お馬鹿劇場
Ver.13


「ああぁん!濡れちゃったぁぁん・・・ゼルぅぅぅ!!」

―――ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・・・・ぴちゃん!

 熱い空気が暗い闇夜に漂っている。
 その熱気をぬってリナの切ない声と、濡れた音が響く。
 先刻から幾度となく繰り返している行為の為にリナは汗だくになってしまっているようだ。今もその白いうなじに行く筋もの汗が流れ落ちている。

「ねえ・・・もう一度・・・ねっ?イイでしょ、ゼル?」

 リナの欲望に濡れた眼差しがゼルガディスを射抜く。眼差しの余りの熱さにやられたか、ゼルガディスは深く溜息をつく。

「ああ。俺は別にかまわんぞ。いくらでもな。」
「嬉しいっ!でもゼルは、見るだけだからね・・・・・・手出しちゃヤよ!!」

 ゼルガディスの言葉にリナは満面の笑みを浮かべている。いや、欲望の笑みだったのかもしれない。

「ああ、邪魔なぞせん。そんなことをすれば・・・・・一生懸命ヤってる可愛いリナが見れなくなるからな。」
「もぉ、そんなコト言わないでったらぁ。」

 ゼルガディスはニヤリと意味ありげな笑みを返している。その言葉にリナ真っ赤になったが、その手はもう、巧みに動き始めていた。そして、またも鈍く濡れた音が響き始めていた。

―――ぴちゃ・・・・ぴちゃ・・・・

「・・・っぁ!・・・・・はぁぁ・・・・・・んんんっ、ああっ!!」

 幾度かの溜息が漏れ、リナは交互に喜悦と焦れた表情を浮かべていた。ゼルガディスはそんな彼女の姿を楽しんでいたが不意に、その耳元で熱い吐息を吐き出してみる。

「お前・・・・・好きだな。」

 リナはその熱い響きを耳元に吹きかけられると、瞬時に体を竦ませる。

「あん!もう、ゼルっ!邪魔しないでって言ったじゃないぃぃぃ!」

 リナの瞳に暗いものがよぎる。だがゼルガディスはリナの抗議など何処吹く風と受け流し、また粘つくような熱い囁きを零していた。

「しかし・・・リナ、お前の・・・結構、その・・・・色が黒ずんでるんじゃないのか?」
「?!なっ!!そ、そんなこと・・・・ないわよっ!」
「そうか?でもこっちの方の・・・・・」

 そう言ったゼルガディスの視線は、雫を湛え、ひくひくと蠢くリナのモノに貼りついていた。
 するとリナが、ゼルガディスの無神経な言葉に瞳に怒気を孕ませた。だが、ゼルガディスはニヤリと笑うだけだった。

「くくくっ。冗談だ、綺麗なものだ・・・・・まあ、それはいいとして「膜」は・・・破らないようにしろよ。」

 リナにはくぐもった笑い声を聞かせていたが、彼の瞳は笑ってはいなかった。その鋭い視線にリナは驚いたが、すぐに持ち前の勝気な性格がむくむくと鎌首をもたげ始めていた。

「そんな勝手なこと言わないで!あたしのモノなんだから、何時何処で破ろうとあたしの勝手じゃない!大体、そんなこと言うんだったら・・・・・ゼルがヤってよ!」
「おいおい、いいのか?後で文句の変わりに呪文を食らわせるとか言うんじゃないだろうな?」

 リナのいきなりな提案にゼルガディスは呆れ半分の表情だ。そんなゼルガディスに、リナはにまっと笑いかける。その笑みにゼルガディスの神経は麻痺しそうになっていた。あまりに魅惑的だった為に。

「だって・・・・ゼルも好きだって言ってたじゃない。」
「まぁ・・・な。」
「それに、見てるだけより、ヤル方がイイでしょ?」
「・・・・そりゃぁ。」
「だったら・・・・ね?ゼル。お願い・・・・・それともあたしのじゃ・・・・イヤ?」

 リナの熱い視線にゼルガディスの深い溜息が答えていた。

「フゥ・・・・分かった、分かった。・・・・だが、ヤリすぎて破れても文句は言うなよ。」
「うん・・・・ゼルだったら・・・イイから。でも、ちゃんとイれてよ・・ね?」
「イれないとリナが、泣いちまうだろ?」
「もう・・・・ゼルのバカぁぁぁ。」

 リナの全身は真っ赤になってしまったようだ。彼がふと目をやったリナの襟足が朱に染まっているのを捕らえる。それはなんとも言えず色っぽかった。その姿にゼルガディスはニヤリと笑う。

「さてご期待に添えるように頑張ってみるか・・・・だが、俺のテクニックでリナのモノがどこまで、もつか・・・だな。」

 ゼルガディスがつぶやく。気弱な言葉とは裏腹にその目は自信とやる気満々のオーラを放っている。
 その返事とオーラに当てられたか、リナの瞳に熱いモノが漂っている。火に油を注いだようだった。欲望と期待という炎に。
 そして、二人の炎は今まで以上に燃え上がろうとしていた。
 しかし!!


