええ。
コブラビは絵を描くのか。
何の絵?
アフリカンダンスのか。
ほおお。
しかもそれを見せてくれるって?!
ThankYou。ThankYou verymuch。
だけど、僕は今からメイサンと待ち合わせててなあ。
i promise メイサン。
僕もその絵は是非みたい。
i want to look,see,watch picture。
すまないけど、次ということで。
うー。
見に行きたかったなあ。
待ち合わせの場所はゲートの外だった。
言われた通りに、木の下で待っていると他の人からも声をかけられる。
それも施設内とは違って、好意以外の何かが含まれているのを感じる。
そこでしばらく居心地の悪い時間を過ごしていると
時間通りにメイサンはやって来てくれた。
ふぅ。ちょっとホッとする。
僕はてっきり、ここ、この木の下で何かをするのだと思っていたのだけど
ついてこい、という感じで村の奥へと案内される。
あ、これは村、アフリカを知る、絶好のチャンスだ。
そう思った僕は、何かを感じ取ってやろうと眼を光らせる。
・・・雑然としている。
施設内と違って、行き届いていない感じ。
すれ違う人たちと自己紹介をしたり、握手をしたり。
そのときにメイサンが、挨拶はこうするのだ、と
現地語で何かを言いながら膝を折るような礼を教えられた。
僕は、はじめは、ごく一般的なアフリカの挨拶を教えてもらったのだと思った。
しかし。
どうも、この礼をとったときの相手の態度がおかしい。
主に女性を相手にさせられたのだが
一様にニヤニヤ笑いながら
「ThankYou」
と言う。
やはりおかしい。
これは何か屈辱的なことをさせられているのではないか・・・?
たどり着いた場所は・・・飲み物を売るらしい店・・・バーか?
カウンターとその奥の棚は立派だが
それらと、壁際にベンチがひとつあるだけの小さな建物。
むきだしのコンクリートで囲われた暗い空間。
ベンチに腰掛けるようにすすめられ
座りながら下げた視界には、床にたかる沢山のハエが入る。
そこのカウンターに気だるげにもたれかかる
長身でスタイルの良い女性を紹介された。
お互いに名乗り、握手をし、メイサンに言われて例の挨拶をする。
そして雑談を交わしていたのだが。
僕は相手の言うことを素早くは聴き取れないので、相手のセリフをリピートしながら
確認をして理解する方法を採っている。
I give you ファンタ。
メイサンのセリフを繰り返したところ
「ThankYou」、カウンターの女性がそう言って、店の人がファンタを開けた。
NO! どういうことだ。
払わんよ。払う謂われがない。
why?
なぜだ、なぜ僕がお金を払わねばならない?
「fee free!」
フィーといえば料金のこと、のはず。
出会ったときから、ずっとそのセリフを言っている。
「fee free!」
「all free!」
その自由とは一体なんの自由なのだろう。
you free?
I pay?
No! No!
ここでは僕は多少リッチかもしれない。
i am ちょっと rich in this country
but!
This rich is イミテート!!!
i am poor in my country。
為替相場のまやかしに過ぎない!
円やドルに換算して、それが小さなお金であったとしても
この国での大金を、おいそれと使う気にはなれない。
僕はそんな立場にはない。
一生懸命叫んだけど、どれほど伝わったものか。
そのとき数人の男性が店に入ってきた。
僕らの様子をみて、なにごとだ? と事情を聞いている。
すべて現地語でのやりとりなので、まったく言葉はわからないけど
この新しく入ってきた人たちは、僕を助けようとしてくれている・・・?
一通りの説明が終わったと思われるあたりから
だんだん互いのやりとりが鋭いものに変わっていく。
肌で感じる分には、僕の立場は悪くなる一方のよう。
パッと立ち上がる。
i pay this ファンタ。
but
僕が言っているのはフューチャーだ。
フューチャー、i dont pay。
あとから入ってきた人たちが
「君は飲んでいないのか?」
そう訊いてきたような気がした。
i dont drink! i dont drink!
