短編集  1983〜1985



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血のごとく赤く〜幻想童話集〜 (1983)
タマスターラー〜インド幻想夜話〜 (1984)
ゴルゴン〜幻獣夜話〜 (1985)

血のごとく赤く〜幻想童話集〜  RED AS BLOOD;OR,
                    TALES FROM SISTER GRIMMER (1983)
 ★報われた笛吹き★  Paid Piper

  「ハーメルンの笛吹」を、古い神に対する信仰と絡めた物語。

 ★血のごとく赤く★  Red As Blood

  姫と義母の善悪が逆転したダークな「白雪姫」。 七人のドワーフならぬ、異形と化した七本の木々の歩む姿が不気味です。

 ★いばらの森★  Thorns

  「眠れる森の美女」にかけられた、真の魔女の呪いとは・・・?

 ★時計が時を告げたなら★  When the Clock Strikes

  邪悪な魔女であった母が処刑されてしまい、復讐を誓う「シンデレラ」。

 ★黄金の綱★  The Golden Rope

  「ラプンツェル(ちぇしゃ)」ではなく、ジャスパー(翡翠)を与えられた代償に魔女に捧げられた娘ジャスパー。 魔女の目的は娘を使い、闇の公子から力を得ることだった。

 ★姫君の未来★  The Princess and Her Future

  アジアン・テイスト、かつホラータッチの「蛙の王子様」。

 ★狼の森★  Wolfland

  世継ぎとして一族の女家長に呼び出されたリーゼル。 だが森の奥に住む祖母にはある秘密が隠されていた。 近代を舞台にした「赤ずきん」。

 ★墨のごとく黒く★  Black As Ink

  モチーフは「白鳥の湖」。 ある資産家の息子と、奇妙な風貌の男に連れられた娘との出会い。

 ★緑の薔薇★  Beauty

  サイエンス・フィクション版「美女と野獣」。 異星人と共存する未来の地球。 実業家の末娘エステルと猫族のような姿を持った異星人の物語。


  世界中でよくよく知られた物語が、なんとも魅惑的なリー独自の闇の世界、妖艶さと皮肉を散りばめた大人のための物語へと変貌させられています。

  清らかな姫君たちは魔女となり、乙女は闇の住人の美しさに心を動かす。 そんな、原話からは正反対の物語になってしまっているのに、まったく違和感がありません。 昔からこの闇の御伽噺が存在しているかのようです。 そしてほとんどの物語が、短編とは思えない重厚さを持っています。

  タニス・リーを読んでみたいけれど、長編はちょっと・・・という方には、オススメの短編集です(^^)。

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タマスターラー〜インド幻想夜話〜  TAMASTARA
                          OR THE INDIAN NIGHTS (1984)
 ★龍(ナーガ)の都★  Foreign Skins

  イギリス統治時代のインド。 イギリス人のフィンレイの元に、一人のインド人の女がやってきた。 アグニーニー(火の神の娘)と名乗ったその魅力的な娘を、彼の息子デイヴィットの家庭教師とするが、彼女の正体は蛇神(ナーガ)の一族であった。

 ★炎の虎★  Bright Burning Tiger

  狩人ペターサンが、人食い(マンイーター)と呼ばれる虎に食い殺された。 執拗なまでにばらばらにされた遺体。 その現場であった彼の部屋の壁には、ブレイクの詩「虎よ!虎よ!」が逆順に書かれていた。 「わたし」がその意味を追ううちに、以外な真実が浮かび上がる。

 ★月の詩(チャーンド・ヴェーダ)★  Chand Veda

  醜男ヴィクラムと醜女ギーターは、家族の薦めによって結婚したものの、互いを不満に思っていた。 だがある時家へ戻る途中、二人は列車事故に巻き込まれ、真っ暗闇の中を隣りの駅まで歩く事になった。 そして疲れて横たわった二人に、月神(ソーマ)の魔法の光が降り注ぐ。 ヴィクラムの祈りが通じたのだ。

 ★運命の手★  Under the Hand of Chance

  美しく生まれついた青年ラーマと、やはり美しく生まれついた娘スニターは、時折夢の中でのみ互いの姿を垣間見た。 二人は無慈悲な運命に翻弄され、それぞれの過酷な人生を紡いでいくが・・・。

 ★象牙の商人★  The Ivory Merchants

  著名な短編作家が文学賞を受賞した翌朝に、死体となって発見された。 それは明らかに自殺であったが、彼をそこまで追いつめたのは、暗殺者ラクシャサであった。 ラクシャサは依頼人にも自分自身にも疑いがかけられない手際の良さで、その世界では有名であった。 果たして彼が用いた方法とは?

