空にはぽつりぽつりと羊雲が浮かんでいる。明るい日差しが目を刺激している。そんな別段なんの変哲もない昼下がりである。
さて、我らがリナ=インバース殿ご一行は?
「ねえ、ゼル。」
「なんだ?」
どうやら、昼食を終えた直後のようである。
ゼルガディスとリナは食後の香茶を楽しんでいた。残るアメリアとガウリイはそれさえもすでに終えてしまったのかこの場にはいなかった。
リナは、カップに残っていた香茶を一息に飲み干すとひたとゼルガディスを見つめた。まるで何か決意したよな強い意思が目に宿っている。たまたま視線があったゼルガディスはその目の光にゾクリと身を震わせた。
彼は思考する。
―――真昼間からこんな目をしているリナの傍にいて何かイイコトがあっただろうか―――
と。
僅か逡巡した後ゼルガディスの出した結論は
―――否。
だが、それとほぼ同時にリナが、意を決したように唇を開いていた。
「ゼルのちっちゃい頃って・・・・・どんなだったの?」
一体リナは何を考えているのだ?自分の幼少の頃がなんだというのか?ゼルガディスの頭の中はひたすらクエスチョンマークで埋め尽くされる。
リナの妙に深刻な口調に少したじろぎながらも、ゼルガディスは務めて冷静に答えていた。なぜこんなにもリナの言葉に動揺・・・いや怖気を感じなければならないのか、自分でも理解できなかったのだが。
もしかすると、彼は本能で感じ取っていたからかもしれない。この後、彼の身に降りかかる(彼にとって)世にもおぞましい大災厄を。
「どんなって・・・・・そりゃ、ガキだったさ。」
「そーゆー意味じゃなくて!すっごく可愛かったとか、ころころ太ってたとか、悪ガキだったとか・・・・具体的な事が知りたいのよ!」
ゼルガディスの普段通りの無愛想な返事に、リナは憤慨している。彼女の性格なら、さもあろう。
だが、ゼルガディスの返事は一般的な男性の返答だと思われるのだが・・・・まあ、ここでは深く触れないこととさせていただく。
「あのなぁ・・・・」
「ねえねえ。教えてよ!」
「・・・・・・・・・」
「ねぇったら!!」
リナの好奇心剥き出しの表情を見ないようにしていたゼルガディス。うわべは冷静。だが、内心は冷汗タラタラのようだ。その妙に泳いでいる目がそれを物語っている。
あくまで答えず、自分が諦めるのを待っている様子のゼルガディスに、リナは正面からの力押しから、別の手段に切り換える事にした。それ即ち・・・・・
「ダメ?・・・・昔の事思い出すのそんなにいやなの?」
リナは瞳を潤ませながらゼルガディスに擦り寄っていく。両手は祈るように胸の前で揉み絞るように組んで、細身の体をしゃなりしゃなりと近寄らせていく・・・。
どうやら泣き落とし作戦のようである。擦り寄られているゼルガディスはさすがに焦りを隠しきれずおよび腰になっている。
少しずつジリジリと後ずさるゼルガディス。彼の頬が少々朱に染まっているのが可愛らしさを醸し出していた。
そこへ更にリナが【お願い(笑)】と共に擦り寄っていく。
「ダ、ダダ・・・・ダメじゃあないんだが・・・・お、おい、リナっ!・・・・・・・そ、そそそ、そんなにくっつくな!」
「ダメぢゃないならいいじゃない!ねえねえねえねえねえったらぁぁ!」
とうとうゼルガディスの胸にスリスリしながらその大粒の瞳を潤ませるリナ。その濡れた瞳が大写しでゼルガディスに迫ってくる。彼の胸中には大量の冷汗が流れ落ちていた。現実であれば確実に脱水症状でぶっ倒れていただろう。だが、あくまでも精神だけに止めているのだろう。さすがと言おうか、その顔や体には現れてはいない。
だが――――人間誰しも限界というものが存在する。
戦闘や拷問など無骨系統の手管や、忍耐力は商売柄(?)抜きん出ていようと、いや、それ故にこそ、こんなシュチュエーション用対策マニュアルや忍耐の塔は分厚くも高くもなかったと言える。
で、結局のところ、この状態から先に限界ラインを突破したのは、クールを旨とするゼルガディスだった。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ、うるさい!!」
ゼルガディスはリナを引き剥がすと背を向け脱兎の如く逃げようとする。その背に掛かるリナの声を振り払いながら。
「あっ!逃げるなっ、待ちなさい、ゼルッ!」
リナの声と手が逃げようとするゼルガディスの背にタッチの差でかかろうかという時だった。
不意に横手からのほほ〜〜んとした声が割り込んでくる。
「リ〜〜〜ナさん♪そーゆーことは話なんかより、実物を見たほうが早いと思いますけど?」
のんびりした声とは裏腹に不吉の象徴そのものと言える黒の獣神官が椅子に座っていた。一体何時の間に現れたのやら。
見れば、二人の動きはピタリと止まり、首だけがゼロスに向いている。
「「ゼロスッ?!」」
ゼルガディスとリナ二人の驚愕が重なっていた。当のゼロスはそんな二人の驚く様子を楽しげに眺めている。
その右手には一口大に切り取られたケーキ付のフォークが握られ、左手には特大いちごショートの乗っかったお皿を手にしている。・・・・・何時の間にオーダーされたのだ、獣神官殿?
