はじめに

 TUTIMA/チュチマのフリーガー クロノグラフ ルフトバッフェ(復刻)を入手入しました。これを機に同社の歴史や製品ラインなどを調べていましたが、そんな中、見たことのない“フリーガークロノグラフ ルフトバッフェ”を名乗る時計をネットオークションで発見。「これは正規のチュチマなのか?」。そんな疑問から出発した「チュチマ レポート」です。 2000.10 update

歴史

 チュチマの創設は1845年。ドイツのGlashutte/グラスヒュッテ(旧東ドイツ地域)の時計工房が起源です。チェコとの国境近くに位置するグラスヒュッテに現れたドレスデン出身の時計職人であり、ドイツ時計産業の父フェルナンド・アドルフ・ランゲを創設者と考える説があります。ただし、この時点では“チュチマ”ブランドは存在していません。また、フェルナンド・アドルフ・ランゲは「チュチマ」の祖というよりは、グラスヒュッテ時計産業の祖としたほうが適当なようです。チュチマのホームページを見ると、ルーツは、グラスヒュッテに暮していた画家、わらの織り手、農民、 石切り場の労働者などが失業対策として時計づくりをはじめたことにあると紹介。

 ドイツの時計産業は分裂、連合を繰り返します。1926年、ドイツの時計関連会社の大合併があり(第二期グラスヒュッテ社)、その責任者がDr.Ernst Kurtz/ドクター・クルツでした。このクルツによってグラスヒュッテ社の1ブランドという形で「TUTIMA(チュチマ)」の名前が世に出ます。 従って、チュチマ社は創業の地、グラスヒュッテと並び、ドクター・クルツの名前を同社の歴史を語る上で前面に押し出しています。ちなみに「TUTIMA(チュチマ)」とは、ラテン語で“精密”を意味する“TUTUS”に由来。現在のドイツにある会社の正式社名は「Tutima Uhrenfabrik GmbH 」。会社の本社工場があるのはGanderkesee/ガンダーケゼー(旧西ドイツ地域)。

 TUTIMAの系譜

1918年 DPUGグラスヒュッテ社(Deutschie Praezisions-Uhrenfablik Glashuette in Sachsene.G.m.b.h in Sachsen/ DPUG)設立

1925年 DPUG解散

1926年 UFAGグラスヒュッテ社(Uhren-Fablik A.G. Glashuette )設立

     UFAGが製造する時計の中にTUTIMAブランド誕生

1945年 ドイツ東西分割

1945年〜 UFAGグラスヒュッテ社の工場が東ドイツ政府により接収。グラスヒュッテ時計国営工場(Glasshutter Uhrenbetrieb GmbH/G.U.B)が同ラインを使って時計製造を開始。

 ソ連の第一時計公社(モスクワ第一時計工場FMWF)が東ドイツの工場ラインの一部を接収。

1948年 ドクター・クルツが西ドイツに亡命。1960年のクルツ死去に伴い、西ドイツにおいて現在のチュチマ社(Tutima Uhrenfabrik GmbH)が設立される

1967年 東ドイツの「グラスヒュッテ時計国営工場」「ワイマール精密機械国営工場」「ルーラ時計及び機械国営工場」が合同、「国営ルーラ時計コンビナート( Uhren Kombinat Ruhla/VEB)」となる。

1990年 東西ドイツ統一

1991年 VEBが「A.ランゲ & ゾーネ」の商標を放出、IWCが買収する。1994年に新生ランゲ&ゾーネの時計を発表

1994年 ハインツ・Wファイファー(現G.U.B社長)がG.U.Bの商標とVEBのグラスヒュッテ工場を買収。グラスヒュッテ・オリジナル(Glasshutter Uhrenbetrieb GmbH/G.U.B※社名変更せず)設立

2000年 スウォッチグループ傘下に入る。

情報提供 「時計猿の小部屋」のDADAさん。「だいすき〜Navi兄貴の小部屋」のNavi兄貴さん。「タイムゾーン日本語ページ」の斎藤さん。「Tutima Uhrenfabrik GmbH」のI.Goetteさん。

