ST管5球スーパーの修理



 ST管の5球スーパーは、昔々中学生の頃に放課後理科室に同級生が集まって作ったことがあった。当時は訳もわからず半田付け をして出来上がった時、なかなか発振が止まらなかった。結局、理科の先生に助けてもらい出来たのだが、これが結構すばらしく、感 度も良く音量もく大きかった記憶が残っている。

 あれ以来、ST管の5球スーパーをいじる機会はなかったのだが、ある日友人から「オークションで購入したが、修理してくれないか」 との依頼を受けた。まあ、勉強にもなるし修理くらいならと材料費のみ依頼者負担にしてもらい、軽い気持ちで引き受けました。しかし、 持ち込まれたラジオを見てびっくり!



 ケミコンは上部が大きく膨らんでいます。一度くらい内容物が漏れたのでしょうか鉄製のシャーシがぼろぼろに腐っています。ダイヤルの 糸も切れ、真空管ソケットのねじも一部ありません。ボディーも遠目に見るときれいですが、ダイヤル文字印刷が剥がれており掃除をすると 文字が消えてしまいそうです。



これは、大変なことになってしまいました。「リビングでの使用に耐える適度」との依頼ですが、これでは簡単な電子回路の修理どころでは ありません。依頼者に、このラジオの素性を聞くと「安く売っていたとしても、きれいだったとしても、動作品だったとしても素人は手を出すな」という、噂のラジオであることを購入後知り、手に負えないと判断したそうです・・・。なるほど・・・・。

 どうやら、「クライスラーのラジオ」というのはメーカーで製造したものではなく、ケース・シャーシと部品を販売するキットメーカーのようです。つまり製作者はシロウトさんということになります。昭和20年代中期のものでしょうか? ともかく、もう少しよく観察してみることにしました。 主要部品は、電源トランスが菅野、IFT、局発コイルはスターのものです。部品としては悪くありません。バリコンも、パディングコンデンサも しっかりとしたものが採用されています。スピーカーはフィールドマグネチック型でエッジがボロボロで再使用に耐えない状況ですが、何とか 再使用したいとのことです。



使用真空管は?



左からKX80・6Z-DH3A・6W-C5・42・UZ-6D6です。5球スーパーの回路は、ST管からMT管へと真空管が移り変わってもほとんど変わり ません。それだけ完成度の高い回路なのでしょう。したがって、回路図の紹介は必要ないので省略することにしました。 内部の回路を調べてみました。しかし、どうも様子がヘンです。42のプレート回路と6Z-DH3Aのプレート回路の間に何やら回りこみ防止 のようなCとRの直列回路が挿入されています。また、B電源のトランスタップは320Vに接続されています。大変いやな予感がします。 それ以外はごく一般的な回路になっていますし、再使用する予定の部品は電気的に問題はありませんでした。



分解清掃作業

 結局、このラジオも全部分解し、清掃再組み立てが必要と判断して作業に取り掛かりました。



まずは、水洗いです。バケツに主要部品のうちIFTのケースやバリコン等水洗いの可能なものを分解して入れます。今回は、サンハヤトのハヤトール を使いました。1回目でほとんどの汚れは取れますが3回ほど水洗いと洗浄剤の吹き付けで完了しました。この洗浄剤は結構強力なのでトランスのカ バーの文字が一部消えてしまいました。 ダイヤル文字板はうすめた中性洗剤にそ〜っと浸けて文字の周辺の汚れを注意深く綿棒で取っていきます。これは大変な根気が必要で、文字に少し でも触ると印刷が剥げるので難儀な作業です。真似しないほうが良いと思います。 シャーシは同様に水洗いしましたが、汚れはうまく取れません。結局、錆び落としを兼ねてワイヤーブラシでさんざん擦りました。上の写真にカバーを 外したスター製IFTが写っていますが、コイルのコアはありません。上部にトリマコンデンサは付いていて、同調はコンデンサで調節しますが結構クリテ ィカルです。その他は特に変わった部品があるわけではありませんが、アンテナコイルの被服塗装が白く変色しました。ハヤトールは強力ですが、古い部品に吹きかける場合はご注意ください。

これも清掃といえば清掃ですが・・


部品を乾燥させている間、ケースの塗装をはがします。これも清掃といえば清掃です。塗装が分厚いので塗装はがし液である程度除去してからサンドペ ーパーを使ってひたすら擦ります。文字で書けば簡単ですが、写真の状態になるまで朝から初めて午後3時までかかりました。ある程度ニスを塗っても木 目がきれいに見えるようにするにはこの位まで下地処理をしないと塗装してから後悔します。


問題の多いスピーカー



 このスピーカーは、フィールドコイル式ですが、出力変圧器は別に後から取り付けたか、取り替えた形跡があります。コーン紙の状態は写真のとおりです。 エッジのパッキンをそっと剥がしたところです。コーン紙のエッジはほとんどフレームに固定されていません。ボイスコイルは断線していないので右の写真の ように固定して乾燥させます。補強用の紙はなるべく経年劣化の少ない材料が有効です。再生紙などもっての外です。最後にアクリル系塗料で黒く塗装し てパッキンを取り付けます。こんな修理でも、しっかりと音は出ます。歪も生じませんでした。運がいいとしか言えません・・。


ようやく配線です!