これで一気に場の緊張がとけた。
ファンタの代金は3千シリーだという。
5千札を取り出して、2千札を受ける。
すると、周りの人たちが、「まだ、あるぞ!」、多分そう言って。
店の人はしぶしぶという感じでコインを取り出した。
メイサンに言う。
all freeというのは、どういうことですか?
you free で i only payはおかしい。
all freeというのなら、僕もfreeのはずだ。
あとから入ってきた来た人のひとりが、飲むか? と
自分のグラスを、多分お酒だろう、差し出してくれる。
あ、No ThankYou、
i only this water。
そう言って携帯している、自分のペットボトルを手に取る。
だけどThankYouです。
メイサンは言う。
こちらはタダで英語を教えた
だからタダでおごってもらえば
all freeだ!
う、ん?
筋は・・・通って・・・る?
まったく納得できないんだけど・・・
ちょっと頭の働きが鈍っているようだった。
『それはfreeでもなんでもない、ただの取引だ』
そう気づくのは後のことになる。
納得ができず、さすがに腹に据えかねるものがあったのでピシャリと言っておく。
I dont understand!
そのとき、また後から入ってきた中のひとりに話しかけられる。
「英語はできるのか?」
very small,sorry.
その人は自分をブライトと名乗った。ブライトさん、か。あ、覚えやすい名前。
そして日本語を教えてほしいんだ、って。
YES。もちろん喜んで。
手にした笛を吹きながら、これからやるんだ、みたいな。
ん? これから?
3 o’clock パフォーマンス?
それですか?
we look this パフォーマンス。
i must go.
それなら一緒に行こう、ということになって。
こうしてブライトさんにつれられて、敷地内へと戻ることができたのだった。
2002.06.27
ポーターという駅がボストンの北の方にあるんですけど。
そこに日本食を食べさせてくれるレストランが集まった建物がありまして。
とろろ納豆定食。
ああ、とろろに納豆〜
冷や奴〜 漬け物〜 みそ汁〜
グルメ漫画で涙を流す食通の気持ち
が少しだけわかった気がしました。
5月26日 パフォーマンス
ゲートまでつれてきてもらって、そこでブライトさんと分かれる。
時計を見ると、まだパフォーマンスのある3時には少し早いのだった。
パフォーマンスの会場はゲートの外、
まさにメイサンと待ち合わせた木の下がステージだった。
何本かの木に囲まれて、木陰どうしの合わさってできた涼しい場所。
日陰の一番外側に見物の人、ドラム、僕らのためらしいイスが用意されている。
そしてその真ん中のポッカリ空いた部分で・・・今はマイクが手品をしていた。
僕もみたいので
背伸びをして人と人の間から覗いてみると
・
・
・
口から万国旗を出していた。
うわ。大技だ。
よくみると万国旗じゃなくてカラフルな布・・・か?
長げぇぇぇ〜 どこまでのびるんだ〜
いつから誰が言い出したか
マイクさんは、マジック・マイクと呼ばれるようになる。
マジックが終わると、自然な感じで人の輪が外側へ向かって広がり
僕らも用意してもらっている席へと着く。
そして始まった歓迎のパフォーマンスは・・・
ドラムのリズムに合わせて踊っているわけなんだけど。
まずリズムは、速い。
そのリズムに合わせて、とんでもない足捌きをしている。
どう動いているのか僕にはわからなかった。
それに加えて演劇の要素が強いようだ。
ダンスにストーリーがある。
例えば、2つめの踊りから察せられる物語は
荷物を抱えた女性たちが、荷物を置いてダンスを楽しんでいる間に
他の男性たちにその荷物を盗まれる。
そしてそれに気づいた女性たちは男性たちを追求して取り返す。
そのあとお互いに仲直りして
みんなで楽しく踊る。
そういうものだった。
・・・ちょっとドキッとしてしまった。
部屋のカギは閉めたよな?
これで僕らの荷物がなくなっていたら・・・すごい話だ
なーんて思ったのだった。
2002.06.29
5月26日 夕方
歓迎のパフォーマンスが終わったあとは、部屋で寝ていた。
まだ目も痛かったので。
起きると、友子からコブラベが訪ねてきてくれたことを知らされる。
なんとっ!
