Lateness!

 遅い。
 遅い・・・・・。
 遅い!!!!
 遅すぎるぅぅぅぅぅぅ!!!

 すでにここに来て待つこと2時間!一体全体このあたしを何時まで待たせたら気がすむのかぁぁ(怒)
 しかし、待っている事は他にもあるのだ。デートに遅刻する以上にもっと肝心な事なのに。未だにあたしは・・・・。ああもう、なんかアレやコレや腹立つコトが多すぎる。ああもう、ムカツク!!


 そんなこんなで、待たされている間中いろいろと考えすぎたせいで、あたしが怒り心頭でマジ切れした直後のことだった。横手から能天気極まりない声がかけられたのは。

「よう!」

 待つに待たされ、ようやく聞こえた待ち人の声。しかぁぁし!

「なぁぁぁぁぁぁにが、『よう!』よっ!!もっと他に言う事があるでしょーーーがっ!!んな能天気なこと言う前にっ!!」

 図太い神経が売り(?)のコイツでも、あたしの振り返りざまの異様な迫力に腰砕けになっている。

「・・・そ、そりゃ、ちぃーっとばかし遅くなっちまったが、いつものことじゃねぇか。それに何を言えってんだ、俺に。ああ?」

 2時間の遅刻がちょっとですってぇぇぇぇぇぇ!!!
 その無神経な言葉があたしの怒りを更にヒートさせる。
 あたしが、更なる罵声を浴びせようと口を開きかけたが、コイツはそれを遮るように、ずずいっっ!とあたしに詰め寄った。目の前に広く厚い胸板が迫っている。一瞬にしてあたしの周囲が暗く翳る。

「そそ、それは・・だ、だからっ!遅刻しまくったんだからごめんの一言くらいあって当然でしょーがっっ!!」

 いきなり至近距離に出没されてあたしの声がうわずってしまった。だから、今の言葉もあたしの怒りの半分程度しか表してくれなかった。
 けれど――――これがいけなかった。・・・・・のだと思う。
 ここでもう一踏ん張りするべきだったのだ。なぜなら・・・・・。

「ほーーお。じゃあ、お前は俺に謝れ。こう言うんだな?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 ど、どこまで面の皮が厚いんだこの男はっ!!
 あったりまえじゃないの!と、どやしつける筈が、あまりと言えばあまりの言葉に、あたしは声にならなかった。
 怒りのあまり、知らす知らずの内に拳を握り締め、体が小刻みに震えさせていた。

「おっ?どーした、手ぇ、震えてるじゃねえか。中風か?(笑)」

 こんなの冗談だってわかってる。
 コイツにも悪気なんてこれっぱかしもないってことも。だけど、いつもなら軽く流せる軽口も今日に限って、ただ怒りを増すだけだった。
 悔しい、悔しい、悔しい・・・・。いつしかあたしの心にはこの言葉でいっぱいになっていた。
 そう、何だって、何時だって待たされるのはあたし。会いたいと言うのもあたし。甘えるのもあたし。・・・・・好き・・・・と言うのもあたしの方からだけなのだ。
 傍に近づこうと・・いたいと望んでいるのはあたしの方なのだ。多分。今まではそれに気づきつつも、まあいいかと黙殺してきた。けれど、このことはあたしにとって相当なストレスだったんだろう。時が経てば経つほど堅いしこりとなっていたようで。そんなゾロリとなぞり上げるような嫌らしい感情があたしの不快感を増殖させた。
 ああ、きっと今、ここにいるのは弱いあたしだ。
 だから、今になって自分の中の真実に目を向けてしまったのだろう。『あたしは、1人で舞い上がってるんだ』と。けれど、これを自覚する事は、あたしにとってあんまりなことで・・・不覚にもあたしは、目頭を熱くしてしまっていた。
 多分、しこりだらけの心が羨望しているからなんだろう。身勝手で無神経なのにまだあたしを惹きつけるコイツへ。何より、馬鹿な我慢ができるあたしの強さへ。

―――ポッ・・・・ポタッ・・・・

 俯いたあたしの目から透明な雫が零れては落ち、零れては足元のコンクリートに吸い込まれていく。

「なっ?!」

 泣いていると自分で気づいた時は驚いたけど、あたしより目の前のコイツの驚きは相当なものだった。なんたって付き合いだしてからというもの、今の今までコイツの前で泣いた事などなかったから。

「お、おい?!一体どうしたってんだ?怪我でもしてんじゃねぇのか?・・・・・・おい、なんとか言えよ!」

 あたしの涙におろおろしているコイツを見ていると、ほんの少しだけ悔しさが薄れていく。
 あたしはいくつもの涙を零しながら、意を決して声に出した。

「・・・・・しい。」
「あ?なんてった?」

 どうやら、俯き加減で言った為にはっきり聞こえなかったらしい。あたしは、同じ言葉を繰り返した。

「・・・悔しい・・・。」
「・・・・・・はぁ?悔しい?なんだそりゃ?」

 あたしの言葉に素っ頓狂な声を上げている。さもありなん。顔を合わせるなり、怒鳴り散らすわ、泣き出すわ。その挙句に言った言葉がこれなら。
 しかし、あたしは相当ストレスを溜めこんでいたのか、気がついた時には怒りが爆発させていた。

「そうよ、悔しいのよっ!!なんか文句あるっ?!」

 あたしは投げつけた言葉の後に、目の前に立ちふさがる大きな胸に握り締めた拳を叩きつけた。何度も何度も。悔しい、と泣きながら。



 そして、叩き疲れて、泣き疲れてあたしはいつしかコイツの胸にしがみついていた。疲れ果てていてもただ、悔しい、と呟き続けていた。
「何が悔しい?」

 ようやく大人しくなったと思ったのか、コイツが聞いてきた。
 ただ、その言葉は、普段なら想像したことも無いくらい柔らかなものだった。けれども、声が優しくなっただけであたしの怒りがおさまるはずなどなく、気がついた時、今度は拳ではなくて言葉で叩きつけていた。泣き疲れていたはずだったのに、何処にこんな余力があったんだろう。

