STARDUST
Vol.2

  

 少女の悲鳴が宿の狭い室内に響いていた。
「やっ……いたいっ! もっと優しくしてよ……ッ」
「無理を言うな」  
冷たく答える男の声。少女の方は目じりに涙すら浮かべている。
「――ぁああっ……や、そんなに……」  
びくんっ、と小刻みに震える少女。怯えが表情と言わず、からだ全体に広がっている。
「我慢しろ」
「できな……」  
少女はじたばたとベッドの上で暴れ始める。とうとう我慢の限界に達したらしい。拳が男の腕や胸に当たる。
「おい、暴れるな。もっと痛くなるぞ」
「やだぁ……っ……ぜるのばかあ!」
「馬鹿はないだろう」
「ばかよっ! 大馬鹿っ! もーいいっ、じぶんでやるっ」
「ほう……お前にできるのか」  
いかにも馬鹿にした口調。
「できるわよっ!」
「ならやってみろ。どうせ自分でやったところで痛いって言うに決まっている」
「言わないもん」
「どうだかな」  
衣擦れの音。男と少女の位置が移動したようだ。
「……ぅ……」  
再び少女がしばらくもしないうちに悲鳴を上げた。
「やっぱり痛いんだろう」  
男にそれみろ、と言わんばかりに突っ込まれる。
「自分じゃやり難いんだ、無理をするな。俺に任せておけばすぐ終わる」
「はやくおわらせてよ」  
少女は既に涙声だ。ひっく、としゃくりあげている。可哀想に思ったのか、男の声が柔らかくなる。
「ああ。すぐに終わらせてやるから、暴れるなよ」  
ぎしっ、ぎしっとベッドが軋む。  
そして悲鳴。
「いた……やっぱりヤだぁ……ッ」  

――――あっ、よく見えなくなっちゃった。  カギ穴から覗くのは無理があるわね。でも壁に穴なんてあけられないし……。

「おい、アメリア?」  
ぽん、と肩を叩かれて、声も出ないほど驚く。
「…………!」  
内臓が飛び出るかと思った。動揺を抑えつけ、肩を叩いた人物に食って掛かる。
「びっ、びっくりさせないでください、ガウリイさん! 今いいところなんですからッ」
「いいところって……リナの部屋のドアにへばりついて、なにをやってるんだ。買い出しの荷物、リナに届けるんじゃ なかったのか?」
「え、まあ……。ちょっとゼルガディスさんとリナが……中に入れないことやってるみたいで」
「……。ノゾキか? あんまりいい趣味と言えないぞ」
「どうせならガウリイさんも見てみます?」  
アメリアが体を横にずらす。ガウリイはしばし迷い、まあいいかと呟いてカギ穴を覗きこんだ。
「……なにも見えないぞ? なんか真っ白で」
「え? そんな筈はないですよ、わたしさっきまで見てたんですから」  

――アメリアたちは気付いていなかった。ガウリイが現れてから、部屋の中の悲鳴が途絶えていたのに。

「じゃあ見てみるか?」  
ガウリイがアメリアに場所を譲る。アメリアが再びカギ穴を覗きこんだ、その時。
「ぅっきゃああああッ!」
「おわっ」  
ドアが内側から開いたのだ。二人して部屋の中へと雪崩れ込む。ドアに手を突いてカギ穴を覗いていたアメリアも ドアに寄りかかっていたガウリイも。
「……何をやっとるんだ、二人して」  
ドアを開けた張本人が二人を見下ろしていた。部屋の中にいた男である。少女の方は、というと、ジト目で二人の 乱入者を眺めていたりする。  男――ゼルガディスの普段から冷たい光を宿している瞳。今は二人を凍りつかせるに充分なほどの冷気を含ん でいる。
「え、ええと……あ、あれ? なんで服を着てるんですか、ゼルガディスさん」
「……服を着ていたらまずいことでもあるのか」
「リナも服を着て……って……え? あれ?」
「――ひとつ聞いてもいいかしら」  
少女――リナがアメリアたちの方まで歩いて来る。男と同じような目つきで。
「何やってたの、二人して」
「なに、って……リナたちこそ何をやってたの?」  
床に倒れこんだまま尋ねるアメリア。

