評価 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
|
2001 December | |
12月読了分: −19 「旧約聖書 創世記」 関根正雄(訳) 岩波文庫 青801-1 (−) 定本の聖書は、なかなか読み通せたことがないので、手に取った一冊。このくらいの分量と詳しい注釈付なら、読み通すことができました。 率直な印象は、ユダヤ民族の古事記。 とにかく、神はしょっちゅう人を試しているし、神の命を受けたヒーローは、勝てばいいのだとばかり相手をだまし討ち!という点でも良く似てます。「ご先祖様は偉かったんだ」という爺さんの話しぶりが聞こえてきそうな、ストーリー展開です。私もこれを読むまで、天使が人間の娘と結婚して、巨人が生まれたなんていう話が、一神教の聖書に載っているなんてことは知りませんでした(^^; 巻末の注釈では、聖書を読みにくくしている最大の原因、3っつの原典(ヤハウェ資料、エロヒム資料、祭司資料)を無理に統合した経緯や、他の地中海世界の民族・神話との関わりが解説してあって、大変参考になります。 「聖書物語」は読んだけれど、「聖書」はまだ、という方にはお勧めの一冊です。 −18 「天象儀の星」 秋山完 ソノラマ文庫 902 ![]() 「この天象儀をつくったひとは、博物館の中に本物の星空を呼び出せるように魔法をかけたんです。」 少女が呼び出した漆黒の空に輝くのは、見たこともない七つの燭台をかたどった星座... 切な系ストーリー満載のペリティアワールドの短編集。 −17 「夜陰譚」 菅浩江 光文社 ![]() 他のアンソロジーにも収録されている「和服継承」と「桜湯道成寺」がやはり秀逸。ショートストーリーながら巻末の「美人の湯」も良いです。女の中に潜む闇を描かせたら、やはり菅さんは上手いですね。 それと別テイストながら「雪音」は、理想主義者の悲劇が劇的に描かれてます。こちらもなかなか啓蒙的。 |
|
2001 November | |
11月読了分: −16 「アイ・アム I am」 菅浩江 祥伝社文庫 す6-1 ![]() 「私は何者なの?」そんな問いを抱きながら、ロボットとして病院で看護を努めるヒロイン・ミキ。 生と死が交錯する患者達との交流を続ける内に、しだいに彼女に隠された謎が明らかになっていきます。その謎も、なかなかひねっていて見事。私は誰?という謎解きを縦軸に、人の死を看取るターミナル・ケアを横軸にと繰り広げられるストーリー。切ない、限りある命の物語です。 ただし、最後の数行は、余韻という観点からすれば、明らかな蛇足じゃないですかねえ(^^; −15 「わたしは虚夢を月に聴く」 上遠野浩平 創元推理文庫 547-01 ![]() ![]() 目覚めれば、そこに広がるのは真空に凍りついた月の地平。 音もなく、熱もなく、光が刃のようにぎらつく静寂。 その月の上に立つ少女、黒髪は風のない空に揺れる。 こんな情景が、フラッシュバックのように差し挟まれ、平凡な日常が薄皮一枚でしかなったことに気づく。思い出せない少女の記憶から始まる導入部は、実に秀逸です。確かに、思いっきり「マトリックス」ではあるんですが、独立したショートストーリーの組み合わせが形作るこの世界は、その夢世界ネタがばれた後も、謎と魅力を失いません。 そして、かっこいいのが人類最後の砦、超光速戦闘機・「ナイトウオッチ」! それは敵を切り裂く剣であり、三十七種の攻撃を放つ砲台であり、小惑星であれば殴るだけでこなごなに砕くことのできる―― 「な、超光速戦闘機(ナイトウオッチ)の武装腕(アームドアーム)...」 「あれが― ”星に触れる者”(スタースクレイパー)...」 この戦闘機械が登場するシーンは、まるでゼラズニイの初期短編か、レズニックのサンティアゴです。 何気なく手に取った割には当たりの一作でした。 −14 「かっこ悪くていいじゃない」 森奈津子 祥伝社文庫 も5-1 ![]() ![]() たぶん、このレヴューで取り上げるエリアの作品ではないのですが、と前置きをしておいて。 実に、森奈津子風味の作品です、それもかなりストレート。感動したというファンレターに、森さん自身が、「知らなかった。これって感動する話なのね...」と照れてしまうのも、わかるような気がします。 体の繋がりは、言葉よりも多くのものを伝える、好きになったら寝てどうして悪い。そんな、いつもの森さんのメッセージが、裸のままに伝えってきます。それはまるで、女性作家のファンタシーのヒロインが、自らの血潮の高まりのまま、男達を抱く姿のようです。森を後にし、石の町に住むようになって、我々は、人と人との繋がりに様々に決まりをもうけました。それは必要なことではあったかもしれません、しかし、時にそんな中に、自分自身と求める相手を見失うようです。バイセクシュアルという、セクシュアルマイノリティーである森さんには、そのしがらみがよりはっきりと見えるのでしょう。 森奈津子ファンなら、必読のラブストーリーです。 −06 |