起こしてくれて良かったのに。
くーっ
嬉しいじゃあないか。
5月26日 夜
今晩もUNOで盛り上がる模様。
だけど僕は今夜もスリーピィ。おやすみなさい。
暑くてかなわない蚊帳の中、ゴロゴロうとうとしていると
友子が来て、僕に会いたがっている人がいるという。
がばっ、と起きあがるが
んー?
会いたい人ぉ?
ちょっと寝ぼけている。
夜の外出は、蚊を防ぐため、長袖長ズボンが原則。
しかし寝ぼけていて、しかもどこへ行くのかも知らされていない僕は軽装で。
部屋を出てすぐの廊下で待っていたFMに、よくわからない英語でうながされるまま
ふらふらと。
どこまで行くんだろ?
結構歩くけど。施設の外じゃあなかろうか。
夜目が効かず、村の地理もまだ頭に入っていない僕にはさっぱりわからない。
わー、という感じで両手を広げての出迎え。そしてそのまま抱きつかれた。
わ、わ、誰だ?
コブラベか?
見下ろすと胸のあたりで、うなずいている。
すぐにどこからともなくイスを運んできてくれて座らせてくれる。
威厳と迫力を持った人を正面に囲むようにして
FM、妹、僕、そして僕の傍らにはコブラベ、
その周りにも何人か。
空を見上げれば、今日も大きな月が星を隠すほどに輝いていた。
みんなで歌と踊りを見せてくれる。
へええ、すごいなあ。レゲエとかラップとか、こんなに自然にやっちゃうんだあ。
今のは、やっぱり有名な曲かなんかなのかな?
「ガーナをきれいにしよう、って歌やって」
ほお? とするとガーナ政府が作った曲とか?
「自分で作ったんやって!」
マジっすか。
信じられないくらい出来がいいんすけど。
今の歌も踊りも自作とは。
「今日見せてもらったパフォーマンスの2曲目の踊りあるやん」
うん。
「あれも2〜3日前に作ったんやって」
伝統ちゃうんかい。
「他のは伝統のやったって」
な、なるほどお。
明日からドラムとダンスのレッスンが始まる・・・らしい。
そこで僕が、英語ができないことを引け目に感じたりしないよう
しっかりフォローしてくれるって
目の前に座っている人が言ってくれているそうな。
あ、ありがたいことです。
だけどそのせいでみんなの学習ペースを遅らせることだけはしたくない、なあ。
が、がんばらねば?!
日本の歌を聞かせてくれ、と言われてとても困った。
日本の歌ってなんだろう。どれが日本の伝統の歌なんだろうか。
どれくらい、さかのぼればいいんだろう。
僕の知っているあたりの歌では、すでに西洋の影響を色濃く受けているだろう。
平安あたりまでいっても、それは中国調かもしれない。しかも歌えない。
じゃあ国歌を聞かせてほしい、と言われて、もっと困る。
その昔、ワールドウォー2よりも前、日本は天皇kingの治める国だった。
その頃の天皇リスペクト・ソングなのでnot goodなんだ。
というか歌ったことないから歌詞知らない。
でも、まあ、メロディくらいなら、と妹とふたりでハミング。
お返しに、とガーナ国歌を歌ってくれる。
荘厳な感じの歌い出しから
後半は大盛り上がり。
国歌も楽しくしちゃうなんて、お国柄が出ていてとてもいい!
技も何もない力だけの激しい当たりから
土俵際で熱い攻防!
く、くそ、負けるかあ!
う、うお?!
足をとられて持ち上げられた?!
なんで相撲やねん。
よく知ってるなあ、日本文化。
FMはフランス人なんだって。
ギターを取り出し
いくつかフランスの曲を披露してくれる。
FMの弾くギターに合わせて、みんなが歌う。
きれいすぎる月の下で。
こんなことって本当にあるんだ。
コブラビが、またガーナに来れるか? と。
i dont know future.
but その確率はとてもsmallだと思う。
正直にそう言うと、すごく残念がっているのが伝わってくる。
別れ際に言われた
「see you next tomorrow」
が心に響く。
2002.06.29 その2
5月27日 火酒の儀式
洗濯物がものすごく臭いことに気づく。
この臭さは異常だ。
そりゃあ、たくさん汗はかいているかもしれないが、それだけでは説明できない。
普段の汗をどれだけ染みこませても、こうはならんだろう。
新陳代謝が、かつてないほど活性化している、のかも。
まだ着替えは残っているけど
たまらず台所にいる女の人に洗濯をお願いする。
今日からドラムとダンスのレッスン開始。
なんか当然のように僕までメンバーに組み込まれているけど・・・いいのかなあ?
