お馬鹿劇場
Ver.15
お祭り用 bU 〜白雪ばあじょん〜(没稿)



 あるところに白雪姫と呼ばれるお姫様がいました。とても、美しいお姫様でした。しかし、白雪姫のお母さんはその美しさに嫉妬していました。自分の本当の子供でなかったことも関係していたのかもしれません。
 そうして、白雪姫のお母さんであるはずの女王は王の目をかいくぐり、白雪姫を城からほおり出した上に、毒りんごを食べさせて目覚めぬ眠りにつかせてしまったのでした。そして・・・・。



「なあ・・・いいのか?本当にこんなことしても・・?ルーク。」
「何言ってるんだ、ガウリイ!!この程度のことなんざかわいいもんじゃねぇか!なっ!ゼロス!!」
「ルークさんの言うとおりですよ。ガウリイさん。今まで僕達のほうが散々ヤリまくられてきたじゃないですか?!!こんな絶好の機会を逃す手はありませんよ!」

 なにやら、3人の男寄り集まり怪しげなる談義が繰り広げられているようです。その彼らの前には―――つい今しがた目覚めること無き眠りについたばかりの麗しき白雪姫が横たわっていました。
 その姫君へのこの不遜な送辞は何なのでしょう。まがりなりにも、和やかに一つ家根の下で過ごしてきたはずではなかったのではないのでしょうか?
 彼らの談義・・・いいえ、密議は、激しい感情がほとばしりはじめたばかりのようでした。
 それが証拠に、次に続くルークの言葉が証明していました。

「ガウリイはされたこと無かったかもしれねぇが・・俺は、
『ルークは、すぐにおっ立つ』
 ってさんざっぱらいじりまわされたんだぜぃ!!」

 その言葉には底知れぬ屈辱感が漂っていました。けれども、負けてなるものか!とでも言うように、ガウリイと呼ばれた男性が怒気を漂わせて口を開きました。当然、彼の表情にもルーク同様に屈辱と、そして怒気に染まっていました。

「何を!おっ、俺だって・・・俺だって・・・
『ガウリイは・・・・1番柔らかいからヤリ甲斐があるわ』
 って言われて・・・そんなことを言われて嬉しいと思うか?!!なぁ、ゼロス。お前さんもそう思うだろ?」
「え?・・・・・あ!ええ・・まぁ。」

 今までひたすら彼女を見つめていた黒髪の神官はその顔を上げて、何か空気の抜けたような返事を返してきました。その返事は他の二人の癇を刺激してしまったようでした。

「なんだぁ!聞いてなかったのか?」
「まあ、ゼロスならいいように扱われなかったんだろーなぁ・・・。」

 妙に羨ましそうなガウリイの呟きが、ゼロスを変えていました。そう、今の今までノホホンを絵にしたような顔のゼロスは豹変したのです。本当に一瞬の内に・・・二人同様感情を剥き出しにして。

「いいえ!!ちゃんと聞いていましたよ。皆さんには黙っていましたが・・僕も彼女にはヤラれました・・・。
『以外に太くて・・・クスクス・・・』
 って・・さ、最後には笑われもしたんですよ!!」

 そのゼロスの悲鳴のような声に二人は済まなそうにうつむいてしまったのでした。
 どれくらいの時が沈黙に染まっていたのでしょう。
 3人がようやくナーバスから復帰しようかという頃、また1人、別の声が響きました。

「フン。何を言ってる。おまえらなんぞまだマシだ。俺なんか、俺なんか・・
『あたしねぇ、ヴァルガーヴ。ドラゴンのってすっごく興味があったのよ』
 って言われるや否や・・・。」

 自分の背後からする声がイヤだったのか、その声の主がイヤだったのか。どちらかはわかりませんが―――形の良い眉をわずかにゆがめたノホホン獣神官が振り向くと・・・・そこには、これまた美形の青年が立っていました。
 今の彼の台詞からすると、彼はヴァルガーヴと言う名前なのでしょう。言葉の勢いに反して彼はそこまで言うのが精一杯だったのかもしれません・・・・いきなり言葉を詰まらせて3人動揺にこれまた、ナーバスになってしまったようです。
 けれども、ヴァルガーヴは、それをごまかすかのように首を振り白雪姫の横に立つと、未だうなだれたままの3人にとんでもない事を言い出しました。

