「あーー。ほんっと綺麗ねぇ・・・・・・」
今日は月も新月の所為か夜空の星も降ってきそうなくらい綺麗に瞬いている。
今あたしは、何をしてるかっていうと・・・・ぼけっと呟いた通り、ぼーっと夜空を眺めているのである。
今日は或る地方の言い伝えによると織姫と彦星と言われる星があって、念に一度7月7日の今夜にだけ会えるとゆーのである。あたしから見ればなんとも気の長い話である。あたしだったらんなもん、無視して会いたい時に飛んで行くとこだけど・・・・。まあ、そこはそれ言い伝えだから仕方ないか。
「しっかし、遅いわね〜〜。どうしたんだろ?」
もう、かなりの時間この場所で星を眺めているにもかかわらず、あたしの待っている人の気配は欠片もしないのだ。夕食を終えてからかなりの時間が過ぎていた。
そう、あたしは、ここで或る人と待ち合わせをしていたのだ。初めて出会った時、すでにあたしの中に住みついた人。
でも、お互い別の道を歩まなくてはいけない・・・ことはわかってたのに、それでも、二人とも我慢できなくて別れの日に思いを通わせた。
ここはその想い出の場所。それからは毎年必ずこの日この場所で会う約束をして、破った事も、破られた事もなかった。そして、時間に遅れる事もなかったのだ。二人共に。なのに今年は・・・・・・・・。
以前はなんやかやと事件やらが頻繁に起こってそれに、彼も絡んできていたからずっと傍にいられたし、居てくれた。だから、寂しいと感じるいとまも無かったけど、こうして穏やかな日々が続いていると――――別れて過ごしているのがたまらなく切なくなる。
一体何時になれば二人一緒にいられるようになるのか。
彼が元の姿に戻ってあたしの前に立ってくれる事を信じてはいるけど・・・・・・今は会いたくて仕方ない。
なにより声が聞きたい。あの鋼のように冷たい声で呼んで欲しい、あたしの名前を。以前のように優しく、背筋をぞくぞくさせてほしい。
いつもならこんなことを思ってベッドで何度も寝返りを打っているところだけど、今日は違う。そう、今日はようやく、その願いが叶う特別な日だから。七夕の織姫と彦星のように1年に一度の・・・・・・のはずなのだが。実際は待ちぼうけをくらっているのだ。
ほんとにあたしは、待つってのが苦手だ。今まで一度もこんなに待ったことが無かった所為かほんと、ロクな考えが浮かばない。
「・・・・・約束忘れてんじゃないでしょうね・・・・・もしかして・・・こんな約束、嫌になったとか・・ま、まさかね・・・・・・・・・あっ!!も、もしかして・・・何処かで妙なことに巻き込まれてるんじゃ・・・・?」
とたんに、考えたくもないビジョンが脳裏を掠めていく。血の海に沈んでいくあの人。徐々に消えていく鼓動。弱々しい息・・・・・・・・そして、消え入りそうな声音であたしを呼ぶ。あたしの知らないところで、消えて行く―――。
「いやっ!!!いやいや、いやよっ!そんなのっ!!・・・・・・・・・ば、馬鹿ね、あ、あたしったら何考えてんのよ。そんなこと、ゼルに限ってあるわけないじゃない!あたしに断りもなくそんなこと・・・・するわけ・・・・ない・・・・・。」
そんなことを考える自分が厭わしくて、脳裏に浮かぶビジョンを消してしまおうと、激しく頭を振った。その拍子に透明な雫が飛び散った。
どうやら、あたしは柄にもなく泣いていたようだ。ほんと・・・・らしくない。その時!
「何が嫌なんだ?」
あたしの体に電撃が走る。この声。この人を弾く冷たい声。あたしが聞きたかった・・・・・声。
「俺がリナに断りも無く何をしたって?」
ゼルの声には普段と違って楽しげなものが含まれている。そして、ゆっくりとあたしの方へ近づいてくる。そして、あたしのすぐ後ろで足音が止まる。
「リナ、どうした?」
あたしがずっとだんまりを決め込んでいた所為だろう、ゼルは少し怪訝そうな声であたしを呼んでいる。
あたしを呼ぶこの声、夢じゃない。そう感じたとたんあたしは振り向くなりゼルに抱きついていた。
「!!・・・・・お、おい、リナ?」
ゼルは嫌がるだろうけど、彼の固い肌の感触がようやくあたしに今が現実だと実感させてくれた。我知らずゼルに廻した腕に力が篭っていた。
しばらくして、頭上からゼルが軽く溜息をつく。
そして、いまだにしがみついているあたしの体に腕を廻し、優しく抱きしめてくれた。ゼルはあたしの髪を撫でながら、吐息のような声であたしを呼ぶ。
「・・・・・・リナ。」
あたしは、ゼルの声が嬉しくて、不覚にもまた涙が零れた。でも、泣いている事を知られたくなくて顔を見られないように彼の胸に顔を、体ごと押し付ける。
「リナ。」
ゼルはあたしが泣いているのを感じ取ったのだろう、しがみつくあたしを今度は強く抱きしめる。
「リナ・・・・・リナ・・・・・・。」
そして、ゼルはあたしの体が千切れるのでは、と思えるくらい強く抱きしめてあたしを呼び続けた。
そう、あたしは名を呼ばれたかったのだ。他の誰でもないこの男に。
だから、あたしも呼ぼう―――『ゼルガディス』、と。
なにものにもかえがたい大切な人を。
完。
はははは・・・・・・・・・・(乾いた笑い)
七夕用にと思ってたんですが、七夕さんはどこかに行ってしまわれた後でした。
世の中ままならんことばかりです。
もっとちゃっちゃとできればええのに。
三下管理人 きょん太拝