国民型4号B ラジオのレストア




 国民型受信機は、戦前、戦中に日本放送協会の統一規格によって製作された「放送局型123号」が、戦後同協会の管理から開放され、メーカー独自のデザインと回路によるラジオ生産が開始される用になった頃の物です。 国民型は1号か6号までありますが、回路としては「放送局型123号」の影響を色濃く残しており、並3ラジオに高周波増幅1段を加えた通称4ペン「高一4球」ラジオでした。
再生グリッド検波方式のラジオは、同調回路のQ低下を補償するため高周波の帰還を行っています。帰還量を調整しながら使うので帰還量を多くすると発振してしまいます。高周波増幅段である程度抑制されますが、電波は出てしまいます。「日本の空は汚い」とGHQにののしられ、昭和22年頃にスーパー式ラジオにメーカーは一斉に切り替えることになります。


 今回のラジオは4号Bになりますが、4号には2種類あります。A/Bの違いは電源回路の違いです。Aは全波整流、Bは半波整流回路になっています。また、ダイナミック型スピーカーを採用した点も4号の特徴でしょう。



オークションで購入したものが到着しました。梱包をあける前はわくわくしますね。




梱包を解いたところです。スピーカーネットが破れ、スピーカーが覗いています。また、ツマミもオリジナルでないものが付いていますし、オリジナルのつまみも曲がって付いているように見えます。




相当な埃とともに、各部品の状態を確認します。欠品はないように見えます。電源トランスはハカマを履いた状態で固定されており、ヒューズフォルダもベーク板を浮かせて取り付けてあります。写真ほど綺麗な状態ではありません。とりあえず分解してみます。キャビネットからシャーシを出す際、ツマミを外しますがオリジナルのつまみは回転軸に固着しており取れません。やむなくツマミを壊してシャーシがようやく出てきました。


 

掃除機で埃とゴキブリの糞を吸い取ったあと、シャーシ内部を確認したところです。中央にブロック形のケミコンらしきものが見えますが、内容物が漏れ出し、配線も見当たりません。抵抗類もすすで真っ黒になっており表示の確認ができません。袋うちコードもボロボロ崩れ落ちてきます。しかし、この状態で前のオーナーは電源を入れたとのことでしたから、相当な勇気がいったことでしょう・・。




スピーカーも取り外してみました。日立製ではなく、山陽のスピーカーです。取替えたような形跡はありませんでしたから製造当時のものか・・?
OPTは7KΩとなっていますが、42の出力インピーダンスは確か12KΩだったと思いますので、やはり取替えたのではないかと思われます。スピーカーはエッジがボロボロに穴が開いており、コーン紙をそっと上下に押してみるとがさがさ音がします。ボイスコイルは断線していませんでしたが、これではどのような音が出るか容易に想像がつきます。OPTは断線もないのでテスト用に保存、SP本体は処分することにします。




裏蓋の表示です。昭和23年4月25日製作と読めますが、昭和22年からスーパーの生産に切り替った経過をUIA局から聞いていますので、1962台目の製造番号から見てこの機種は2000台程度の生産だったのではないかと思われます。
 回路図もついていました。コンデンサ、抵抗の定数が書き換えられています。修理した形跡でしょうか・・?また、電源回路の一部が損傷して見えませんが、平滑回路にチョークを使っているようです。電解コンデンサの4μFの文字が辛うじて見えます。この回路ではどの程度ハムが残るかちょっと不安ですが、チョークコイルに期待をかけてオリジナルどおり復元します。ちなみに裏蓋はネズミにかじられて通気用の穴が大きくなっていました。




手書きで見苦しいかもしれませんが、元々の回路を書き直してみることにしました。4号はB型の資料を調べ直したところ、上記のような回路であったろうと思われます。OPTに並列に入っている0.04μFの定数は書きかえた跡があります。このコンデンサで音質を調整していたのでしょう・・。また、15KΩのSW付きVRは今となっては貴重です。テスターを当てガリオームを調べましたがどうやら使えそう。SW部分も分解し接点を磨きます。




というわけで、修復には相当時間をかけることになりそうです。まずは完全分解と部品水洗い清掃を行います。シャーシは部品を取り外した後、ワイヤブラシとサンドペーパーで丁寧に磨きます。当時のアルミ製造技術はあまり良くなかったのでしょうか?表面がデコボコで滑らかさがありませんがピカピカになりました。バリコン、コイルも水洗いします。コイル類は、アンテナコイルがベークボビン、再生検波用コイルが紙筒に絶縁用樹脂を塗ったものになっていました。電源トランスの断線はありませんでしたが絶縁の劣化、発熱と効率、安全を考え今後の使用を見送りました。


いくつかの謎

ここで気づいたことがあります。電源用のチョークコイルがありません。または、代用の抵抗器も大きいワット数のものも見当たりません。シャーシは長い間キャビネットから外されることなく過したのでしょうから、この状態で使用されていたのでしょうか??
ケミコンは完全に壊れていましたから、この時点で廃棄したとすればチョークコイルは残っていそうなものです。修理したとしても電源回路がまともになっていませんので12Fの出力を直接B電圧として使用してもハムが多くて聞けません。完全分解する際、元の配線を確認しておきました。RF・DET、AF段は概ねオリジナルどおりでしたが電源部はまったくオリジナル回路と全く異なっており、私には回路の意味がよく解りませんでした。いったい、このラジオは戦後どんな運命をたどってきたのでしょうか?