 ★輝く星★  Oh,Shining Star

  映画大国インドの未来の姿。 映画の都タージャでインドゥーは女優として成功を収めていた。 やがて彼女は役者としての最高のカースト〈黄金の役者/スンダー・ソーナー〉を手に入れる。 だがファンへと総て公開される生活に安らぎはなく、次第にインドゥーは苛立っていった。

 ★暗黒の星(タマスターラー)★  Tamastara

  テロリストのフランス人ルナールは、成層圏ステーションの破壊に失敗し、アジアのジャングルに身を隠していた。 ところが味方からの連絡を待つ彼の前に、突然、見知らぬ娘が現れた。 そして死を目前にしたルナールに、彼女は自分のトラウマを根治するために、彼の元へやってきたのだと告げた。


  インドが舞台になっているからこそ生み出される、絢爛で残酷で深淵な物語が次から次へと語られていきます。 インド独特の濃密な空気が行間から流れてくるようです。 欧米にはないインドの死生観、運命論が、リーのスタイルの中に違和感なく取り込まれ、物語の深みを作り出しています。

  リーのストーリーテラーとしての巧みさには、舌を巻くばかりです。

  が、驚いた事にリーはインドを訪れた事がないそうです。 思い浮かぶ情景を文章にしているだけなのだと、いう話もあります。 恐るべしリー様!!としか言い様がありません(笑)

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ゴルゴン〜幻獣夜話〜  THE GORGON
                   AND OTHER BEASTLY TALES (1983)
 ★ゴルゴン★  The Gorgon

  沖に浮かぶ小島にはゴルゴンが住まう。 ダフォー島の人々は言う。 それに興味を持った作家は強引にその島へと渡ったが・・・。

 ★アンナ・メディア★  Anna Medea

  問題のある二人の子供の家庭教師として、アンナ・メディアはアーヴィング家に雇われていた。 だが彼女の人離れした雰囲気に、雇い主であるクロードは疑問を持ち始める。 そして近くの森に狼が現れ始めた。

 ★にゃ〜お★  Meow

  若い手品師スティルが出会った娘キャシーは、両親と死に別れ、拾ってきた5匹の猫と大きな家に住んでいた。 彼女はまるで猫に捕らわれているかのようであった。

 ★狩猟、あるいは死 ─ ユニコーン★  The Hunting of Death : The Unicorn

  レイスファンという存在の、 ユニコーンにまつわる3つの生と死。

 ★マグリットの秘密諜報員★  Magritte’s Secret Agent

  人形のように動かず話さなず、母親に世話をされる車椅子の青年ダニエル。 その母親が訪れた下着売り場で働く「わたし」は、芸術的な美しさを持つダニエルに一目で心を奪われてしまった。 口実を作ってその家を訪れるが・・・。

 ★猿のよろめき★  Monkey’s Stagger

  栄国人の勇士エドモンドは密林の奥にある古い聖堂に足を踏み入れた。 現れた魔物は決まりによって彼に逃れる術を教えた。 「猿のよろめき(モンキーズ・スタガー)を探せ」

 ★シリアムニス★  Sirriamnis

  奴隷として売られていた美しい異国の娘シリアムニス。 彼女の青い瞳は7つの花弁を持つ花のような形をしていた。 貴族の息子が彼女を買い求めたが、やがてその屋敷に奇怪な事が起こり始めた。

 ★海 豹★  Because Our Skins Are Finer

  ハラ・ハスラは海豹(あざらし)猟を生業としていた。 ある時娼婦のモーナに海豹の毛皮をせがまれ、見事な雄を仕留めたが、奇妙な女が彼の元にやってきて、その毛皮が欲しいと申し出た。

 ★ナゴじるし★  Quatt−Sup

  ネズミを一掃してくれるだろう、とキャビンに住みついた猫を男は受け入れた。 だがネズミを捕るどころか思うままに彼の食料を食い散らかす猫。 男は猫の横暴に頭を悩ませていたが、突如、異星人に連れ去られてしまい・・・。

 ★ドラコ、ドラコ★  Draco Draco

  道に迷った旅の薬売りが、見知らぬ土地で若い戦士カイと出会った。 そしてそのまま二人は半ば成り行きで、近くの村に現れるドラゴンを退治することとなった。

 ★白の王妃★  La Reine Blanche

  結婚したその晩に年老いていた王は死に、20歳の若さで寡婦となった白の王妃は、決まりにより塔に閉じこめられていた。 そうして鬱々と単調な一年を過ごしたある冬の日、一羽のカラスが訪れ、王妃に人の言葉で喋りかけた。


  それぞれが総て異なる雰囲気を持った、幻獣をテーマにした11の物語です。 苦みのある人間ドラマもあれば、サイエンス・フィクション、ホラーなどなど、1冊でリー作品の様々な側面が楽しめます。

  ドラゴンやユニコーン、そして人狼、猫と、ほとんどがファンタジーの世界ではおなじみの幻獣ですが、リーの手にかかると、不思議とその色を変えます。 だからといってその幻獣のイメージを損なうのではなく、読者に対し、心地よい裏切りを積み重ね、そしてその影に隠されていたもう一つの姿を見せてくれるのです。

  何よりも幻獣を産み出した人間、時には幻獣の異能すら凌駕するその強(したた)かさに、苦笑いさせられる短編集です。

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