長 編  1971〜1979



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ドラゴン探索号の冒険 (1971)
冬物語 (冬物語/1976、アヴィリスの妖杯/1975)
幻魔の虜囚 (1977)
月と太陽の魔道師 (1977)
闇の城 (1978)
闇の公子 〈平たい地球シリーズ T〉 (1978)
死の王 〈平たい地球シリーズ U〉 (1979)
死霊の都 (1979)

ドラゴン探索号の冒険  THE DORAGON HORD (1971)

  マイナス王の双子、ジャスレス王子とグッドネス王女は、17歳の誕生日を迎えた。

  だがその誕生祝いに招待されなかった、双子の遠縁にあたる魔女マリーニャは腹を立て、二人に魔法をかける。 ジャスレス王子は「1日に1時間カラスになる」ようにされてしまい、グッドネス王女は「けたはずれのお人好しに」なってしまった。

  魔法をかけられたグッドネス王女は、王宮にあるものを、どんどん人々に、動物たちに与えてしまう。 これでは国が破産してしまう、とジャスレス王子は国の窮状を救うために、ドラゴン探索号で冒険に乗り出した。


  日本語に翻訳されている作品で一番古いものです。 子供向けのシンプルな物語ですが、様々なエピソードが豊かに語られていく様は、その後に書かれるリーの作品のほとんどに通じるものがあるように感じられます。

  「平たい地球」シリーズにも見ることができる、「アラビアン・ナイト」仕立ての奇想天外な異国の物語は、子供も大人も読んでも楽しめるものでしょう。

  一捻り加えられた悪役たちも、どこかユーモラスで魅力的です。 ただただ、英雄が悪人を懲らしめるだけに終わらない、リー様ならではの物語です。

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冬物語  THE WINTER PLAYERS (1976) /
                 THE COMPANIONS ON THE ROAD (1975)
 ★冬物語★

  17歳の巫女オアイーヴは北の海を見下ろす神殿に住まい、一人その地を守っていた。

  その神殿には代々の巫女だけが見ることができる、3つの聖遺物があった。 1つは指輪、1つは宝石、そしてもう1つは短いほっそりとした骨の欠片。

  だがある時、神殿にやってきた旅の男グレイに、聖遺物を盗まれてしまう。 オアイーヴは聖遺物を取り返すべく、巫女として教えられていた魔法を使い、グレイを追いかけるが・・・。


  長編ではなくて中編ですが、長編に入れさせてもらいました(^^;) 次に紹介する「アヴィリスの妖杯」と一緒に「冬物語」に収録されています。

  若く美しい巫女オアイーヴが、巫女としての義務を果たすべく、謎の男グレイを追うために、使い慣れない魔法でもって、必死に追いかけていく姿は、もうロマンです(笑)

  さらに、ただそれだけで終わらないのがリー様の世界。 決して多いとは言えないページ数の中で、二転三転と読者を心地よく裏切っていってくれます。

  物語の結末では、中編とは思えない、深い感慨がありました〜。 ほ〜(-o-)

 ★アヴィリスの妖杯★

  領主が闇の力と手を結んでいる、と噂されるアヴィリスが陥落した。

  その戦に一部隊の隊長としてアヴィリスに赴いていた、“鷹”の異名をもつ異郷人ハヴォル。 彼は戦で死んだ部下の家族のために、金を必要としていた。 そこに、狐のような盗人カキルが陣営に入り込んでくる。 カキルはすぐに捕らえられるが、命乞いの代償として、アヴィリスの領主が残した黄金の杯の在処をうち明ける。

  ためらいながらも話にのるハヴォル。 欲に目がくらみ、行動を共にする副隊長のフェルース。 3人の男は難なく宝石をちりばめた黄金の杯を手に入れるが、アヴィリスの闇の力が、杯と3人をどこまでも追いかけていく。


  ダーク・ファンタジー。 ホラーと言っても良いかもしれないくらい、じりじりと3人を追いかけてくる、アヴィリスの呪いが不気味です。 夜中、一人でこれを読んでいたんですが、「冬物語」の感慨もどこへやら(^^;)、緊張のあまり硬直して読んでいました。

  それでも、リー様にしては、意外にストレートな展開。 ですが、個人的にはホラー・タッチな作品が好きなので、一息に読めました。 夏の読書にオススメです(笑)。

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幻魔の虜囚  VOLKHAVAAR (1977)