ケガの手当てだけど?」

「え?」  
ぽかん、とアメリアはゼルガディスとリナを交互に眺める。
「なにか勘違いしてるんじゃない? アメリアたちが買い出しに行った後、怪我したから手当てしてただけよ?」
「手当て、って……治癒(リカバリィ)使えるじゃない、リナ」
「あの日で魔法使えないの。アメリアたちが帰ってくるの待ってるより、ちょっとでも手当てしといた方がいいでしょ? だからゼルにしてもらってたの」  
よろりら、と立ち上がるガウリイ。アメリアもフラフラしながら立ち上がった。
「なんか知らんが……なんでケガなんかしたんだ? リナ」
「ここの部屋の横に木が植わってるでしょ? 窓を開けといたらタオルが飛んでっちゃったのよ。足がかりになりそう な枝があったから、平気かなって思ったら……」
「運良く俺が下を通りかかったから良かったものの……。そうじゃなかったら捻挫と擦り傷程度じゃすまなかったぞ」
「ごめーん」
「じゃ……じゃあ、痛いとか言ってたのも、悲鳴上げてたのも……」
「消毒してたのよ。枝とかで擦っちゃったから。聞いてよ、ゼルってばわざと消毒液をどばどば綿にかけるのよ!」
「乾いた綿で傷口を擦って欲しかったんならそう言え」
「そうは言ってないでしょ」
「そう言っているようにしか聞こえん」
「もっと優しくしてって言ってるだけじゃない」
「どんなに優しくしても痛いのは変わらん」
「何よ冷たいわね!」
「おまえなあ」  

アメリアは延々と続く痴話ゲンカを聞きながら溜息をついた。
「結局誤解だったわけね……。カギ穴から覗いてた時もなんか変だとは思ってたけど。体位が変だったんじゃなくて 手当てしてたからだったのね。あーあっ、つまらない」  
アメリアの独り言に二人はぴたりと口を閉じた。そしてゆうぅぅっくりとアメリアの方に向き直る。

「ア〜メ〜リ〜ア〜……お嫁にいけないカラダにしてあげましょうか〜……」
「――――……」  
ゼルガディスの方は無言だったが、表情だけで迫力が充分に出ていた。  
アメリアはこの時、死を覚悟したという。合掌。    
ちなみに。とばっちりを恐れたガウリイは、とっとと部屋から逃げ出していた。    

――えんど。

著者 : 人切 抜刀斎様よりのありがたーーい、あとがき

 

 お疲れ様でした。あーもーダメですねー。駄文駄文。駄文って言うか日本語にすらなってない?  アメリアファンの方、お、落ち着いてくだされ(無理?/爆)。ゴメンナサイ……とんでもないセリフを言わせてしま いました……。そのうちこの駄文も闇に還しますので(還してくださいね、きょん太さん)。  そんでもって解説。自分じゃやり難い、ってありますけど、利き腕の消毒のことね。利き腕とか利き手にケガして たら、そりゃー自分じゃあ手当てできないでしょ。まあそーゆー訳なのでした。  それでは読んでくださり、ありがとうございました……。

 


 

おまけ

 

 

 不意にゼルガディスが立ち上がった。
「――どうしたの?」  
彼は無言で人差し指を口の前で立てた。喋るな、のジェスチャーだ。疑問に思いながらも口を閉じた。何かを聞き 取ったのかもしれない。ドアの外に不審人物でもいるとか。  ゼルガディスは足音を立てず、そっとドアの前まで歩いて行く。ご丁寧に自分の気配まで消して。  何か聞こえるのか、と耳をすましてみる。すると――――。

「……買い出しの荷物、リナに届けるんじゃなかったのか?」
「え、まあ……。ちょっとゼルガディスさんとリナが……中に入れないことやってるみたいで」
「……。ノゾキか? あんまりいい趣味と言えないぞ」
「どうせならガウリイさんも見てみます?」  

くぐもった声が扉の向こうから聞こえて来たではないか。この頃にはゼルガディスもドアの前に仁王立ちになって いた。後ろ姿からは彼の表情を伺えないが――恐らく、自分と同じ顔だろう。  
これが誰の声か、なんて顔を確かめないでもわかる。  

――――何を話してるのよッ、二人して!

「……なにも見えないぞ? なんか真っ白で」  
当たり前だ。ゼルが、カギ穴のまん前に立っているのだから。ガウリイは部屋の中ではなく、ゼルガディスの服を 見ているのだ。
「え? そんな筈はないですよ、わたしさっきまで見てたんですから」
「じゃあ見てみるか?」  
アメリアが再びカギ穴を覗きこんだらしい。充分に間を開けたその後。
「ぅっきゃああああッ!」
「おわっ」  
ゼルガディスがドアを開けた。  
部屋の中に飛びこんで来る二人。  
覚悟はいいでしょーね……。
アメリアはまだ知らない。リナの心の声を。この後に訪れる不幸を。
「結局誤解だったわけね……。カギ穴から覗いてた時もなんか変だとは思ってたけど。体位が変だったんじゃなくて 手当てしてたからだったのね。あーあっ、つまらない」
――暗転。                                    ――終われ。   

                     稿了 平成十二年二月二十五日金曜日
                     改稿 平成十二年二月二十七日日曜日

お礼の言葉。

 またもや、やってくれました!!
 ありがとうございます。
 いただきものが何時の間にやらこんなに、いっぺー・・・・・
 私はシアワセモノでございます。

 やはり、今回もばっちりお星様から欠片なお宝ですので、upと相成りました。
 捨てるんなてとんでもないっすよ。
 そして、次回作お待ち申しておりまする。
 すでに、HDのファイルには場所が作ってあるですよ
 ホッホッホ!(馬鹿)


駄文投棄所 三下+イロボケ管理人 きょん太拝