 参考文献

“世界の腕時計 No.16、No.41” ワールドフォトプレス

“新軍用時計物語〜今井今朝春氏著”グリーンアロー出版社
“INTERNATIONAL WRIST WATCH日本版”No.10、No.14、No.15 二玄社

“TUTIMA instrument watches” Tutima Uhrenfabrik GmbH
“ヴィンテージ ウォッチ 2nd issue” 日経ムック
“German Impressions 2000” ドイツ観光局

 

 

 工場と商標が東ドイツ政府に接収されてしまったグラスヒュッテですが、その製造ラインの一部が旧東独地域からソ連軍に接収されてしまいます。そして旧ソ連時代の第一時計公社(モスクワ第一時計工場FMWF)であるPOLJOT/ポレオットが、そのラインを使って時計の製造を始めました。

 このラインを使い、第一時計公社(モスクワ第一時計工場FMWF)が製造した時計は、戦後、間もないあいだ「Glashutte Tutima」銘で世に出ていたようです。しかし、その接収したラインで造るオリジナルクロノムーブメントは、1940年代中に生産が中止されたとのこと。

 ソ連崩壊後、公、官用の時計を中心に時計を製造していたPOLJOT/ポレオットが、戦時中のスペックの時計を民間向けに生産、販売をはじめます。これをPOLJOT/ポレオット社がチュチマと名乗ったという情報がありますが真相は未確認。

  

ここからが本題

 私がTutimaPOLJOTの関係に興味を持ったのは下の時計(写真)がきっかけです。「この時計は果たして正規のTutimaとなのか?」

某オークションサイトから/ ※写真転用の許可は取ってあります

こちらも海外の某オークションから。今はない「Glashutte Tutima」の名前を語っています。商標として同銘がどのような状況にあるかは不明です。

6時位置にデイ表示があるのがPOLJOT製の特徴。

※話が少し複雑になりますが、現行チュチマ社が「Glashutte」という名前のオートマチッククロノグラフをリリースしていますが、この話とは全く無関係です。

これも海外の某オークションから これにもPOLJOT製との説明はありました

ここまでくると正規の「Tutima Uhrenfabrik GmbH 」の時計と見分けがつきません。

POLJOT製

正規Tutima Uhrenfabrik GmbH

これはポレオット社がオフィシャルに作っているもの。これがベースになっているようです。

 

 以上は、最近、ネットオークションなどでよく見かけるPOLJOT/ポレオットの機械を積み、Fliegercronograph Luftwaffe/フリーガークロノグラフルフトバッフェを名乗る時計。Glashutte Tutima」という名前を必ずどこかに入れています。

 

 現在の「Tutima Uhrenfabrik GmbH 」が販売する、Fliegercronograph Luftwaffe/フリーガークロノグラフルフトバッフェは以下の写真の時計。もちろん、Glashutte Tutima」という名称は使いません。ちなみにバルジュー7760系(7750からローターを外した)機械(ETA)が搭載されています。

Cal. Valjoux 7760 (modified)

左右ともTutima Uhrenfabrik GmbHのページから参照写真

フリーガークロノグラフ

  

 

Poljotの機械の正体 

 

 ここで、もうひとつ確認しなければならないことがあります。POLJOT/ポレオット製の機械を積みながら「Glashutte Tutima」を名乗る時計の機械は一体、どのようなものなのかということ。 

 このPoljotの機械POLJOT.3133という名で、その実はValjoux7733のコピーなのです。

 このPOLJOT.3133とValjoux7733の機械の比較は、この件の情報提供者であるDADAさんのHP「時計猿の小部屋」クロノグラフムーブメント列記/バルジュー、の一番下に画像と詳細な解説があります。

ここでは簡単な画像比較を行います。

Valjoux7733

POLJOT.3133

 Valjoux7733(7730系)は1960年代の終わりに誕生したスイス製機械です。この機械をコピーしたものであるということは、POLJOT.3133は、冷戦中に接収した戦前のGlashutte 社のオリジナルラインとは全く無関係ということになります。言い換えますと、第二次大戦直後に、Valjoux77330系は誕生していませんので、大戦後に接収されたGlashutte 社のラインから、Valjoux7730系のコピーであるPOLJOT.3133は造られようはありません。