|
2001 October | |
10月読了分: −13 「華胥の幽夢」 小野不由美 講談社文庫 お81-9 ![]() ![]() 「嘘だわ。何もかも嘘。……夢を見せてくれると仰ったのに。」 悲痛な麒麟の少女のつぶやき。 華胥の夢、宝玉でできた桃の枝が見せる理想の国、それを目指し、若き王とその同志達は歩んできた。しかし、たどり着いたこの悲惨な現実は... 「地獄への道は、善意という敷石でできている。」 「いかなる悪も、善意から始まる。」 こんな冷酷な人の世の真実を、悲劇としてあらわし、その何故に迫る表題作「華胥の幽夢」。 十二国の生まれては消える様を、時の風来坊・利広が語る「帰山」。 傑作歴史ファンタシーを揃えた十二国記短編集! −12 「図南の翼」 小野不由美 講談社文庫 お81‐7 ![]() ![]() 王となるべく、12才の少女の身で、妖魔が住む黄海を渡る珠晶、それを護るハードボイルドなボディーガード・頑丘、付き添う謎の風来坊・利広。そんな苦難の旅に、響き渡るヒロインのこのセリフ。 「アンタ、馬鹿あ!!」 失礼しました(^^; どうしても、ヒロイン・珠晶が、赤毛の某アニメキャラとダブってしょうがないのもので。 やたら自己反省癖の強かった、シリーズ前半の主人公達に比べると、この作品のヒロイン・珠晶は実に魅力的です。物語前半では、勝気なお嬢様モード全開の珠晶。彼女の正義感は、冷静なボディーガード・頑丘が下す非情の決断に、時に真正面からぶつかります。しかし彼女は、旅の中に現われる、こんな「人の世の理」を次第に悟っていくのです。 「危機に立ち向かうには、冷酷にも見える自己責任の決断が必要であり、無制限な優しさ哀れみは、共倒れにいたるもたれ合いである。」 このことが、王たる者の務めにも深くつながっていることも。 そして、勝気な言動の奥底にある、彼女の真の願いが現われる時、そのけなげさは、珠晶を実に愛らしく魅力的なヒロインに見せるのです。頑丘のぼやきぶりや、時の風来坊・利広の飄々とした受け答えにも、作者の筆が冴るお勧めの一作です。 −11 「知性化戦争」 デイヴィッド・プリン ハヤカワ文庫SF 872・873 ![]() ![]() 暴走野郎こじまさん激賞の知性化シリーズ。これまではあまりの厚さにびびって読んでいませんでしたが、読み始めたら止まらない止まらない、 ネオ・チンパンジー万歳! で、分厚い上下巻を一気に読んでしまいました。 人類によって知性化されたチンパンジー達が、とにかくかっこいい。リメイク版「猿の惑星」を思いっきり見たくなるような大活躍です。ネオ・チンパンジーのファイベン君かっこよすぎ。人間は完璧に脇役ですね(^^; 世界観も奇抜なアイデアに満ちているわりには、作りこまれていてリアル。 この宇宙は、それぞれの異星種族(主族)達が、見出した動物を知性化して、「類族」という名で自らの勢力に引き込み、覇権争いを繰り広げています。この世界設定は、古代ローマ帝国の「文明化」や「パトローネス(貴族)・クリエンテス(一門の人々)」を換骨奪胎したもので、列強主族の勢力争いなんか、まさにローマ内のパトローネスの主導権争いそのもの。恐らく、そのまま歴史小説にしても十分面白いネタを、SFを使って壮大なヴィジュアルの世界に展開させた、凄いエンターテイメントです。 ストリーカーの謎が明らかになる、次の完結編が楽しみです。 −10 「佐久夜」 中沢新一 静岡新聞社 ![]() 「バナナと石、どちらを選ぶか?」 そう精霊に問われて、バナナを選んだことから、人は死に腐りゆくようになった。 もし、石を選べば永久の生が与えられたのに... この太平洋の島々に暮らす人々の神話は、日本に来て、二人の姫との求婚の神話へと姿を変えました。木花佐久夜毘売(コノハナサクヤビメ)と石長比売(イワナガヒメ)の物語がそれです。 中沢氏は、この物語を、生と死、愛と憎悪という葛藤を描いた戯曲として、現代に蘇えらせました。 木に咲き誇る美しい花のような姫、妹の佐久夜姫のみを娶り、醜い姉の石長姫を親元に返した神の子ニニギノ命。彼はそのことで、その永遠の生を無くしてしまいます。それを呪いと感じた天津神(天皇家の祖先)の子孫達は、その呪いを解こうと、姉妹を含む国津神の一族に迫ります。ですが、果たしてそれは呪いであったのでしょうか。神秘的な終幕のシーンの中に、我々の祖先がこの神話に何を託していたのか、それを感じ取ったような気がします。 |
