「大丈夫か?」
「そう見える?この状態が?」
「すまん。」
「べ、別に謝らなくてもいいわよ。あたしもボケてたんだから。」
あたしの言葉にゼルは『すまん』と呟いていた。ほんっと変に生真面目なんだから。ゼルの所為じゃないってのに・・・・。
今、あたしとゼルしかいない。
ガウリイとアメリアの二人はどこにいるのかさえ分からない。
受けた仕事の最中、ちょっとしたアクシデントで、見事二手に分かれてしまった上に、あたしとゼルは二人してこの森・・・と言うより樹海で迷子になってしまったから。
合流しようとゼルと二人で1日この樹海を歩き回ったけど、結局二人を見つける事は出来なかった。大地の力が強すぎて磁石の磁針が定まらなかったんだから仕方ない。
くくぅぅぅっ!こんなことなら、ガウリイの頭に探査できような魔法でもかけとくんだったっ!―――とかなんとか、している内に日も暮れてきた。
おかげで携帯用の不味くて、貧相で、ちょっぴししかないご飯しか食べられないわ、お風呂に入ってリラックスできないわ(花の乙女の日課よ、日課!)、この薄ら寒い時期に野宿しないといけないわなんて、もう腹が立つったらないわよっ!!!
「あーあ、単なる荷物運びの暢気な仕事のはずだったのに。
あ〜んなところで大量のレッサー・デーモンが涌いて出るなんて。
・・・・・こんなことになると分かってれば、安全牌を確保しといたのに・・。」
不本意極まりない現状についつい、愚痴が口をついて出る。
そんなあたしをゼルは鼻で笑った。変な欲目を出すからだ、と。
「素直に安全牌を選んで、近道なんざしなけりゃよかったのを、あんたが・・・。」
「わーかってるわよっ!
でもね、1日早けりゃ金貨10枚の上乗せしてくれるってのよ?!
安全牌なら1週間×一人1日金貨20枚×4人=560枚!!
これだけでもボロいけど、それを更に上乗せよ、う・わ・の・せっ!!
こんな美味しい仕事ないでしょ?
近道して当然じゃない!!」
あたしは自分の主張が正しいのだ!と力一杯主張すると、ゼルは困ったように少し苦笑していた。
「・・まあな。
俺も反対しなかった・・・と言うよりする理由もなかった。
だから、同類だな。」
「わかってるならいいのよ。」
あたしは憮然と言葉を放つと、ゼルは軽く吐息を漏らしていた。
そして、それっきり二人して何を言うでも無く、焚き火のはぜる音を聞いていた。
徐々に暗い夜が降り始めていた―――。
「・・・・ックシュンッ!!」
自分のくしゃみで目が醒めた。
どうやらあたしは何時の間にか眠ってたらしい。
どれくらい眠っていたんだろう?
あたしは、目の前に焚き火があるにも関わらず、周囲を取り巻く夜気の冷たさに少々驚いた。
「大丈夫か?」
「そう見える?この状態が?」
「すまん。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
???
奇妙な偶然・・よね。
少し前に交わした会話を繰り返すなんて。まるで夢を巻き戻ししているような感覚だった。
この現象にあたしは次に何を言えば良いのかわからなくて、つい口篭もってしまった。
なぜだろう?
ガウリイや、アメリアだったらこんな些細な事に気づくことはなかっただろうに。
相手がゼルだからだろうか?
ゼルはこう見えても、あたしたちの中では結構繊細な部類に入るもんねぇ・・あたし、それに同調でもしたんだろうか・・・・?
・・・って、同調?
そんなこと、あるわけない!
あたしそんな能力ないわよ?
「どうした、リナ?
飢えて力尽きたか?(笑)」
どうやら、あたしはしばらく考え込んでいたらしい。ゼルの声で思考の海から浮上した。
・・ってちょっと待て!!
飢えたってどーゆーことよっっ!!
あたしは、ゼルに食ってかかると、彼は唇の端で軽く笑った。
「今の食糧事情と、やけに大人しいあんたの状態から考えれば至極妥当な意見だと思うが?」
なぁぁぁぁぁぁんですってぇぇぇっ!!
どこがどう妥当なのよっっ!
花の乙女になんつー言い草よっ!!
声を喉で殺して笑うゼルへあたしはつい、反射的に返していた。
「!!ち、違うわよっっ!」
「ほぉ〜〜〜?