「・・・・いいか!よく考えろ!!こんなチャンスは中々ないぞ!今こそ俺達が味わった万分の一でもハラす好機じゃねぇか!!」

 その言葉は、ただナーバスであったはずの3人をヨコシマな欲望に染め上げたようでした。4人が視線で合図をしました。一瞬で皆の心が決まったのでしょう。そして、それぞれが白雪姫に手を伸ばしました。



 しかし、そうは問屋が下ろしませんでした。

「おい!おめぇら!自分達だけでそんなことしてもいいと思ってんのか!!?ええっ!」
「そうだよ。仮にもこの僕を差し置いて。」
「こやつらはどうでもいいが、せめて私だけでも呼んでもらいたいものだ。」

 なんと、そこには新たに3名の男達が仁王立ちで現れていたのです。その3名はゆっくりと近づいてくると真中の背の低い―――どちらかと言えばまだ少年のような者が口を開いきます。

「まったく。庭のほうから何やら声が聞こえてきたかと思うとこれだよ。いったい何をしてるんだい!!白雪姫をヤルなんて・・・・。」

 甲高い声が4名の頭上を通り過ぎました。当の4名は言葉も無く立ち尽くしています。

「くっくっくっ・・・まあ、いいじゃねえか、フィブリゾ。こいつらが何をしようと、白雪姫は死んだも同然なんだからな。なぁ、グラウシェラー?」
「そうだな、ガーヴ。それに・・・・・・俺にはそいつらがヤリたい気持ちが解るゆえ。」
 鋼を思わせる雰囲気の―――男の声がすしました。ただその声には幾ばくかの哀愁が漂っていました。
「俺も・・俺も・・・
『貴方みたいなタイプは結構好みなのよ。だから・・・・ね?』
 などと申して・・申し・・・・・俺の静止も聞かずに・・・くそっ!」
「なに言ってやがる、グラウシェラー。おめぇは、まだ好みって言われるだけ救いがあるだろうが!・・・・俺はな・・俺は・・
『ガーブって頑丈そうね。それに長いじゃない。・・・たっぷり楽しめそう(はぁと)』
 なんぞとほざかれて、その後は・・・・ま、まま、まぁ、おまえらが想像してるとおり・・だな。」

 わずかに苦笑を浮かべた後、さしも剛毅で鳴らしているガーヴも黙り込んでしまったのでした。
 すると、ガーヴの大きな影の端からまたも、かわいらしい声が上がるます。フィブリゾでした。

「ま・・まだ、いいじゃないか。君達は体ももう大人だし・・・・大きいし・・・・・・僕なんて・・僕なんて・・えっえっえっ・・
『まだ小さいから・・・うふふ。案外、細いってのもイイわぁ。』
 って言われて・・・言われて・・・・・・うあーーん!!」

 言い終わるなり、とうとう、大声で泣き出してしまいました。その泣き声をほかの6名はあやすことも忘れて聞いていました。おそらく、自分の鳴き声と思えたのでしょう。
 その後、ようようフィブリゾが泣き疲れた頃、誰言うとも無く、7人の呟きが風に流れていました。


【・・・・この際だ。ヤっちまおう!!】



と、その時。

『お待ちなさい!!』

 フィブリゾの辺りを払うが如き泣き声をも凌駕するそれが響き渡りました。

「「「「「「誰だ!?」」」」」」

 今だ涙を浮かべているフィブリゾを除くその他6名の誰何が突き刺さります。7名の小人(!?)達が見たものは、黒髪おかっぱの可愛らしい少女とこれまた秀麗な美貌の男の人でした。こざっぱりとした服装をしてはいましたが、よく見ると中々にお金のかかったものであることは見るものが見れば分かるものでした。
 小人たちが胡乱な目で見ていると少女のほうが脇に有った岩によじ登りました。そして!