 ここで、「POLJOT社はValjoux7730系をコピーした」という事実が明らかになりました。

 さて、本題の「POLJOTの機械を積んだTutima(記名)の時計は、正規のTutima製品と言えるのか?」と疑問を解きあかしましょう。

 

 

 

ドイツのチュチマ社にメールで問い合わせ

 そこで直接、ドイツのチュチマ社「Tutima Uhrenfabrik GmbH 」にPoljotの機械を積む時計の素性を、写真を添付したメールにて問い合わせました。後日、同社のH. Kordesさんからその返事が来ました。内容は下記の通り。

Dear Mr. (私の本名),

The Tutima brand is internationally registered. The watch you mentioned
and sent pictures of is a fake watch. Purchase and sale of fakes or
imitations are illegal. We would very much like to find out name and
address of the dealer who offers this watch.

For further information, please contact our agent in Japan:(以下、PXの住所)  

PX Incorporated
Kind regards
Tutima Uhrenfabrik GmbH
H. Kordes

 Tutimaブランドは国際的な商標登録がされています。. あなたが写真と共に言及している腕時計は偽物です。また偽物の時計の販売と購入は違法行為です。私達はあなたが、その時計を見つけた時計ディーラーの名前と住所を非常に知りたく思っています。その情報をチュチマの日本代理店であるPX Incorporatedに連絡して下さい。(以下、PXの住所)  
敬具
Tutima Uhrenfabrik GmbH
H. Kordes

 上記のTutima Uhrenfabrik GmbHからのメールでのポイントは Tutimaブランドが国際的な商標であるということ。添付した写真に写るPOLJOTの機械を積んだTutimaを偽物であると断言したことです。

 こんな情報があります。「PoljotをGlashutte Tutimaとと書き換えるだけで、値段が3倍以上も高価になるので、偽造団がGlashutte Tutimaとリダンしたポレオットの時計を大量に流通させている」。

結論

 

POLJOTの機械を積んだTutima(記名)の時計は正規の「Tutima」ではありません。

 TutimaブランドがTutima Uhrenfabrik GmbHによって国際的な商標登録されている以上、結論はこのようになります。一方で、TutimaというブランドにPoljotという会社が、その歴史の中で、交わっていることだけは事実です。 

 

 POLJOTの機械を積んだTutima名の時計(結論として偽物)を作っているのはPOLJOT社ではなく第三者でしょう。POLJOT社は現在、時計メーカーと時計機械メーカーの両方の顔を持ち、機械のみの販売も多く行っているようです。その機械を仕入れ、チュチマの名前を付けた時計を作っている者がいる。彼等がTutimaとPOLJOT社の歴史的な関係を知り、POLJOT社の機械を使っているのかどうかは分かりません。この時計はネットオークションで多数見かけます。

2000.11.25追記 POLJOT社は、Tutima Uhrenfabrik GmbH製のフリーガー クロノグラフ ルフトバッフェのデザインを意図的に模倣したことは事実でしょう。それは“Tutima”ブランドは付かないものの、POLJOTブランドで同社がケースしたと思われる時計を確認したからです。

雑感

 現在、Tutima Uhrenfabrik GmbHが製造しているフリーガー クロノグラフ ルフトバッフェは戦前のグラスヒュッテ社が製造していた「Tutima」銘のクロノグラフを復刻したものです。“筋”から言えば正統な後継者は、そのブランド銘、ドイツで時計機械作りを続けているという点からも1990年代に再生した新生「グラスヒュッテ・オリジナル」なのかもしれません。また、POLJOT社に模造品を作られたという立場で結論づけたこの時計も、もともとは戦前の軍用時計の復刻品で、搭載されている機械について言えば、全く別物(ETA社の機械でスイス製)です。求め過ぎてはいけませんが、ドイツ時計を名乗るのであれば、グラスヒュッテ・オリジナル」や「ランゲ&ゾーネ」のようにドイツ国内で機械を自社製造する徹底さを期待したいところです。

オリジナルの機械である caliber59

復刻品はETA社のValjoux 7760

  