じゃあ他に何があるんだ?」
「っう!!そ、それは・・」
「何なんだ?( ̄ー ̄)」
ゼルの突っ込みに何の準備もなかったあたしは言葉を詰らせていた。
だ・け・ど!!
ここで負けたらインバースの名折れ!!・・・じゃなくて!ここへきてようやくこの大元の原因を思い出した。それは・・・、
「寒いからよっっ!!!」
「寒い・・・・・・・?」
「そーよっっ!」
あたしの言葉に、ゼルはようやく腑に落ちたようで「そう言われれば冷え込んでるな・・」とこともなげに呟いた。
そう言われれば・・・って、ゼル、あんた・・・冷気系の神経ちゃんとあるんでしょうね?
こんな風にゼルは淡々としてるけど、はっきり言ってここは冷え込んでるなんてのを通りすぎてる!!とあたしは思う。
焚き火を前に座ってるのにあたしの息は白くなってるくらいなのよっ!
雪が降ってないだけまだマシなんだろうけど、それでも寒いものは寒い。
あたし、寒いのはすっごーーく苦手なのよ!
そんなやり取りをしている端から、更に冷え込んできた夜気から逃れたい一身であたしは焚き火へにじり寄る。と、
―――バサッ・・・
いきなり冷気が遮断された。今あるのはふわりとあたしを包む温かい空気。そして、一面の白。まるで雲に包まれているみたい・・・。
あたしは、1日森をさ迷った疲れと、眠っていた間にかなり体を冷やしていた所為だろう、震えていた体にとってそれは心地よい温かさだった。
だから、ついついあたしは寒さから逃れたくて、無意識の内にそこへ身を埋めてしまった。なんの躊躇いもなく。ほんのりとした温かさが恋しくて、嬉しくて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
って、ちょっと待て!
あ、あんまり気持ちいいから忘れてたけど・・・・
この周囲の白って・・・白いって・・・・・!?
あたしは恐る恐る埋めていた顔をあげた。
「ん?どうした?寒いんじゃないのか?」
そこには、いつもと変わらない仏頂面な表情のゼルがいた。でも、硬い表情とは反対に震えるあたしを優しく包み込んでくれていた。
「どうして?・・こんな・・・。」
「あんたが、あんまり寒そうにしてたからな。
俺の体じゃ暖めるなんて芸当は無理だろうが・・・・夜気を遮る事くらいはできるだろう?」
ゼルはそう言うと軽く微笑んだ。
いつものようなどこか皮肉ったようなものじゃなくて、素直な笑みに見えた。
へーーえ、ニヒルなのや、苦笑い以外の笑い方も知ってたのね――なんて、あたしは変な感心をしていた。
「いつもそーして笑えばいいのに。」
「?」
不意にゼルが不思議な顔をした。
どうやらあたしは今の言葉を口にしてしまったらしい。だが、ゼルの表情からすると何を言ったかまでは聞き取れなかったようだ。
けれどあたしは言葉を繰り返す気は全く無かったから(こっ恥ずかしいじゃない!)軽く首を振った。
そんなあたしにゼルは聞く事はせず、
「もう眠れ。」
そう呟くとあたしを軽く抱き寄せた。
なぜだかあたしはそれに逆らわず、そのまままたゼルの胸に頬を寄せる。
「明日は必ずここから出ないと仕事にならん。
おそらく体力勝負になる・・・・だから、もう眠れ。」
堅く生真面目な感情のないようなゼルの言葉。けれどあたしはとても温かいものを感じていた。
けどねぇ・・普通こんな可愛い娘を腕にしてるんだったら、もうちょっと別な事を言うもんでしょうに・・なんてあたしは妙な事を思っていた。
―――まるでゼルに惚れられたいみたいね、あたし・・。
あたしは、そんな自分を『そんなはずない・・』と少し笑うとゆっくりゆっくりと目を閉じていった。
こんなのも悪くないと思いながら。
(完)
どーでもいいコメント。
長月さん♪
HP開店おめでとうございますっっ&
リンクありがとうございますっ!&
いつもいつもありがとうございますvvvvv
・・・・・・・・・・って遅すぎだぁぁぁぁぁぁっ!!
ああ・・すみません、すみませんm(__)m
いつもいつも、長月さんのお作品には憩いとなっていただいているというのに、送りつけたシロモノがコレとは・・・(死)
・・・・・どうぞ、見捨てないでやって下さいましね(縋りつきっっ!)
三下管理人 きょん太拝