「大の男がよってたかって、か弱き乙女に罵詈雑言!それだれではありません!
 卑猥なる言葉を投げかけ、あまつさえ猥らがましい行為を行おうとは言語道断!!
 ましてや、姫君は亡くなられているではありませんか!!
 なんとういうことをぉぉぉぉぉ!!!!
 かような不埒な所業を昼日中から行うとは!!!
 許せません、ねっ?!ゼルガディス兄さん!!」

 少女は不意に脇に控えたままの兄と呼んだ男に同意を求めました。しかし、帰ったきたのは底無しの無常な言葉でした。

「・・・・俺はそんなことはどーでもいい。」
「なっ!!そんな事では正義の使者にはなれませんよ!・・・・って、今はそんな事を言っている場合じゃありませんね!!」

 少女は兄と呼んだ若者に背を向けました。どうやら、正義を成すことの方を優先させたようでした。


きらーーーん!!


 一旦言葉を切った少女の瞳が剣呑に光ったのでした!

「貴方たち・・・・『悪』ですね!!
 『悪』と見破ったからには亡くなられた姫君に代わり、いいえ!何よりも天に代わって天誅あるのみ!!
 アメリア正義の鉄拳が、悪を砕けと唸りを上げる!
 行きます!アメリア必殺、ツープラトン・パイルドライバー!!(一体どうやったんだ?!)
 とうっ!!」
 少女の気合が頂点に達した時、彼女は踏みしめていた岩を蹴り、彼女の拳が空を切る!かと思われたその時!!!!


「君、何言ってるんだい?僕たちはただ、白雪姫の髪を・・・つまり!
 ヘア・スタイルを好き放題にいじりまわそう

 って言ってただけなんだけどね。」


 フィブリゾの珍しく毒のない言葉のために、少女の闘気が・・・いえ、気そのものが消滅していました。瞬時の内に。
 燃え上がっていたはずの少女、アメリアは、見事、抽象的且つ新鋭芸術的なオフジェと化していたのでした。



「白雪姫があんなに『へあ・すいるた』・・・だっけか?が好きなんてなぁ。・・・ところで、それってウマイのか、ルーク?」
「・・・・はぁぁぁ。相変わらずだよなぁ、ガウリイ。いいか!『ヘア・スタイル』だ!!それにこれは『髪型』のことじゃねぇか!お前だって白雪姫にムチャされただろーが!!」
「いやはや。ガウリイさんたら!しよーがないですねー。はっはっはっ。」

 こんな言わずもがなのボケをかましているのは、ガウリイでしょう。そんな彼にいちいち付合って、つっこむルークや、笑っているゼロスも以外と、面倒見がいいようですね。

「しかし、白雪姫のあれには・・・・ほんとにまいったぜ。なんせ毎日『最低一回は研究!』とかって生贄・・じゃねえ、犠牲者・・・でもねぇ、そ、そう実験台を要求しやがったんだからなぁ。ねぇ、ガーヴ様」
「そーだな。おれなんざ、三つ編みだ、ソバージュだなんだと・・・・」
「・・・・・くっくっくっ・・・くくくくくくくくっ・・・・あーっはっはっはっ!!あれは確かに傑作だったな、ガーヴよ!さすがの私もアレには参った。生まれて初めて笑いすぎて腹が痛くなったほどだからな。」

 ガーヴの哀愁200%な独白に、これまた、グラウシェラーの爆笑500%な追い討ちがバッチリ決まったようです。余りの見事さに剛毅であるばすのガーヴが目に涙を溜めていたのですから。

「でもねぇ・・僕に言わせれば―――グラウシェラー。君だって十分、笑点ネタだったよ。何たって・・・・髪薄いんじゃないかって、人工植毛されてたじゃないか!」

 フィブリゾの衝撃的な言葉が1人を除く6名を貫きました。

「ぎゃはははははははっ!!マジかよー!?じ、人工植毛・・・・・?やっぱ、ジジイじゃねぇか!ガーヴ様、ガーヴ様!!!貴方様は正真正銘、『地毛』なんですから、あんなハゲ親父に十分勝ってるんですよ!!」