|
2001 September | |
9月読了分: −09 タルマ&ケスリーシリーズ 「女神の誓い」 マーセデス・ラッキー 創元推理文庫 577-01 ![]() 「裁きの門」 マーセデス・ラッキー 創元推理文庫 577-02 ![]() 「誓いのとき」 マーセデス・ラッキー 創元推理文庫 577-02 ![]() ![]() アマゾンと女魔法使いの組み合わせの表紙で、なんとなく気になっていたシリーズ。今回、リーファンのNataneさんから貸していただいてのを機会に、読みました。いや、実に正統ヒロイック・ファンタシー。一族を皆殺しにされ、女神に誓って復讐の旅に出るアマゾン(タルマ)はいるわ、壮大なエレメンタル魔法合戦を繰り広げる女魔法使い(ケスリー)はいるわで、実にサービス万点。 「でも、少しヒロイン達のカッコ良さ(ヒロイック度)が足りないんじゃない?」と思ったあなた、外伝集である「誓いの時」を読んで下さい。長編よりもさらに10倍くらい(当社比)良いできです。以下収録作品の解説。 「フォルストリーチの春」: 広がる大草原で馬と暮らすヒロイン・タルマの部族、シン=エイ=インの世界が、実に良く描かれています。彼らの生活する息吹が感じ取れる様です。ストーリーもよく練りこまれていてリアルだし、シン=エイ=インの馬への愛が描写一つ一つから感じ取れる傑作。 「炎の翼」: 実にファンタシーらしい短編で、ラストは、名作「サイベルの呼び声」を思わせるような美しいシーン。 「誓いのとき」: 後日談としてタルマ&ケスリー良き母ぶりが描かれて、それだけでシリーズを追ってきた人間にはにんまりなのに、ケスリーの娘・ジャドリーの成長物語というジュブナイルものとしても良いできです。 ということで、ラッキーは作品世界に暮らす人々を、実に愛情込めて描き出すので、世界その物がすごくリアルです。エルリック系の溶けて流れるヴェールが取り巻く異世界ファンタシーとは、ある意味で対極ですね。 ただし、これだけは言っておきたい欠点が一つ、解説は無邪気に書いていましたが、鎖につながれたアマゾンというモチーフと、レイプを組み合わせたら、私は完全に女性蔑視だと思いますよ。 −08 「死者の書」 ジョナサン・キャロル 創元推理文庫 547-01 ![]() 正直なところ、本の最後の数ページまで、私の頭の上にはでっかい「?」がぷかぷかと浮いてました。一体創元の編集者は何を間違えて、こんな軽めの村上春樹ワールドみたいな作品に、「死者の書」なんてタイトルと、まるでクトゥルーものを思わせるような装丁の表紙をつけたんだ??? しかし、最後の最後で、それまでの世界は音をたてて燃えあがります。 丁寧に、丁寧に、何日もかけて作ったジオラマを、一気にガソリンかけて燃やしたようなホラーです(^^; −07 「九年目の魔法」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 創元推理文庫 572-02 ![]() 大人になったアリスの冒険といった感じの実に可愛らしい作品。帯をつけるとしたらこんな感じでしょうか。 「幼い少女の日々、一緒に空想の物語を紡いでくれた男の人、リンさん。しかし、ヒロイン・ポーリィは、その記憶がすっぽりと抜け落ちていることに気付いた。ウサギではなく、失われた記憶を追い求め始めた19才のアリス・ポーリィは、空想の時を共にしたおじさんを見つけることができるのか。」 −06 「魔法飛行」 加納朋子 創元推理文庫 426-02 (−) あえていいます。 ここまで盛り上げといて、そのオチかい!ミステリーなんかだいっ嫌いだぁ!!! すみません。途中、完全にファンタシーだと思っていたもので、最後のストーリー展開について行けませんでした。最初からミステリーだと思っていれば、ほほえましいのかも。 |
|
2001 August | |
