ドール
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「・・・・・思い出しているのか?」

 俺の方に向く彼女。
 彼女の髪が深紅に染まっている。髪だけではない、同色の瞳も、白い肌も小さな唇も、何もかもが・・・・赤かった。だが、その赤は澄んだものではない。どす黒い血を思わせる。
 丁度今が、夕暮れ刻だからだろう。夜と昼の境界線。空が血を流す一時。
 薄黒い赤。その赤一色の彼女はそれでも美しかった。以前から思っていた。この一瞬はまるで彼女の為の時間だと。例え、それが魔の色と言われていようと、その色にさえ、彼女は愛されているのだ。
 そんな彼女と相対していると再確認させられてしまう。俺は彼女という魔物に出会っているのだと。それ故、俺にとって今この時こそが、逢魔が刻なのだ。
 だが、今の彼女は以前のような美しさを感じさせてはくれなかった。彼女の彼女たる所以が失われていた。命が。その焔が――――まるでぎごちなく動くからくり人形のようだ。

「・・・・・何の事?」

 彼女は俺の方を向き、呟いた。俺は彼女の視線をまともに受ける事になる。やはり・・・・以前のような強さは無い。俺は彼女に視線を返した。返し続けた。しばらく、俺と彼女二人の視線が絡み合っていた。普段ならそう長く彼女の視線を受け続ける事はできなかったが、今は違う。数瞬の後、驚いた事に彼女の方が目を逸らし・・・・顔までそむけていた。

「・・・・・・ふぅ・・・・・やっぱり・・・ばれてたみたいね。貴方には。」

 そう言ってぼんやりと朱に目をやる彼女。その小さな肩が僅かに震えた。なんという弱々しさか。以前はその瞳を、ぬらりと底光りさせていたものだが、目の前のそれには、どんよりとした空の色が映っている、目は口ほどに物を言うとはこのことだ。
 こんな彼女は俺の望むものではない。俺を虜にした深紅の魔物では――ない。

「当たり前だ・・・・と言いたいところだが、それだけ表に出ていれば誰でも分かるぞ。」

 俺の言葉に彼女は苦笑する。自嘲したのかもしれないが。聡明な彼女のことだ、思い悩んでいてもどうしようもない事だとわかっているはず。だがそれでも止められないのだ。その激しさ故に。

「ヒーローかぶれのお姫様も随分心配していたぞ。」

 まだ、彼女の表情は変わらない。どこか傷ついたような表情。いや、今も傷つけているかのような表情。そんな彼女に俺は、『ああ、どうすれば以前のような深紅の魔物に戻るのか?なぜそんなにも囚われてしまったのか?』と、彼女に問い詰めそうだった。その次の瞬間だった。俺は無意識のうちに口を開いていた。

「あんたは・・・・独りじゃない。だから・・・・もう・・・。」

 俺は言ったすぐ後、呆然としていた。『・・・もう・・』その後一体何を言おうとしたのか。俺は無意識の内に口に手を当てていた。馬鹿な言葉を吐かないためだったのか。だが、当の彼女は俺の動揺など気づきもせず、ぼんやりと俺を見て言った。その口の端に微かに笑みを貼りつけて。儚げな笑みを。

「もう少しだけ・・・もう少しだけだから・・・・」

 呆然としていた俺を彼女の笑みが愕然とさせる。彼女がこんな表情をするとは。これならまださっきまでのからくり人形の方が千倍ましだ。虚ろな笑みなど無いも同じだ。俺はただ元に戻って欲しいだけなのに。望みはこれだけだ。これ以上を望んでいたとしても。今は。
 その憤りに似た感情は、俺に拳を固く握り締めさせていた。あまりの力のつよさに拳が震えるほどに。そうでもしなければ俺は己の衝動を彼女に叩きつけていたろう。だが、俺が懊悩している間も彼女は笑い続けていた。
 俺を見て、そして見ようともせず。そんな彼女を俺も又、ただ見ているだけだった。おそらくそのあたりからだったと思う。何かが崩れはじめたのは。





 いつしか、風がさらりと流れ始めていた。夕闇が迫り、朱の空は薄墨色に染まり出している。徐々に消えていく赤。彼女の精神に同調しているかのような変化。ただ暗いより性質の悪い薄墨色の孤独へとひた走っている。まるで少し前の俺だ。
 俺は彼女の心に包まれながら、呟いた。

