12L6GT全段差動PPアンプ


秋葉原の真空管販売店で、電力増幅管の割に安く売られていた真空管。6L6のヒーター電圧違いかと思ったらまったく見当違いでした。


12L6は、ビーム電力増幅5極管でUSベースGT管、特性は6W6GTと大変よく似ておりプレート電圧が低いのですが、スク リーングリッドの電圧はプレート電圧に近く設定できますので5極管動作での使用は比較的容易です。しかし、ヒーター電 圧が12Vということもあるのか人気がありません。プレートの格好も四角い鉄板が筒状になっているだけで、何ともよい音が出そうに見えません。プレート損失も10Wとささやかなものです。しかし3極管接続にして使えば結構使えそうなデータ ーが掲載されています。


電力増幅段

  さて、どのようなアンプを作ればそれなりに楽しめるものができるのか考えた結果、音量は大きくできないけれど、真空管の種類を問わず、ある一定レベルの音質が得られることで定評のある差動プッシュプル方式がよかろうということになりました。差動PPアンプでは無信号時も最大信号時も真空管の動作基点は変動しませんからA1級増幅の動作を考えてみれば大凡のイメージがつかめます。左のグラフは12L6の3結EP/IP特性です。データーシートでは無信号時推奨動作点がEP:110V・IP:50mAとなっていますが、3結で使うということと、出力を定格一杯に設定しないつもりで、4kΩのロードラインを動作点付近に書いて眺めて見ます。赤のラインは7.5Wのプレート損失ラインです。この領域を踏まえて最大のロードラインを引いてみます。EP200V、IP37.5mAが動作点と想定してみると信号がプラス側に振れた時ではマイナス側と比べ、距離がわずかに短くなってしまいます。もう少し動作点を移動し、水色の線の最適と思われる動作点の見当つけるとEP210VIP35mAあたりでしょうか・・・。しかし、最大プレート電圧は200Vとされているので、210Vで動作させることはできません。そこで、ロードラインを紫色のラインにしてみます。EP180V、IP30mAがちょうど動作点の中央くらいになります。ここを最適動作点としてみると最大プレート電圧にも余裕があり、妥当な選択ではないでしょうか?しかし、なかなか調達しにくいB電源であることがわかります。

手持ちのトランスの事情から、AC100Vをそのまま整流してB電源として製作してみることにし、110V40mA(黄色の線)を動作点として設計します。バイアス電圧は8V程度になるでしょうか・・・。(黄色のライン)入力信号は0から-20V程度の範囲で動作することになります。(紫)ラインの動作範囲の約半分の動作範囲であることが判ります。

初段・電圧増幅段は通常であれば12AX7が増幅率も考慮すれば最適ではないかと思いますが、内部抵抗も高く高域特性が若干劣るのを嫌って,6DJ8を使うことにしました。これで取り合えず音を聞いてみることにします。


回路図



B電源の電圧がそもそも低いので、電圧増幅段の負荷抵抗値があまり高くできません。電源回路をそれぞれ最適なB電源電圧にすれば問題は解消しますが、回路が簡潔であることも大切です。ここでは、10KΩの負荷としてみました。電源回路のB電圧は30VAの複巻変圧器を使っていますが、若干の昇圧タップの付いているものがあれば、少しでも電圧を稼げます。この規模のアンプでB電源を160mA流すのは結構大事です。できれば50VA程度の絶縁トランスをお勧めします。


製作


  
部品のレイアウトは構想を練っている間が大変楽しい。何か一つだけ工夫したところを残すのが手作りのよさですが、私は
トランスの取り付け方法に工夫をしてみました。ユニバーサル型のヒータートランスは安価で良いのですが、シャーシ内部に取り付けないと導電部にうっかり触ってしまいます。ちょうどトランスのコアにねじ止め用の穴がありましたのでこれを使ってシャーシの上部に取り付けてみました。シャーシ内部のスペースが広くなるわけではありませんが、部品配置のバランスが良くなりまし た。



配線と半田付けは、はずかしながら↑です。「修行、修行・・・」

平ラグに主要な部品を取り付けたのでいらぬラグ板間の線が増えてしまい、なんとなくまとまりがありません。また、写真上部からシールド線が12AU7のグリッドに配線されています。入力信号を取り扱う配線なので雑音の飛びつきを恐れ、わざわざシールド線ににしたのですが、おがげで浮遊容量が出来てしまいました。微弱な信号回路ではちょっと「??」です。左右にVRが見えますが、これはPP上下管のバランス調整用。 「配線作業は走りながら考える」典型的な結果でございます。部品の配置や配線は計画的に!


試聴

 この状態で、視聴してみることにしました。電源回路と電力増幅段の電圧はあらかじめ通電試験を行ってあり、ほぼ計画どおりの電圧が出ましたので、問題なくスピーカーから音がでてきました。十分な音量は得られませんが、ノイズもなく聞こえます。ボリュームの位置は13時方向でちょうど良い音量でした。しばらくこれで使ってみることに・・。

ご注意!このアンプは、上記ロードラインの黄色の状況で動作しています。
       最適動作点での回路図は、今後改造を進めていく際掲載することにします。(いつまで経っても製作中のアンプ?!)       