8月読了分: −05 「R.P.G.」 宮部みゆき 集英社文庫 み-27-2 ![]() ![]() ![]() 「一人の会社員が殺害された。食品会社に勤め、妻と娘が一人。そんなごく平凡な生活の裏で、彼はネット上にもう一つの家族を持っていた。次々と明るみになるヴァーチャルとリアルの人間関係。迷宮の様に絡み合ったその糸をほぐすべく、捜査本部の武上と石津はある賭けに出る。その結果あらわれた真のアリアドネーの糸とは...」 やられた...その落ちは読めなかったぜベイビー! とにかく、最後の落ちの部分は、爽快感と言っても良いほどのどんでん返しです。まさか、あれがそうして、ああだったとは。最初の1/3で落ちが読めてしまうミステリーに辟易している方。これは買いですぜ。ラストシーンも、「火車」があまりにもそっけなかったのに比べると、十分犯人の心情が表れる余韻に満ちたものになっています。 −04 「人獣細工」 小林泰三 角川文庫 H59−1 ![]() 表題作「人獣細工」は、一つ一つその臓器を豚の臓器に入れかえられていく少女が問いかける、悲痛な叫びの物語。「私はどこにいるの...」。フラッシュバックの様に挿入される、歴史書「史記」の最大のホラー場面「人豚」が、その恐怖を盛り上げます。 −03 「玩具修理者」 小林泰三 角川文庫 H59−1 ![]() 表題作となった「玩具修理者」はかなり怖いです。解体されていく肉体の臭いが充満したところで、怪談王道の恐怖が最後に待ち構えています。もう一作の「酔歩する男」は、実に日本的な量子宇宙論物。 −02 「AΩ」 小林泰三 角川書店 ![]() ![]() 「突然の飛行機事故。原因不明の高高度での爆発により、生存者は0。原形を留めない死体達が安置された体育館の中に、沙織はいた。夫の死を確かめるために。そして彼女は見慣れたマリッジリングをはめた左手を見出した。残りの遺体を捜し続ける沙織は、一体の完全な遺体を目の前にした。その顔は捜し求めた夫の顔!? 手を伸ばして抱き起こした夫の体は、力無く後ろへ崩れ落ちた。希望を打ち砕かれ立ち去ろうとする沙織。しかし、その彼女の腕をつかみ引き留めたのは、死体の冷たい手であった... 絶望的な飛行機事故からただ一人生還した男、諸星隼人。 だがそれは、光と影のそれぞれの一族が繰り広げる宇宙での戦いに、人類が巻き込まれたことを意味した。 地球を舞台にした壮絶な戦いが始まる...」 諸星隼人という名前でおわかりの皆さんには、説明の必要も無いでしょう。 「僕の名前は、そう諸星ダンと呼んで下さい。」 もうお分かりですね(^^) そう、この作品は、リアル版ウルトラマン(シリーズ)です! これだけで引いてしまったあなた、もったいないです。しょうもない映画のノベライゼーションを連想してしまったあなた、違います。あの日本特撮最高峰の一つウルトラシリーズが、ハリウッドのCGを駆使して今に蘇ったと言っても言い過ぎではありません!しかも、あのアメリカンゴジラのように能天気トカゲ大暴れストーリーになるようなこともなく、日本特撮のあの暗さテイストはしっかり残して。 「ウルトラマンは何故変身できるのか?」 「何故3分間しか戦えないのか?」 あの時の疑問の答えの全てが、この作品にはあります。 特撮物に心をときめかせた事があるあなたなら、絶対買いの一冊! |
|
2001 July | |
7月読了分: −01 「語り手の事情」 酒見賢一 文春文庫 さ 34 1 ![]() ![]() 「謎めいたヴィクトリアンハウス、そこには今日も様々な性の妄想を抱いた男達が訪れる。年上の女性からの誘惑、性奴隷の調教、性転換、そして妄想のサッキュバスとの情事。男達がもつ妖しいイマジネーションの世界を、メイド姿の語り手は語る。その語り手の事情にしたがって。19世紀の好色本の形を取って、性にまつわるオムニバスストーリーが展開する。メタフィクションの影で語る語り手に、やがて選択がつきつけられる。その時に語り手が選んだのは...」 どんな小説だと聞かれて、答えるのがとても難しい作品ですね。 じゃあ面白くないのか?いえ、すごく面白いです。 とにかくあの酒見氏の語りが、19世紀の好色本をじつに生き生きと21世紀に蘇らせています。 フィクションの中にフィクションがというメタフィクションじみた設定の中で冷静に語る、語り手。彼女の突き放したような語りが、男の性の妄想に潜む滑稽でいて真摯な部分を、見事に描き出していきます。それだけでも、なかなか知的な面白さがあるのに、物語の後半で、その冷静であるべき語り手が、ある事情に巻き込まれ変貌していく姿は、このヒロインを実に愛らしく見せています。最後まで読まれた方は、酒見氏がこの作品を「恋愛小説だ」と言いきることに、大きくうなずかれるでしょう。 とにかく手にとって読んで見てください。気がつけばあなたも酒見ワールドの虜になっているはずです。 |