STARDUST
Vol.1
本当に夜なのか。確かに星も出ているし月も出ている。周囲は結構明るい。だからこうして外に出て、する気にもなるのだが。
それにしても暑い。まるで蒸し焼きにされているような気分になってくる。
夏という季節のせいだけではないだろう――――おそらくは。相手が、リナだから。熱くもなるのだ。外気の暑さと内から湧き上がる熱で、のぼせそうだ。
「……どうした? もう我慢できないか」
しかし内心はおくびにも出さず問い掛けた。相手はキッとこちらを睨み返してくる。その顔はアツさの為か、はたまた羞恥の為か、あるいは怒りでか。真っ赤に染まっている。
どうにも加虐心を駆り立てられる表情。この表情が見たくて、わざと相手が怒るような言葉を選んでしまう。
深夜――とまではいかないにしても、それなりに遅い時間だ。辺りには人っ子一人いない。無論、誰も来ないような場所を選んだのだが。
リナとの時間を邪魔されたくない。
という訳で選んだ場所は、村のはずれ。それなりに開けている所だが、近くには木々が立ち並んでいる。林があるのだ。ここでなら、多少騒いでも、宿にまでは聞こえない筈だ。民家も遠い。
周りが静か故に、互いの息遣いまで感じられる。
「だれが……っ」
強気な言葉と裏腹に、ぱたぱたと汗が地面に落ちる。足もがくがくと震えている。呼吸も荒い。上下する肩が彼女の披露度を教えていた。
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「なら、まだイけるな」
ふと、彼女の目には自分がどう映っているのか。気になった。
限界近い彼女とは正反対に、自分の顔には汗ひとつ浮かんでいない。涼しげに見えているだろうか。
「……え?」
一瞬、リナの顔から険が抜けた。呆けた表情。だが正気に戻るまで待っているつもりなど微塵もない。
承諾も得ずに動く。
「……ッや、ちょ……いきなり、なんて卑怯……っ」
「何が卑怯だ」
間近に迫る彼女の顔。
「それとも――ガウリイの旦那はもっと優しいか? いちいちお伺いでも立ててるわけか」
「が、がうりいは……っ」
怒りの色が消え、羞恥の色が濃く出る。
今更ながらにむっとする。
「関係、ない、でしょ!」
力の入らない手で俺を必死に押し返そうとしている――――らしい。震えが腕にまで伝わっている。
全く無謀と言うか。合成獣である俺に、力で勝てると本気で思っているのか。
――――試してみるのも一興、だな。
負けた時のリナの顔を見てみたい。やはり屈辱で頬を赤く染めるのだろうか。それでも尚、挑戦的な眼差しをこちらに向けてくるのだろうか。
「――っきゃ」
「関係ない? 俺はそう思わんな」
「……ぜる……っ」
震えるまつげ。きり、と噛み締められた唇に、いったん引くべきかと思い直した。
苛めすぎてすぐにへばられても困る。
これは向こうから持ちかけてきた話だ。本来なら魔道書でも読んでいる筈だった。
こちらは貴重な読書の時間を割いているのだ、少しは楽しませてもらわないと。まあ、読書よりもこちらの方が、遥かに楽しいのは事実だが。
すっと身を引いた。ほっと安堵の息をつくリナ。まだまだ甘い。
「……――え……や、やだっ、ゼル! い、たっ」
傷ついた肌。滴る血に、罪悪感ともっと傷つけたいという欲求が生まれる。
――――ヤバイな……。
「なめてやろうか」
リナの顔にさらに羞恥の色が広がった。
「じょうだんでしょ!?」
「冗談を言っている顔に見えるか」
「みえるわよっ」
「……なら実行に移してやる」
力任せに押す。リナは抵抗するように刹那、押し返してくるが――。
「やだっ、やめ……ぁあっ」
持ち堪えられなかったか、リナは木の棒から手を離した。当然の如く手から離れる。棒はあらぬ方角へすっ飛んでいった。飛んでいったそれを目で追わず、俺自身も持っていた棒をその辺に投げ捨てた。
逃げようとするリナの腕を捕まえる。後退したリナを後ろの木に押し付けた。
至近距離で見つめ合う。
「ぜ……る……?」
リナの瞳に怯えの色を見つけた。
「やっぱりやめだな」
「へ?」
「もう立ってられんだろう」
リナは完全に木に全体重をかけていた。一人で立っていられない証拠だ。
「……う」
反論できないらしく、言葉に詰まってうつむく。
「ごめん」
「別にいいさ。一朝一夕でどうにかなるしろもんでもない。こういうのは毎日の積み重ねが大事なんだ」
「経験者は語るってやつ?」
「ああ。さて、と。宿に戻るとするか。明日また相手してやるから、今日はお開きだな」
「――ん」
素直に頷くリナを抱え上げる。
「ゼルっ!?」
「自力で歩いて戻れないだろう。激しすぎたな」