最適動作への改良

 音質にはこれといって不満はありませんでしたが、やはり最適動作でのアンプに改善を試みることにしました。 まずはB電源の電圧を上げることにします。以前に倍電圧整流回路で実験をしてみたのですが、あまりのリプルノイズのため、この回路はあきらめてしまいました。決して倍電圧整流回路が不適切ということではなく、もう少し工夫すれば良かったのですが、時間もなく断念していた訳です。


電源トランス

 

 このトランス、知ってますか?よく見るとSANEIDENKI CO.LTD TYPE ZT03ESUとラベルに記載されています。アンプビルダーには有名な東栄のZT03ESの高電圧バージョンです。本来、1次側が写真の下のタップ、上側が2次側のタップで使用されるものですが、1次側と2次側を反対にして使用して真空管アンプのB電源として使うことができるので有名です。このトランスには従来200Vと220Vのタップがあったのですが、300V電圧の要望がユーザーからあったので試しに作ってみたのが始まりのようです。店のおやじさんの話では最近、従来品と並べて置いたので以前からあったのに気が付かない人も居たのではないかと言っていました。電流容量は少なくても高電圧がほしい時は、重宝しそうですね。あまり電流を欲張ると火事になりますからご注意ください。

今回はこのトランスを使ってみることにしました。


 B電源電圧はトランスの電流容量によって大きく変化しますが、概ねプレートに200Vが印加される見込みで電源回路を作ってみました。全段差動PPアンプでは、信号電流がシャーシに流れませんから、平滑回路のコンデンサに信号電流が流れ込まないことになりますのでhリプル電圧にあまり神経を使わずに済みます。今回は一般的な平滑回路1段で構成してみることにします。

ダイオード整流回路にコンデンサインプット型平滑回路の構成では、電力増幅管に電流が流れ始めるまでの間、プレートに最大定格以上の電圧がかかります。対策「はいろいろあるのですが、あまり手をかけずB電源用のSWをトランスの1次側に取り付けてヒータSWと分離して使うことにしました。また、3段構成にするため、ドライバを6DJ8から12AU7に変更してドライバ段のゲインを少し下げています。負荷抵抗は47KΩとしてみました。従って、ロードラインは47KΩと次段グリッド抵抗470KΩの合成抵抗値、約43KΩで作図して検討することになります。
電圧増幅段の動作グラフは省略しますが、初段のFET差動増幅回路、ドライバ段は回路図のとおりで動作確認できました。


回 路 図



改造作業

電源回路は大変シンプルにするためブリッジ整流回路にダイオードのディスクリートを止め、ダイオードスタックを使っています。指先ほどの大きさですが、規格はダイオード4個のブリッジ整流回路と同等です。写真では見えませんが、大変省スペースになります。フィルタ回路の抵抗器は5Wのものを組み合わせて使っています。数は多くなりますが大きな部品を実装するよりコンパクトにできますね。


初段FET差動増幅回路、これはぺるけさんのHPから流用させていただきましたが、定電圧回路は入力電圧が異なるので抵抗器を変更しています。



これはB電源1次側の電源スイッチ。数秒間ですがプレートには240V程度の電圧がかかります。最大定格電圧200Vを超える不正電圧が気になる場合は、こんなSWでも、気休めになります。徹底的にやりたい方は、遅延回路と リレーを組み合わせても良いと思います。



試聴と感想

 自分で作ったものを悪く評価するのは、なかなかできないものです。その程度の評価だと思ってください。

12AU7ドライバと2SK30A初段の組み合わせ
は高域の特性が優れており、すっきりとした高音を聞かせてくれます。低音は、PPアンプの特性上から十分な迫力を感じます。ダンピングの効いた歯切れの良い音がします。しかし、豪快な低音は表現できないので、これは真空管のキャラクターかもしれないと思います。総合的には、予想以上の魅力的な音が出たことに満足しています。

 費用対効果を気にしてしまうのは自分の価値観に自信がないのかもしれませんが、アマチュアが製作するものでは避けて通れないハードルであるのも事実。安価な真空管とジャンク部品で、高級アンプに負けない音が出せたら・・・。いつも考えます。

 また、B電源用トランスは130mA程度の電流で使うと手で触れないくらい発熱します。ケース内への収納を考慮して小さいものを選定したのですが、放熱対策をするなど十分な製作上の配慮が必要です。プレート電流の設定値はB電源に約4倍のインパクトを与えます。
このことを考慮してIPの設定値を変えてみるのも良いと思います。


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参考:情熱の真空管/Passionare Tube Amplifier 木村さんのホームページ 


 注意:ここに記載されたアンプは「電安法」に基づく電気用品、家電製品等とは、遥かに遠く無縁のものであります。
     製作・使用にあたっては、自己責任でお願いいたします。