リズム感は皆無、
体動かすのは苦手で、小さい頃からお遊戯はできず、スキップに特訓が必要で
ラジオ体操も満足にできないんですけど
まあ、なるようになるかあ?
村の外から人を迎え、ダンスを教えるのというのは、とても大変なことらしく、
儀式がとりおこなわれる。
妹から伝え聞いたところによると
ものすごく度数の高い、火酒(?)を注がれるのだという。
しかも
わんこ蕎麦方式。
ストップと言ってお椀を上にあげないと、延々と注がれ、飲み干さなければならなくなる・・・
そうな。
今日はもう民族衣装じゃないけど、例の民族衣装のすごい人、
エマニエルさんから英語で挨拶と注意。
これからレッスンを受ける僕らの健康と安全を祈って行われる儀式
・・・って言っていたと思う、多分。
二人の男の人が前に進み出て、祝詞のようなものをあげはじめる。
延々と続いたその祝詞のあとに
大地に火酒を吸わせていた。
なんか地面が大変なことになっているように見えるのは
きっと僕の気のせいだと思いたい。
100%のアルコールでも、別にどうともならんだろうもんのう。
ひとりひとり注がれては飲み干している。
どうやら半分飲んで、半分は地面に吸わせるようだ。
なるほど。
ストップ!
すぐに杯を思いっきり上へ。
注ぐ人も心得ているようで、見るからに弱そうな僕には
ハナからたくさん注ぐ気はなかったようだ。
こういうものは勢いだ。それっ!
ぶわぁ
「サトーシ!」
口の前で思いっきり火を吹くポーズ。
ボー! ボー!
残りは下に流しておきましょう。
みんな笑ってるよう。
全員飲み終わったあとには、みんなでダンス!
次々と席から連れ出されて、踊りながら向こうまで行って戻ってくる。
僕も連れて行ってくれるのを待っていたんだけど
なんか僕の所にだけ女の人が。
あれえ、ひょっとして、モテてる?
ドラムに合わせて肩を前後に動かしながら、微妙なステップで少しずつ進む、んだけど。
できねぇ。
す、すみませんね、せっかくなのに。
5月27日 昼
みんな海へ出かけていったけど、また目が痛くなってはかなわないし留守番。
コブラベ、いるしね。
コブラベに案内してもらって木の下にある卓球台へ。
ラケットにラバーが貼ってないことには、観ているうちから当然気がついていた。
板のラケットは
独特の操作感があって、熟練者ならラリーをいくらでも続けられると聞いたことがある。
そしてもちろん、はねない、回転がかからないだろうことは簡単にわかる。
しかし、まさかここまで卓球台自体がはねないとは予想できなかった。
いつでも勢いを殺して短く出せるので、台から離れる戦型は選択できない。
普通、卓球はピンポンでもない限り、ラケットの角度をかぶせて打つものだけど
これだけはねない条件が揃うと、角度を上向けないと相手のコートまで届かない。
つまり、この台、このラケット特有の角度が
一球、一球ごとに存在する。
今日も相手をしてくれた、腕の立つ村の若者も、コブラビもそれを熟知している。
すべてネットぎりぎりに打ち込むことができる。
あまつさえ
ちょっとでもロングボールになれば
ボールをラケットにのせる、角度打ちの要領でドライブまで繰り出す。
enjoyed,thankyou.
you are strong,very very strong.
とてもかなう相手ではなかったのだなあ。
はっ。
so sorry!
whats your name?