 遠慮・配慮・気配りなどからもっとも縁遠いヴァルガーヴの言葉にグラウシェラーの顔色が瞬時にして変わっていました。当然ですね。

「・・・・ヴァルガーヴ・・・き・・貴様・・・それほどバラされたいのか?!!!・・・・・・・・・いいだろう。お前がそーゆー気なら。いいか、皆よく聞け。このヴァルガーヴはな、ガーヴとお揃いだとソーバジュにされた挙句、その角をピンクに染められて水玉リボンまでされてたんだぞ!!」
「あああーーーーっ!やめろっ!てめぇぇぇぇ!!このはげ親父!!」

 ヴァルガーヴは、己の恥部をバラされた怒りを直接グラウシェラーに向けました。けれども、腐っても(?)覇王であるグラウシェラーはやられることもなく軽くいなしていました。

「ほんと、しようがねぇなぁ。魔族ってのは。・・・そーいや、ゼロス、あんたは何されたんだっけ?」
「いやですよ、ルークさん。レディにそんなことを聞くなんて。なんにせよ、それは、ひ・み・つです(はぁと)」

 何やら、血走った雰囲気の中でノホホンとお茶でも飲んでそうな声がします。しかし、その平穏もタダのガラス細工だったようでした。そのヤワな平穏を砕いた者は―――。

「そーはいかんぜ。ゼロス。確かお前は・・・そうそう、その太目の髪で、黒髪だから、とかなんとかで・・・」

 そう、先刻まで目に涙を溜めて、蹲っていたはずのガーヴでした。・・・・何時の間にか、復活していたようです!!

「ああーーっ!や、止めて下さいよっ!」

 とたんにゼロスの世にも珍しい慌てふためいた声が響き渡りました。

「おおっ!どうなんたんだ?!!」
「『リーゼント(ばっちり剃り込み入)』にされてたじゃねぇか!なあ!!」

 傍で聞いていたルークはバラしたガーヴ共々に大爆笑を始めました。さもありなん。
 芝生の上を転げまわっている二人をよそに―――
 ノホホン獣神官ゼロス君は『いいんですよ・・・・別に・・・・この程度のことなんて・・・・・僕は・・・僕は・・・・・ゼラスさまぁぁぁ・・・・えっくえっく・・・・』などと、呟きながら、花壇の片隅で涙していました。

 そして、この果てる事なき闘争(馬鹿騒ぎ)は春風の中、延々と続けられたのでした。



 で!
 結局ロクな出番の無かった正義の使者アメリアの兄、ゼルガディスはと言うと、この馬鹿馬鹿しい光景に―――

「・・・くだらん。」

 そう一言呟くと、深く深く嘆息し、そして―――ここに現れた時、一瞬で心に決めていた事を実行したのです。
 そう、麗しき、かの白雪姫の傍らに立つと彼女の唇と己のそれとを触れ合わせ、なんと!姫君を黄泉の世界から引き戻したのでした―――
 しかし、彼はなぜいきなりそんな事(チューです、チュー)をしたのか・・・彼は白雪姫に一目ぼれしていたのです。


 そうして、姫君にゾッコンの青年と白雪姫は、見事、童話のカップルにおなり遊ばしたのでした。





後日談。
 この7人の小人たちの、醜く浅ましき闘争は、この後、彼らの力尽き果てるまで続いたと言われ、暇を囲っていた近所の住人達のイイ暇つぶしになったそうです。

 
 尚、この後日談は、唯一の見届け人兼証人として、彼の7人の小人の一人、ガウリイ・ガブリエフ氏に多大なるご協力をいただきました。この場を借りまして心より御礼申し上げます。

【完!!】(2007.2.22改稿)


本当に、一言。

このお馬鹿劇場は、某図書館館主様に捧げます!