  奴隷娘シャイナは、横暴な主にこき使われ、暴力を振るわれながらも、誇り高く日々を送っていた。

  だがある晩、奇術師の王カーニックと名乗る不可思議な男が、旅芸人の一座を率いてシャイナの村にやってきた。 彼らは奇術を用い、大仰な舞台を見せた後、村人たちをいいように操り、食料や酒を差し出させて消え去った。 翌朝になると、村人たちは彼らのことを覚えてはいなかった。 覚えていたのはシャイナただ一人。

  シャイナは、その旅芸人たちの看板役者に恋をしてしまったのだ。

  ところがカーニックの正体は、ヴォルクハヴァールという名の邪神の使者であった。 旅芸人たちは彼に魂を抜き取られ、操られていた。 シャイナは、看板役者を救おうと決心し、魔術の知識を得るために、村から離れて住む魔女バルバヤートの元を訪れる。


  リーおなじみのテーマです。 捕らえられた若者を救うために、若い娘が魔法を使って敵に立ち向かう、というもの。

  リーはその流れるような文体が素晴らしいのですが、この作品ではシャイナ、ヴォルクハヴァール、バルバヤートが使う魔法の言葉が見事です。 恐らく言霊という考えに基づいているのでしょうが、見立てや、謎かけなどが巧みに組み立てられていて、まるで、目の前で魔法が繰り広げられているような錯覚に陥ります。

  ひたむきで可愛らしいシャイナが、バルバヤートから魔法を学び、ヴォルクハヴァールと対峙することによって、成長していく姿も読んでいて楽しい作品です。

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月と太陽の魔道師  EAST OF MIDNIGHT (1977)

  奴隷のデクテオンは老奴隷に促されるまま、主人の館から逃亡した。 その途中、追いかけてきた犬をやり過ごすために潜り込んだ古い遺跡の石から、デクテオンは異世界に入り込んでしまう。

  そこは女が治める世界。 女王の夫ザイスタアは5年の任期を終えて、やがて仕来り通りに死を与えられることになっていた。 ザイスタアは女たちと死から逃れるために、自分に瓜二つである異世界の男、デクテオンを身代わりに仕立て、自らはデクテオンの世界に逃げ込んだ。

  だがザイスタアにはない男としての矜持を持ったデクテオンは、古い仕来りをうち破るために行動を起こし始める。


  女たちが治める異世界が、リーならではの文章で描かれています。男の象徴を太陽、女の象徴を月として、そこから派生する様々なモチーフを使い、一つの世界を作り上げています。

  逆転を繰り返していく、対の存在であるザイスタアとデクテオン。 その対比が面白いです。 どちらも自らが置かれた環境によって変化していくのですが、どちらも意外性に富んでいて、読んでいて次々と話の中に引っ張られていきます。

  今回は月を象徴とする女の世界でしたが、リーが作り出す異世界は、いつも様々な魅力に満ちあふれています。

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闇の城  THE CASTLE OF DARK (1978)

  リルーンは二人の老婆にかしずかれ、黒い廃墟のような城に住んでいた。 他には住む者もなく、近隣には村もない。 リルーンは二人の老婆以外の人間を知らず、16歳のその時まで、城に閉じ込められるようにして育てられていた。

  だがリルーンは決して従順な娘ではなかった。 “呼ぶ”魔法を老婆たちに隠れて使い、救い出してくれる人間を呼び寄せようとしていた。

  リルーンの“呼ぶ”力に絡め取られ、廃墟のような黒い城にやってきたのは、若い吟遊詩人リアであった。


  この作品を読んで何が驚いたかというと、「ヒロイン」リルーンの我が儘っぷりでした(笑) 彼女の育った環境を考えるとそれは当然なことなのですが、まず他の作家の物語では、なかなかお目にかかれないタイプでしょう。

  なおかつリルーンに振り回されるリアも、決してヒーロー然とした立派な青年ではないのです。 リルーンのために様々な困難に立ち向かっていくのですが、どちらかというと「しぶしぶ」という風なのです。

  ですが、そんな二人だからこそ、ラストに至って彼らの意志すらも越える強い絆を感じることができるのかもしれません。

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闇の公子  NIGHT’S MASTER 〈 FLAT EARTH T〉 (1978)