「貴様、何しに来た!」
仲良し四人組みの中で1番毛嫌いしているだけはある。
ゼルガディスの目は嫌悪感で塗りつぶされていた。が、ゼロスはおなじみのニコちゃん顔のまま話し出す。当然、その間もきっちりケーキの体積は減っていっている。
獣神官殿にとって、廻りの視線など柳に風といった体であるようだ。いや、毛嫌いされている事自体、負の感情としておやつ代わりにしているのかもしれない。
「いやぁ〜〜、むぐむぐ・・・・・たまたま通りかかったら、ゼルガディスさんとリナさん・・・・・・もぐもぐ、ゴックン・・・・の面白そうな会話が耳に入りまして・・・・ご馳走様でした、ここのシェフはイイ仕事しますね。・・・・・・と、言う事で・・・リナさん?」
ゼロスのスマイルが更に深くなる。妖気を放っていると言っても過言ではなかった。不意にその笑みを向けられたリナは言葉に詰ってしまったようだ。しかし、この後、ゼロスの言葉に爆発することになるのだ。
「な、なな、何よ?」
「そーゆーことでしたら、さっきも言いましたけど・・・・四の五の言わずに、実物見たほうが手っ取り早いんじゃないですか?」
「!・・・・ゼロス〜〜、んな馬鹿げたこと言うんじゃないわよ!!できるわきゃないでしょーーがっ!!今すぐここでコピーでも作れるならまだしも。それとも何?あんたは出来る!とでも言う訳?」
目じりを吊り上げ怒声を上げるリナ。その隣にはバカを言うなといわんばかりのゼルガディス。
しかし、当のゼロスは何気なく返事をしていた。さらりとかわしてのけたのだ。・・・いや、かわしたというのは正確ではないだろう。なぜなら、
「ええ、もちろん(はぁと)」
「は?」
「へっ?」
ゼロスは誤魔化しでもなんでもないという口調だった。ちなみにその表情に浮かべた笑顔は何時も以上に満点、ついでに言えば自信も更に満点といったふうだ。
そのゼロスの返事に二人は馬鹿のようにあんぐりと口を開けている。
ゼルガディスとリナが一時的とはいえ、理解不能に陥ってしまったのも無理は無い。
常識で考えて欲しい。
そんな『○ルモちゃんの飴玉(ネタが化石・・・・)』のようなご都合主義的アイテムでもない限り、そんな寝言のようなことを即座に実行!など通常の人間にできるはずがないのだ。(・・・・しかし、この話事態がご都合主義の塊であるので断言しきれないところが哀しい。/爆)それが例え魔法の発達したこの内界であろうとも。
「あの〜〜〜、もしもし?お二方、僕の話を聞いてます?」
「聞いてるも何も・・・・・・それほんと?」
ゼルガディスとリナのあまりに長い放心状態に号を煮やしたのか、それとも寂しくなった(んなことがあるのだろうか?)のかゼロスが二人の意識を呼び戻す。
その声にリナはようやく思考回路が融解したようだが、瞬時に疑りの眼差しを言葉にしていた。毎度都合よく利用されている者の習性、いや、学習能力の賜物である。
ゼロスはサワヤカスマイルを解除、リナの突き刺さるような視線を受けながら一変して唇を片方だけググッと引き上げる。見ようによっては悪魔の笑みを浮かべていた。
「嘘ではありませんよ。事実を言ったまでですから(ニヤリ)」
ゼルガディスはその言葉に不穏なものを感じ取り、すぐにその妖気の正体を追求しようとした。が!
「どどど、どーやんのよ!?なんでそんなことが出来んのよ?!ホラホラ、さっさと白状しろーーーーっ!」
「ぐぐぐ、ぐる゛じい゛でずよ゛ぉぉぉ゛〜〜〜〜〜リ・・ナさん〜〜〜!」
・・・・・リナの手(行動)の方が早かった。ゼルガディスの口(頭)よりウン千倍・・・・。
「・・・・・ったく、仕様のない。おいリナ、適当にしとけよ。」
結局のところ、ゼルガディスはただ溜息をつくしかできなかった。その彼の脇では、ゼロスがリナに『郷里のねーちゃん直伝ネック・ハンギング』で絞り上げられていた。
しかし!
何が何でも、どんな手段を使っても、ゼルガディスはこの場の主導権を確保すべきだったのだ。『冷酷な魔剣士』のプライドにかけて。
彼にとって、この時が、後述される悲運への分かれ目だったのだから。
また続く・・・・(TT)
時間掛かりすぎ・・・・・
ああもう、申し開きは一切できません。お約束の日からかれこれ一月は経とうと言う時にようやくなどと・・・・。
おまけに続く、かいっ!!?すみません〜〜〜(TT)
一体何処ら辺がショートであるのか!!単語の意味がわかってないですね。私。
ということで、いつもいつも素晴らしい作品をご投稿いただいている浅島美悠様へお誕生日プレゼントとして捧げます。
三下管理人 きょん太拝