「キリがないだろう、それじゃ・・・・・・・

 堪らなかった。ここに立っているだけだというのに、まるで昔の薄闇に引き摺り込まれてしまうかのようだった。しかし、俺はそんなことなど御免だ。一人ではない現在をしってしまったから。本当のところ、さっさと逃げていってしまいたかった。だが、彼女をほったらかしにして行く事など出来ない。
 少しずつ迫りくる夕闇と共に彼女が俺を飲み込もうとしている―――なんと、恐ろしい・・・。

・・・・俺では駄目か?・・・・あいつ以上にはなれないか?!」

 闇への恐怖が俺の禁忌の扉を開いた。そう、俺が彼女に初めて出会った時に立てた誓約を破らせた。気づいた時、彼女を抱き、その髪に口付けて、俺はそう言っていた。触れるだけでなく口にしてしまった。俺の欲望を。だが、彼女からの反応は無く、力無くただされるがままだった。
 一体どんな顔をしているのか?身じろぎ一つしない体からは何も分かりはしない。ああ、この硬いだけの腕では成す術もないのか?全ては無駄な掻きでしかないのか?
 彼女の温かい体が・・・・・・どうしようもなく俺を苛立たせた。そうして、苛立ちは焦りを呼び、焦りが俺をがんじがらめにする。動けない俺のまわりでは、焦燥が時間と理性を食い潰していった。


 とうとう、俺のたがも外れたのか、俺は彼女に囁いていた。「俺が傍にいる。」と。そして、更に強い力で彼女を抱きしめた。彼女の応えはなかった。どころか意思が感じられなかった・・・・ああ、そうか、彼女は肉人形になっていたのだ。あいつが逝ってから。俺は嫌でもそう悟らされてしまった。その時の俺の気持ちはなんと言えばいえばいいのか。溺れるように思いつづけている彼女への苛立ち?それとも彼女も道連れにしてしまった奴への憎悪?嫉妬?ただ足掻くだけの自分への侮蔑か?・・・・・いや、俺はただ悔いているだけだ。彼女の心を手に出来なかったことを。だが・・・。

 俺は、片手で人形を抱き、もう片方の手で艶やかな髪を握って下に引く。軽く引いただけだったが、すぐに彼女の顔は上向いた。大粒の瞳と僅かに開いた唇が目につく。のけぞっているような喉が微かに脈打っている。
 この脈が器の『生』を約束してくれるように共に、『精』をも約してくれれば。そう思う反面、今の彼女に満足してもいた。この肉人形に。
 そう、人形なら・・・・・簡単に手に入るだろう、今すぐにでも。他の誰の目にも触れさせず、大切に宝箱の中にしまい込んで。俺だけを見つめ、俺だけを待ち続ける。俺がいなければ死んでしまう俺だけの。空恐ろしいほどの独占欲を満足させる思考に、俺は眩暈を覚えた。なんという至福だろうか。だが、これは鬼の至福だ。人のそれではない。
 俺には分かっている。この先1歩を踏み出せばあっという間に破滅がやって来る事を。だがそれでも・・・・。

 俺にとっては人形のあんたで十分だ。俺の外見は石人形だからな、丁度いい。人形は魔物の玩具だが、互いが人形なら・・・虚ろなモノ同士で似合いだろう。
 あんたが望むなら、うわべだけ綺麗に盛りつけた台詞を、煌びやかな贈り物と共に送ろう。実など無くともそれで十分だろう?あんたの虚ろに似合うだろう。人形のあんたに望みがあるとは思えんがな。

 薄闇に背を押されたか、俺の歪んだ思考は際限無く膨れ上がっていく。もう、止める事は出来なくなっていた。奴が彼女を手に入れた時言ったであろう言葉を口にする。

「俺が壊れる時・・・・・あんたも連れて行く。置いて逝きはせん。だから・・・・・。」

 重なる影が揺らいだ。すでに闇の帳が下りていた――――。



 もう、あんたは俺のモノだからな。地獄の底だろうと連れて行くさ。
  
(完)


どーでもいいコメント。

蜃さん♪
いつもいつもありがとうございますっっっ
そして、いつもらぶら〜〜ぶなお作品を書いて下さってありがとうございますm(__)m
これからも、ラブラブ甘甘なお作品で私の脳を溶かしてやって下さいねvv
・・・・いえその・・・ココ最近甘甘に、ラブラブとは縁遠い生活だったもので(笑)。

三下管理人 きょん太拝