僕、この腕の立つ村の若者さんの名前知らない?! 汗ダラダラ。
「ヴィクト」
さすがに一発で覚えた。
ヴィクトリーのヴィクトと覚えてもいいし。
ヴィクトさんって、昨日の夜、僕の正面に座ってた人じゃないだろか。
こっちの人は顔が見分けられないこともあるけど
普段と、踊っているときと、卓球しているときとか
そのときどきで纏っているオーラというか、雰囲気まで変わる。
その後は絵を見せてもらったり、コブラベと大いにしゃべったり。
今ここで得た知識や経験が、僕のこれからの人生に役立つだろうことは疑いない。
だから僕からもコブラビへ、僕の持っている知識や経験を伝えて
ほんの少しでも役に立てればいい。
そう思った。
しかしながら話せば話すほど、英語力不足以上に、自分の知識不足を思い知らされる。
日本に関する知識がまったくなってない。
そうか。僕はブッダについて話せないんだ・・・。
日本では宗教はファミリーごとに決まっていて、大半は仏教だ。
しかしながら実体はno religionに近く、
盆踊りも踊れば、クリスマスも騒ぐ。
Japanにはもうmany many god がいる。
8ミリオンもいるっていうくらい、どれもこれもgod。
この服もgodなら、その机もgod、イスもgod、それもgod、これもgod。
・・・あやしげな日本語混じり、ジェスチャー英語で言っておいたけど
けっこう伝わったのではないかと。
不思議な木の話をしてくれたから。
枝の間から覗くと、自分が生まれたときの様子が見える
そんな木があるんだそうだ。
うん。
その木は間違いなく、godだ。
2002.06.30
5月27日 ダンス
いよいよ授業が始まるということで。
屋根付き石敷きの広場にみんなで集まる。
そして輪になって自己紹介。
エマニエルさんが中心に立って司会進行役をしている。
ひとりずつ色々言って、それに応える拍手やドラムが鳴り響く。
ん。
僕の番やね。
MY NAME IS Satoshi!
びしぃぃぃぃぃ
と言い放っておいて・・・で、なんだっけか?
エマニエルさんの方を見ると
from って口を動かしていてくれた。
なるほど。
FROM JAPAN!
わー、ドンドン、ドンドン!
日本は人気あるなあ。
僕らの紹介が終わったあと、エマニエルさんがドラムを叩いている人たちを指さしながら
茶目っ気たっぷりに
「〜〜〜〜〜〜from コペイヤ!」
っはっはっは。わー、ぱちぱちぱち。
エマニエルさんは全体をみる感じで
実際に僕らの前で踊って教えてくれるのは、あのヴィクトさんだった。
みんなでヴィクトさんの動きに注目して真似る。
だけど僕にはコブラベがついてくれて
間近で踊りを見せてくれる上に
どこが違うのか教えてくれる。
さすがにここまでしてもらうと、みんなと同じくらいの速度で覚えられる。
「ダダン ダダン ダダン ト、ジャン トト、ジャン」
「タダ テギ タダ テギ テギ テギ 1,2,3」
というように
ドラムの聞き方、リズムの取り方を側で言ってくれるのは本当にありがたい。
「You do it!」
と嬉しそうにうなずいてくれるのも。
いやあ、照れるなあ。
まったくすべてコブラビのおかげ。
5月27日 夕方
激しい夕立。スコールというものらしい。
雨に打たれながらジョーと一緒に体と服に石けんをつけて洗う。
グレート エクスペリエンス!
「exactly!」
5月27日 深夜
耳元の羽音で起こされる。時計を見ると3時。
大体いつもこれくらいの時間に活発になるように思う。
だけど今夜は、いつもと違っていた。
かゆい。
蚊帳の中にいるのに羽音が近くでする。
絵に描いた悲惨。
蚊帳に蚊の侵入を許したなら。
身をもって体験。
蚊を見つけてぶち殺してやろうと、ライトで蚊帳の隅々を照らし出す。
ルパーン 逮捕だー
穴あいてるやん。
長袖長ズボン、靴下に虫除けスプレー。
蚊帳から出て寝ました。
虫除けスプレーはアメリカで買ったディートというものを使いました。
ディートというのは虫除けの成分らしいのですが
日本の虫除けスプレーの成分表と見比べてみると・・・約2倍も含まれています。
これでどうなるか、吹きかけた箇所に近づく蚊を観察してみると
近づいても、留まれてません。
肌の近辺をうろうろするのが精一杯。
そして肌の弱い人はかぶれてました。
多分、日本では規制のかかっている成分ではないかと。