「い、いっつも、あたしばっかりなんだもん!あんた、ズルイ・・・ズルイわよ・・・・・・・・だから、悔しいのよぅ!!」

 一瞬にしてコイツの顔つきがかわった。
 それを見て、あたしは自分が何を口走ったかに気づく。あまりにも自分勝手な言い草に―――自分に対して戸惑った。
 自分だけ我慢してきた――なんてそれこそあたしの身勝手。こんな相手のことを責める前に素直に言っていれば良かったのに。でも、あたしが意地を張って素直なコトをぶつけずにきた。これを身勝手と言わず何と言うのか?
 その身勝手に負けて更に身勝手な感情をぶつけたのだ。まあ、確かに原因はコイツが作っていたけど。
 あたしはいたたまれなくて、顔を俯かせ―――られなかった。コイツの指があたしの顎にかかっていたから。そして、さらにあたしの顔を上向かせる。コイツにどう思われたか怖くて仕方なかったけど、意を決して視線を上げた。
 今、あたしの視線の先には翠が広がっている。森を写し取った湖面を思わせる。その緑は今あたしだけを写している。

「お前ばっかりって・・・なんのことだ?」

 さっきから疑問の渦中だったのだろう。コイツは当然な言葉を口にしていた。
 しかし、ほんっとに珍しい、短気なコイツにしてはえらく気長。いつもなら、こんなことがあれば、今ごろはどんな手段を使ってでも、無理やり聞き出そうとしているはずなのに・・・・もしかしてあたしに合わせてくれているのだろうか?・・・・・・まさかね。

「あんたが・・・一度も言ってくれないからよ。」

 あたしの言葉にコイツは妙なモノを見るような顔をしている。でも、あたしはかまいもせず言葉を続けた。今まで、言いたくて言いたくてしかたのなかったコトを。聞きたくて聞きたくて仕方のなかった答えを知りたくて。

「ねえ・・・言って。」
「?・・・・お前、何を?」

 ますます困惑の度を深めているコイツ。なんだかそんな様子が可愛くて、さらに言葉を重ねる。そして、コイツも重ね合わせてきた。

「ねぇ・・・・・言ってよ。嘘っぱちでもいいから。」

 あたしの言葉にすぐ、コイツの表情が歪んだ。即座にコイツが吐き捨てた。

「嘘なんざ、つきたくねぇ。」
「つきたくなくても、言って。」

 あたしが瞳に力を込めて斬り込む。もしかしたら、あたしの欲しいモノをくれるんじゃないかと。
 どういう訳だか、あたしが眼光を鋭くすると大抵の人は迫力負けして言う事を聞いてくれるのだ。例外もいるけど・・・・・・コイツには通用しないかもしれないけど・・・・・もしかしたら。とわずかに望みをかけていた。
 しばらく睨み合いが続いていたが、不意に、今まであたしだけを見つめていた瞳が宙を仰ぐ。直後、虚空から深い溜息が舞い降りてきた。
 そして―――。


「―――愛している。お前だけだ。」


 ああ・・・・。
 これが聞きたかった。言われたかった―――言葉。
 この一言だけであたしの中のしこりというしこりが霧散してしまった。本当に現金なものだけど。
 ただ、一言。
 このマジック・ワードを聞きたかったのだ。この一言だけでどれだけあたしが嬉しく、幸せになれるか。コイツには永遠にわからないだろう。あたしは、あまりの幸せが切なくて、また涙を零していた。

「なんで泣いてる?・・・・・おっ!?そうか、そうか、んなに感動したか?」

 コイツはあたしを見てウンウンと頷いている。
 ほんっとに、コイツはーーー!こんな時でもふざけてる。らしいと言うか、何ともかんとも。もうもうもう!本当ならここで一発ぶちかましてる!――――しかし、それよりも今は。

「ちっ、違うわよ!・・・・・それより・・・それより、ねえ。もう一度言って?・・・・ガーヴ。」

 あたしは、もう一度ねだってみた。一生に一度、聞けるかどうか怪しい言葉を。

「んな、何度も言えるか!」

 やっぱり。
 見事な即答。あたしは心中深く溜息をついていた。
 でも、コイツの頬が朱に染まっているのを見て仕方ないとあきらめる事にする。ほんと、あたしのこーゆーところが、甘いと言われる所以なんだろう。
 コイツの即答の所為だろうか、今になってやっと泣いた疲れがずっしりとのしかかってきたようだ。あたしは落胆を浮かべながら、コイツの胸によりかかった。
 コイツのことだから、また何かふざけた事でも言うのかと思ったけど、ただ抱き止めてくれた。そして、今日2度目のコイツの溜息を聞いた。
 それは、あたしにとって幸せの呼び鈴になった。なぜなら、直後にコイツが言った一言が、あたしを綿アメのように蕩かしてしまったから。
 それは・・・・・。

「忘れるんじゃねぇぞ。いいか・・・・・お前だけだ。―――お前だけを、愛してる。」

(完!)


今回の懺悔室!


わーーははははははっ!!
極ミニマムなお歴々にはお待ちかねのガーヴ×リナっス。
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中途半端に甘いのを目指したのですが・・・・・・撃沈。
ぜんっぜん、甘くないッスね・・・・・(TT)
ずびばぜん゛ーー。