情報提供1

当サイトをご覧頂いた内田さんからの貴重な情報です。

はじめまして!
HP興味深く拝見させていただきました。私は以前から時計に関心を持つ者で、その一環といってはなんですが、ロシア時計にも興味がありよく、ネットサーフィンしたり、実際にオンラインで購入したりもしております。先日、驚くべきシロモノをロシアのオンラインストアで発見しましたので、メール差し上げる次第であります。
ロシア・サンクトぺテルブルグのサイトhttp://russian-watch.comにpoljot new modelsの1つとして何とチュチマ・グラスヒュッテと堂々と謳ったモデルが紹介され、販売されていたのです。しかも140ドルという廉価で・・つまりこれは、ポーレット製の類似品を第三者が改造してチュチマ製として流通させたという可能性もありますが、ポーレット自ら確信犯的にパチモノを作っているという可能性が高いということではないでしょうか。ポーレット、実はfortisからもコピー品製造を抗議されているようです。生き残るためになりふり構っていられない状態なのかもしれません。他にもブライトリングやオメガのシーマスター(日常生活防水というのが笑えます)やダイナミック(これは商品名まで同じ)などのコピー品が堂々と売られています。
取り急ぎ報告まで。


ポーレットがFortisに抗議されている件ですが、この情報を私が知ったのは、ポーレットのメーカー直系と思われる、スイスのオンラインストア、www.poljot.org/です。このページの"INFO"というコーナーに記載があります。一個売る度に、罰金を払え!と抗議されたようで、この罰金の額では商売になりませんから、もう手に入らなくなるでしょう。この商品は”Aviator”という商品で、実は私はコピーと知らずアメリカのストアに注文して、届くのを首を長くして待っています(笑)。初めてこの時計を見たとき、「ロシア製とは思えないほど垢抜けたデザインのクロノが190ドルとは!!」と狂喜乱舞し、即、注文しました。また、改めてこのページを精読したところ、「TUTIMAという商品をカタログに一旦は載せたが販売できなくなった。」という内容の記載もあります。このオンラインストアで、なかなか面白い商品を見つけました。旧ドイツ軍用レプリカでドイツとの共同制作モデルとありますがいかがでしょう。この商品は他のサイトでは確認していません。ところで、ポレのロシアのオフィシアルサイトを遂に見つけ出しました。アドレスを適当に推測して打ち込んでみたら一発で見つかりました。www.poljot.ru/です。昔の商品ギャラリーや、工場の写真などもあり、充実した内容でした。英語もあります。ざっと見て気がついたのですが、このページの商品カタログには「これはヤバいだろう!」という商品は載っていませんでした。唯一、シーマスターもどきのクロノが載っていたのみでした。(もちろん、時計に詳しい人が見れば模倣品が他にもあるのかもしれませんが。 何故でしょう??)公式にはパチモノ、類似品は作っていないというスタンスなのでしょうか????オンラインストアで売られている、他のメーカーの製品に酷似した製品にもちゃんとポレのロゴが刻まれてますし、保証書も付いています。スケルトンのモデルもあります。パチモノを作っていることを恥じているのか、それとも第三者が勝手にポーレットを名乗っていることにして本社に訴追の手が及ぶのを避けたいのか?謎です。

  

 情報提供 2

香港にお住まいのHOIHOIさんからの情報

 TUTIMAの歴史で解説した、ソ連・第一時計公社(モスクワ第一時計工場FMWF)が接収したラインで造ったクロノグラフ・ムーブメントの写真と情報を御提供いただきました。これは貴重です!

  

  

  

以下HOIHOIさんからの情報

 TUTIMAソ連版の「KIROVA(1MChZ)」です。結構良く出来ています。文字盤には名前はありません。次の記事も見つけました。


- Tutima cal 59 no. 214545 by the 1. Moscow Watch Factory. This item has still a lot parts made in Glash・te but no jewels. - Kirowa cal 59 no. 00518 by the 1. Moscow Watch Factory in 3. Quarter of 1949, case and movement completely made in Moscow. The watch shows a good manufaction standard though the movement parts have got little finish effort.

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