  この世がかつて平らかであった頃、神々はすでに人間への興味を失い、人々の祈りの声に耳を傾けることはなかった。 しかし、5人の闇の公子たちは時折、人々の営みに足を踏み入れ、興の赴くまま人々の運命を翻弄していく。

  妖魔の王アズュラーンは、闇の公子の一人。 ある時、人ならぬ美貌と青く輝く闇色の髪を持った男の姿で、死にゆく女の傍らに現れた。

  産み落としたばかりの幼子を思い、女は苦しみながら死んでいく。

  だが、その幼子の美しさ、中でも藍色の瞳に惹かれたアズュラーンは、その幼子を自らが治める妖魔の都ドルーヒム・ヴァナーシュタへと連れ帰った。

  地底の都で、妖魔にかしずかれ、幼子はやがて美しい16歳の青年へと成長する。 だが、青年は人であるがゆえに、妖魔と共に過ごす日々に苦しみ始めた。


  これぞリー作品! 傑作です!(力まずにはいられません(笑))

  上記の物語はあくまでもプロローグにすぎません。 この物語から、次々とまた異なる物語が綴られていきます。 中程までは、アズュラーンを主人公とした短編が並んでいるように思っていましたが、後半に入ると、前半の物語が全て巧みに絡み合い、一つの物語としての終局に向かっていきます。

  妖魔の人とは異なる魅力、そして神話伝承を越えた妖魔の都の壮麗さ、広大な平たい地球という世界。 リーの異世界構築の巧みさを、これでもかこれでもかと堪能できます。

 そしてこの作品は、この後に続く「平たい地球シリーズ」への、入り口なのです。

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死の王  DEATH’S MASTER 〈 FLAT EARTH U〉 (1979)

  メルの豹女王ナラセンは、己の王国が病み朽ちていくのを、忸怩たる思いで眺めていた。

  その原因を作ったのはナラセン自身であった。 その時より一年ほど前、死に至らしめた魔術師イサクの呪いが、疫病を呼び、干魃を呼んだのであった。

  呪いを解く方法は、ただ一つ。 ナラセンが死者との間に子をもうけることであった。

  闇の公子の一人である死の王ウールムの力を借りて、ナラセンは死者との間に子をもうけるが、産褥の床で毒を盛られて死んでしまう。 赤子もまた、両性具有であったために忌まれて、ナラセンの骸と共に墓に放り出された。

  その赤子は美しさから、通りすがりの妖魔によって拾われ、シミュと名付けられた。


  シミュとジレクの数奇な運命を主軸に、死の王ウールムと妖魔の王アズュラーンとの対立を描いた長編です。 両性具有、不老不死の魔術師、死の王に仕える幼い少女の姿をした魔女、妖精と人との間に生まれた娘、と魅力に満ちあふれた様々な登場人物が、物語を押し進めていきます。

  人物だけではなく、豊かな色彩で描かれるリー独自の異世界が、また不思議な魅力を作り出しています。

  物語に物語が絡んでいく、濃密で華麗なリーの世界を長〜く、味わえる長編です(^o^)

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死霊の都  SHON THE TAKEN (1979)

  トロムの村には、ある掟があった。

  村の東にある〈死の住処〉。 そこは鴉の一族が治める地。 〈死の子供たち〉である鴉の一族に出会ったが最後、その者は、憑かれ者として殺さなければならない。 憑かれ者は死と災いを運ぶ者だからだ。

  17才の少年ショーンは、猪狩りの時に兄の奸計によって、森に一人で取り残された。 そして夜の森をさまよい歩くうちに、彼は鴉の一族に出会う。

  鴉たちはからかいながらもショーンを結局殺さなかった。 一人の鴉が、村には戻らぬよう、警告をする。
  何故ならば、ショーンは憑かれ者になってしまったからだ。


  リー作品ならではの、美しい色彩に満ちた夜の世界。 その世界を舞台に、自分の運命に立ち向かうショーンの勇気が生き生きと描かれています。

  迷信という枷を、「憑かれた」ことによって外すことになってしまったショーン。 突然、未知の世界に放り出されて、戸惑う彼の姿は私たちの身の上にも起こり得るようで、それは単なる架空の物語で片付けられないように思えます。

  いくつもの困難の中で生まれる、友情、信頼と理解に胸が熱くなります。 人々の思い豊かな物語です。

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