使用されていたコンデンサです。左の写真はペーパーコンデンサですが、左端はケミコン中央の同サイズ2個が日立オリジナル、バイパス用に使われていました。右端はガラス管に銅線を巻きつけたヒューズのようですがとても保護部品には見えません。右側は全てマイカです。カップリング、同調用に使われていました。容量チェックしたところ全て劣化はありません。再利用可能です。


キャビネットの塗装



本体の修復を考えながらのんびりとキャビネットの化粧直しをすることにしました。
サンドペーパーで長い時間をかけて既存の塗装を剥がします。木工用パテ(写真下)を使って隙間を埋めていきます。ウォールナット用二スがオリジナル塗装のようです。透明のニスと違い削りムラがあると再塗装時にマダラになってしまいます。良く確認しながら塗装を削るのがコツです。デザインとしてダイヤル窓付近に縦の塗装を変えた部分があります。オリジナルでは、ほとんどツートーンになっていませんでした。ここは通常の二スを塗って復元します。



塗装が完了したところです。4回程度重ね塗りを繰り返し、ようやく見栄えのする状態になりました・・。オリジナルはかなり塗装が厚く、木の質感がありませんでしたが、艶を少し落として上品に仕上がりました。日立マークも取り外し、Sun Lightの文字部も補修塗装しました。 ダイヤル窓のプラスチック部は、かなり汚れて細かい傷があり透明感が損なわれていたので、細かいコンパウンドで磨き上げたところ傷も消え透過性も随分向上しました。これなら、新品と変わりません。


部品調達
いよいよ、本体シャーシの復元です。秋葉原買出しに出かけました。買出し部品は概ね以下のとおりです。
・電源トランス(並4用)出来れば300V50mmA程度
・電源チョークコイル
・ケミコン10μF(耐圧350V以上)  
・ケミコン4μF(耐圧350V以上) 
・出力トランス          
・その他C・R類、ラグ板など

電源用トランスは、なかなか新品は見つかりません。中古でも3K程度はします。結局、東栄電気の新品が2.6kで見つかり購入。チョークコイルも無いか聞いたところ、1:3低周波ランスを直列に接続しても代用可能ということで、30mmA用を格安購入。OPTはラジオデパート3Fのシオヤで3.3・5・10Kのタップ付きを購入。このお店は庶民の味方です。C・Rその他部品はラジオデパート内で殆ど揃いました。これでとりあえず音の出るところまでは作れそうです。


組立て配線



綺麗に清掃した部品を本体に取り付けていきます。ここまで分解したので、ネジ類も錆びのあるものから新品に取替えます。ネジが変わっただけでもかなり新しく見えます。文字盤は熱で歪んでいましたので、薄い布をかけてアイロンで平坦にしてから取り付けます。バリコンは文字盤を取り付ける前に糸かけをしておくと作業がスムーズです。電源トランスはシャーシに直接固定し、ヒューズは目立たないよう既存のシャーシ穴を使って取り付けました。問題のチョークコイルですが、シャーシの下側にちょうど良く取り付け穴が合い、写真のようにうまく収まりました。

抵抗・コンデンサは部品自体が小さくなったので、元々配線の簡単な4ペンですから非常にすっきりしています。配線作業は、まず電源回路を行います。ここで、初めて電源をいれます。問題なければ12Fを差し込んで再度電源投入。各電圧を測定しますが、B電圧が110V程度でふらふらしています。トランス定格では230Vですから、B電圧として1.4倍程度の電圧が必要です。電源回路はもともと問題があったところですから多分12Fはエミゲンと思われます。予備はありませんから、手持ちのシリコン10Dー10を代用配線しました。もっとも、こちらのほうが効率が良いのですが・・。

これで約300V程度のB電圧が得られました。42のプレート電圧としては250V以上あれば充分です。




AF部、DET部、RF部と順に配線を行い、電力増幅部から動作確認を行います。グリッド側をドライバで触るとスピーカから雑音が出ます。順次真空管を差し込んで電源を入れるといきなり大音量で発振。おっと、6C6のシールドを忘れていました。シールドを差し込んで再度電源を入れます。バリコンを回すと低い周波数でわずかに放送が聞えます。再生マメコンとボリュームを調整すると簡単にHNKが受信できました。バリコンのトリマーを調整し、ダイヤル表示と合わせます。高い周波数では文化放送でダイヤル目盛を合わせておきました。