 洗浄部品も乾いたところで、配線作業に入ります。



 部品のうち、スイッチ付VRは2個ともスイッチの動作不良とガリオームでどちらも使えません。 困り果てて分解して直すことに・・・。一晩かかりましたが、2個のうち1個だけ復活することが できました。この部品はコンセントと直結されますから、このような分解はお勧めできません。 新品と交換されるのが適切ですが、シャフトの長いものはなかなか市場で見つからないので 止む無く使うことにしました。外出の際、真空管ラジオのコンセントは必ず抜いて使うことを、 この場を借りてお願いする次第です。
 
 したがって、ロータリースイッチをつけて後からでも外部入力を配線できるようにしておくことに しました。C/R類はまだ使える物もありましたが、リビングで常時使用には不安がありますので、 全て新品に交換しました。



 各部品も取り付け、ダイヤル周りも糸の取替え、セット(糸の取り付けは結構時間がかかります)終了で、いよいよ音出しをします。 第1声は、無音でした・・。電圧を測って、あわてて電源を落としました。300V以上の電圧がかかっています!と、よく考えてみれば B電源が320Vタップ取り出しとなっていたため同様に配線していたことを忘れていました。配線を250Vになおして、KX80・42を差し 込んで電源再投入。電圧は正常です。つづいて6Z-DH3Aを差込みます。ここで、見事に発振。 ムム・・。配線か?と思い再度チェックする。異常なしだが、よく考えると元の持ち主がこの辺でヘンな回路を挿入してあったことを思 い出しました。仕方なくいろいろと調べてみることにしました。真空管の本を読んでいるうちにそういえば、この6Z-DH3Aは2極3極 複合間で、3極管ユニットは増幅率が100位あるということに気が付きました。 普通はシールドケースに入れて使うこととなっています。シールドせず使っていたのは元々シールドケースが1つしかなかったからでは ないかと推測できます。その一つは6D6に取り付けられていたので・・・。

 真空管のレイアウトから見ても電力管の隣なので回り込んで不思議はありません。試しにシールドを取替えて付けてみると発振がぴたりと止まります。なるほど、これで元所有者のヘンな回路の意味がわかりました。シールドケースが1つしか無い中で、苦労して 鳴らしていたことが目に浮かびます。きっとこのステージでゲインを相当落として使うことになったのでしょう。そのため、B電源も電圧 を上げたのかもしれません。

 大凡の謎が解けたので、6D6にもアルミホイルを巻いて全ての真空管を差し込んで見ました。アンテナに繋ぐと見事に音が出ました。 久しぶりの感動です!!。

IFTを調整しトラッキングを取って完成です。





キット製ラジオについて

 私は、昔から真空管ラジオのキットがあることは知っていましたが、まさか自分が修理することは無いだろうと思っていました。そのため、大変参考になりました。 修理中、感じたことを以下に書いておきます。

 1 メーカー製品は、「かつては良好に動いていた」ということが明らか。オリジナルに 忠実に復元すれば確実に動作する
 2 キット又は自作品は1の状況が明確にわからない。部品から配線、レイアウトなど全ての部分を疑う必要がある
 3 メーカー品を普通に使っていて壊れるのなら、大凡の場所が決まっているが、キット又は自作品は、以外な所が壊れている
 4 真空管のエミッションも、予想外な球が悪くなっていることがある
 5 上手にみえる半田付でも信用してはいけない
 6 過去にうまく完成できず、放り投げられたものがありそうである
 7 時として高級な部品が使われているので、部品取りにすると精神的に苦痛を受けない
 8 修理していて、ラジオの歴史を感じることが少ない(これは思想的か?)
 9 修理には「玄人志向」「苦労と思考」である(パソコンみたい・・)
 10 ゴキブリの糞とねずみのおしっこの香りはどのラジオも同じ
  
 だんだん乱れてきたのでこのくらいにする。

 完成後、持ち主が取りに来てくれました。今後のことを考え、3点ほどお知らせしたのは、アンテナコイルのQが低いので取り替えたほうが感度が良くなるこ とと、アルミフォイルのシールドケース、ダイヤル指針の仕上げである。きれいな仕上がりに満足してもらえて一安心・・。でした。