木の棒は放ったままで歩き出す。
「そーかも……。たかが剣の相手してもらってただけなのに、こんなに疲れるとは思わなかったわ」
「ガウリイとやった時は疲れなかったのか」
「んー……疲れたには疲れたんだけどね。ガウリイってモロに手加減するから。あたしってそんなに剣の実力ないのかしら」
手加減、ね。
実際は気を遣っているだけなのだろう。彼は容赦なくしごく自分と違い、リナがダウンしやしないかと心配でたまらないのだ。それが手加減という形で表に出る。
「……そうでもない。何度かひやりとしたしな。毎日毎日こんな剣の練習をしていたら、あっという間に上達するだろうさ」
「ひやりとした、って最初だけでしょ」
ジト目のリナにあっさり首を縦に振る。
「まあな」
リナには素早さがあるが、体力がない。タフさに欠けるのだ。
「ま、いいわ。ガウリイみたいな人間じゃないヤツと比べたって仕方ないし」
人間じゃないとまで言うか。確かに旦那の剣技には目を見張るが。
「傷は大丈夫か」
「へーきよ。木の棒がかすっただけだから」
剣で相手をするのは危険だ。だからそれなりに太さのある木の棒を、剣の代わりとしていたのだ。
「治癒(リカバリィ)をかけておけよ」
「そーね。かすったの顔だし」
回復呪文を扱えぬ己が情けない。好きなやつの、かすり傷ひとつ治せないとは。今度アメリアにでも教わっておこう。いくらなんでも治癒すら使えないのは戦闘の時、不利だ。
「それにしても、ガウリイみたいな筋肉馬鹿でも風邪を引くのね」
リナと剣の稽古をしていた理由。
ガウリイが熱を出してぶっ倒れたのだ。
「腹でも出して寝てたんだろう」
「……信憑性がすごくあるわ、それ」
無駄話に花を咲かせながら宿への道を辿る。誰にも会わないからか、それとも静かだからか。世界で生きているのは自分たちだけのような錯覚。
空には満天の星が輝いていた。明日も晴れるだろう。
――終。
著者 : 人切 抜刀斎様よりのありがたーーい、あとがき
なーんか尻切れとんぼ。っていうか、「帯に短し、たすきに長し」的な中途半端さ。途中で路線変更してるし(爆)。だから私はギャグが苦手なのよー!(泣) 最初の方、なにも知らないで読むとHシーンに見えるかどうかってのもかなり怪しいし。
久々にゼルリナを書きました。しかもこんな短時間で(書き始めてから大体5時間ずっとパソコンの前に陣取って書いてたんです)。
普段の私なら、ネタを思いついて、いざ書こう、と思うまでに約一週間。それから完結(稿了)させるまでに一ヶ月近くかかるのに。まあネタを思いついたのは一週間くらい前だったりするんですが。
ちょっと解説。前半、リナとゼルの距離が縮まったりしてるのは、木の棒と棒を噛み合わせてギリギリやっているからなんですね。よく戦闘シーンで、剣を十字に噛み合わせて力比べしてることがあるじゃないですか。あれです。
ゼルが「いちいちお伺いでも立てているのか」っていうのは、「いくぞ!」とかわざわざ声をかけて斬りかかったりしているのかって意味です。剣の稽古をしてるんだから、そんな親切なことしないだろ、って。
……解説を入れなきゃわからんとは、何とも情けないものよのぉ。はう。
きょん太さんの小説に触発されて書いたんですが、なんか、足元にも及ばない駄文に成り下がってるわ。触発されたなんて口が裂けても言えやしない。言えないから書く(滅)。どっかでこんなこと書いたよーな気も……。
↑の理由により、まことに勝手ながら、この小説(いや、文章の塊……いやいや駄文……いやいやいや/謎)はきょん太様に捧げさせていただきます。返品超不可☆(死んでこい)
……ご感想、いただけると嬉しいです……。
稿了 平成十二年二月二十二日火曜日
改稿 平成十二年二月二十五日金曜日
お礼の言葉。
まずは、誠に誠に、身に余る恩賞、誠にありがたく、恐悦至極に存じ奉り候。もひょもひょもひょ・・・・・。(馬鹿)
で、ご本人はゴミなどと言われてござるが、当方の糞の役にも立たぬモノとは雲泥の差がござる故、同じ屑ではござらん。
某にしてみれば、お星様から欠片をお恵みいただいた・・・ということから、星屑=STARDUSTと命名致したのでござる。
また、某如きの駄文にお答え頂くとは、すでに何方か(それも複数のように思われる)が書いておられるような駄文でござろうに・・・・いやもう、見事に舞い上がっておりまするぞ!!
しかし、書くお方が違うと見事に雰囲気が変わって良き感じになるでござるな。
これからも、バンバン書いて某に下され。
陳列致す神棚を用意してお待ち申し上げているでござる故。
此れ、某よりの切実なる願いにて何卒お聞き届け下され。
駄文投棄所 三下管理人 きょん太拝