『破廉恥撲滅運動実施中!!只今より破廉恥バカップル第1号の摘発(?)開始致しまっすっっっ!!!』


 滾る熱気をその身に纏い、二人の背後に影が立つ。
 その熱気は黒の影をも赤く染め上げている。
 そう!
 我らが正義の使者、某国の王女様である。
 何時も以上に凛々しい正義の使者ルックと、その手に握られている『清く正しく美しく』と書かれたメガホンがライトに照らし出され、白く輝いている。

「お待ちなさいぃぃぃぃぃっ!!!!!!
 こんな往来の激しいところで何をヤってるんですかっ!リナさんっ、ゼルガディスさんっ!!
 いくらお二人共人目を気にしない方たちとは言え(死)、いくらなんでも、行き交う人々に卑猥な行為の数々を見せびらかすとは!!
 ああ、リナさん、あなたの心はなんとゆーヨコシマさなんですかっ!!
 のみならず!!!
 更にはゼルガディスさんにまで淫らがましい行為を強要するなどと、まさに摘発対象以外の何者でもありませんねッ!
 かくなる上はこの私、破廉恥撲滅運動推進実行委員長兼正義の使者、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが貴方達の身柄を即時拘束致しますっ!覚悟してくださいっ!
 必殺、清廉潔白正義の乙女ぱーーーんちっっっっっ!!!」

 実行委員長のキヨラカな拳が空を裂く!!

 ・・・・・間際の事だった。
 



「・・・・・ねえ、金魚すくいって・・・・淫らなの?」

「そんな話は見た事も聞いた事もないが?」


 あな、あはれ。


 破廉恥撲滅運動推進実行委員長兼正義の使者殿は・・・・・・見事、広場の中心で盆踊り用のモニュメントと化していた。


 そんな彼女を前に、リナとゼルガディスは互いの顔を見ながらきょとんとしている。

「ねぇ、破廉恥撲滅運動って一体いつから始まったのよ?」
「俺に聞くな。」

 リナの呆れ声に、ゼルガディスの諦め声が溜息をついていた。

「ねえ、そんなことより、ゼルはやく、はやくぅぅぅぅぅぅぅ!」

 リナは、ゼルガディスに金魚すくいのお道具(金魚をすくう、薄い「膜」が貼られているアレ、である。)を押し付けながら大量の金魚の中の一匹を指差している。
 リナが指差しているのは、一際大きな出目金だった。
 ゼルガディスはそのユーモラスな姿の魚に妙な視線を送り、またも溜息をつく。

「これでもう、30本目だぞ、ダメにした金魚すくいの網。
 ・・・・お前さんが、あいつばっかり狙うからこうなってるんだ!
 いい加減に諦めたらどうだ?これだけ赤い金魚をすくいまくったんだ、十分だろう!!」
「全然十分じゃないわよ!!赤いのなんて珍しくもなんともないじゃない!!」
「だったら!!もう少し可愛げのある奴にしろ!何が良くてあんな変な顔の・・・」
「なぁぁぁに言ってるかなぁ?!あのユーモラスな顔がいいんじゃないの!!そもそも・・・・」

 ゼルガディスは、力強く始まったリナの解説に『そんなご大層なものなんだろうか?』と心中深〜〜〜く、またまた溜息をついていた。
 が、そんな彼の微かな物思いは、「あっ!」という間に霧散した。

「・・・・・ってことで!!ゼル!ちゃーーんとあの金魚すくってよ!『レゾ仕込みの華麗な技(笑)』ってーのを期待してるんだから!!」
「ああ、わかったわかった。」

 殆ど投げやりに応えるゼルガディスだったが、それでも、気を取りなおして、瞳をギラリと光らせる。その右手に武器を掲げて。
 ・・・・まあ、その武器も半ば濡れて破れかけた金魚すくい、であったので、ターゲットの金魚に負けず劣らずユーモラスではあったのだが・・・彼にとってはもう気にしていない・・・いや、諦めているようだった。
 そして・・・。

「はっ!・・・それッ!・・・よっと!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!やったー、ゼル、ありがとーー(はぁと)」

 縦横無尽に走る手と浴衣の袖。
 水飛沫と共に跳ね上がる黒い尾ひれ。
 暫し後に沸き起こる嬌声。
 まさしく『華麗』と呼ばれるに相応しい『金魚のすくい方!』だった。

 見ればゼルガディスの左手にのっている入れ物には、群れる赤く小さな金魚の狭間で、巨大(?)な出目金が泳いでいる。
 キラキラ輝く目で金魚を見ているリナを見ながら、『あのレゾの変な趣味もたまには役に立つもんだな・・・』などとゼルガディスは、バカなことをしてしまった自分に黄昏つつ、変な感謝をしていた。
 そして、黄昏ながら彼はぽつりと呟いていた。

「ま、これも惚れた弱みって奴か・・・・・」

 なんぞという、ラヴラ〜〜ヴな(こっぱずかしい)彼の言葉に気づいたものはいなかった。

 そうして、ゼルガディスとリナは金魚を片手に祭の喧騒に消えていき・・・・・後にはただ・・・・・盆踊りの渦と、中心のモニュメント、それから、水母の着ぐるみがその渦の中に漂っていた。

(完)(改稿 2007.2.15)

久しぶりに、表のupが・・・・これかいっ!

ああ、もうどうしようもないです。
私の頭は・・・・・・・・・怪しさ爆裂しております。

どうか、皆様に見捨てられないことを祈りつつ。
(ダッシュで逃走〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)

三下管理人 きょん太拝