なかなか感度も良く、期待していなかった音質ですが思った以上に良い音です。スピーカーはキャビネットに納めると低音が若干膨らみます。それを計算してOPTの1次側コンデンサを選択すればよさそうです。電源ハムですが、気にならないレベルに抑えられています。試しにチョークコイル(もどき)を外して2KΩ3wのセメント抵抗を入れて比べましたが、こちらではハムが相当大きくなりますので、チョークコイルの存在は大きいものと思われます。4μF程度のケミコンで良くこれだけハムが抑えられるものだと関心。



スピーカーは早川電機の17cmのものがありましたので、こちらにOPTを取り付けて10KΩのタップで接続しています。音質もこの変更でかなり向上したものと思われます。取り付け板も少し厚手のベニヤ板を加工して取り付けています。音質を左右するコンデンサはオリジナルのマイカ0.004μFを取り付けました。


今後の課題

電源コードプラグは昔ながらの袋うちコードと丸プラグの新品に交換し、スピーカーネットを付けましたが写真では無地の白い布に見えてしまいます。実際はベージュの模様入りなのですが、すこしあっさりして見えますので、今後よい布が見つかったら取替えようと思います。また、ツマミもオリジナルを復元できればしたい・・。
オリジナルのコンデンサ、抵抗をできるだけ元に戻すか検討中。レストアのポリシーにもよりますが、ラジオは文化財だとおっしゃる方もおります。私としては、ビンテージ品ならまだしも普及品はできるだけ実用に耐える安全なものとして復元、修理することが第一と考えます。使ってもらわれるラジオも、そのほうが本意ではないかと思っているところです。


受信状況

大変感度が良く、NHKはアンテナが近いこともあって再生回路が不要なくらいです。AGCはありませんので、時々音量が上がってびっくりします。良好なアンテナをつないでいませんが高域では文化放送まで実用領域、話題の多かったニッポン放送はノイズが混じり長時間の受信には苦痛が伴います。受信音は音声に関しては全く問題はありません。音楽でわずかに歪っぽさを感じる程度で実用上は5球スーパーと全く変わりません。庶民の使うラジオとして本当にスーパーが必要だったかどうかについては過去に色々な議論の交わされたところですが、戦後物の無い時代に、限られた真空管と少ない電子部品を駆使してこれだけのラジオが作られていたわけですから、先人知恵を垣間見るようなひと時が過せました。


その後・・・

スピーカーについては、パーマネントのダイナミック型に取替えていましたが、処分することにしていたフィールド型のスピーカーを何とか修復したいと考えました。フィールド型ダイナミックスピーカーは国民型4号の特徴であることと、性能より「当時の音」に拘るにはやはりフィールド型のスピーカーを取り付けるほうが良いという理由です。また、AF出力も充分得られることが確認できたことからも期待が持てます。


既設の山陽スピーカーです。黄・赤・黒のコードが付いています。黄色にフィールドコイルがつながっていますのでこちらが励磁電圧のプラス側、黒が接地でしょう。フィールドコイルは1.5KΩ60mAです。 綺麗に清掃してOPTの端子も磨きました。




ガサガサしていた音は、よく調べてみるとムービングコイルの内側コードがわずかにコーン紙に擦れており、この音でした。試しに鳴らしてみると歪は発生しません。これなら完全分解しなくても済みそうです。コーン紙の補修は写真左のように、和紙を木工ボンドに浸して補強用に貼り付け乾燥させます。乾燥したら和紙の補強を兼ねてアクリル樹脂塗料を塗って乾燥させます。以上で作業終了ですが、コーン紙はかなり補強されました。また、この程度の重量変化でF特や能率が変化することもないでしょう・・。

早速ラジオに取り付けて、「昔の音」を再現してみます。スイッチを入れてしばらく・・・「ブーン」という音とともに放送が聞えてきました。当時の電源回路からみて、B電圧が300V以上あったのはフィールドコイルの励磁電圧を得るためであったと思われますが、やはり負荷が増えた分B電圧が下がりAF出力も幾分低下しました。また、ハムも増えましたが歪感は音楽を聴いても無くなりました。実用レベルのギリギリです。戦後間もない時期ではこれでも商品として充分通用したのでしょうか・・。電源トランスの効率は上がりましたが、B電圧は当時より70V程度低いので、動作状況が相殺されるとすれば、これが「昔の音」??



どうも納得できないままフィールドコイルの定格を眺めていて「はっ!」としました。何故、励磁電流が60mAも流れるのか・・手持ち資料と心当たりのホームページを確認します。「やっぱり!」フィールドコイルはチョークコイルを兼用してる。分解の時なぜ気が付かなかったか・・・。これでチョークコイルが見当たらなかった謎が解けました。配線をやり直して電源を入れてみるとハム音は全くなくきれいに放送が受信できる。AFの利得も復旧しました。

良く考えてみれば、物のない時代にコストアップになるコイルをふんだんに使用するわけがありません。裏蓋に記載された回路図の破損部が読めていれば何かのヒントがあったことでしょう。いずれにしてもフィールド型スピーカーのおかげでまた一つ学んだことと、完全なオリジナル回路に復元でき、充分実用になることが確認できました。