神奈川県民のなくしもの

〜 本当に控えるべき報道はこれだった 〜

 

 ときにはこんな客観性に欠く文章が必要なときもあるのではなかろうか。

 連発する神奈川県警の不祥事、別にいい。警官だってそれである前に人間だし。我々世代が受けざるをえなかった杜撰な人間教育の結果出来上がった人間や、人格形成過程の中でそれに適さない家庭環境におかれた人間達が今続々と社会に巣立っているのだから、倫理観の欠落は警察官とて例外であるわけはないしそれに期待などしていない。

警察手帳亡失の連発

厚木署で上司が新人の眉間に拳銃を突き付け暴行したあげく体毛を燃やす

相模原南署で巡査長が押収品のネガを持ち出し女性を脅迫、金品及び肉体関係を強要

各事案例外なく組織ぐるみの隠蔽、虚偽の報告・会見

 報道で取り上げる各メディアの姿勢を見ても顕著だ。恒例の「またですね」テイスト大爆発で、コトの重大さを知ってか知らずか報道時間も異様に短い。おかしいだろう。一昔前ならどうだった?恐らく朝から晩まで他にやることないのかくらいの一大センセーションになっているはずではないか?それが今ではトシちゃんのコンサートと同レベルの扱い。問題意識どころか、いつものことすぎて話題性すらない。まあ別にそれもいい。

 「県民の皆様に深くお詫び申し上げ、今後倫理教育の徹底に尽力する所存」とは、我が神奈川県の正義と平和を司る、神奈川県警本部長様の県民へ向けた恐れ多きお言葉である。しかし。あの会見こそが、報道が自粛しなければならない本当の「凄惨でショッキングな映像」だ!バカなキャンパーが川に流されるシーンの放送を控えている場合ではない!

あの態度はなんだ!あの一切罪悪感や責任を感じていないと素直に語っている眼差しはなんだ。そしてあの支離滅裂な問答はなんだ!記者の質問に、回答とは程遠い意味不明な言葉を続発するのはなぜなんだ。まれに回答になっていたとしてもそれが小学生が親に叱られた時の言い訳レベルなのはどうしてだ。そして詫びているのは彼ではない。その手に大事に握っている原稿の文字だけだ。かなりビビる。そんな方々が「倫理教育を徹底」したところで、出来あがる人間の質はたかがしれている。

 別に、「しっかり認めて詫びろ!」と言っているのではない。僕なんかの意識など到底及ばない優秀な人なのだろうし、まわりにそんな人がたくさんいる組織なのだろうから、最善と判断したのなら認めるなり謝るなり反論するなり好きなようにすればいい。きっと僕らでは想像もつかない深い意図や事情があるのだろう。しかし。

 そんな優秀な人に向かって何のスキルもない人間の僕が言いたいのはこういうことだ。人は子供の頃、警官や教師という聖職に一度は憧れ志すことが多いだろう。それは、即ち「正義」や「模範」への傾倒で、人はそれによりもれなく良い方向へ成長するものだ。そう、あの会見を全国の子供たちもテレビで見ているということを、本部長様はご存知なのだろうか。そして自分の言っていることが、恐らく普通の知能を持っていれば小学校中学年程度の児童でも支離滅裂だとわかるほどに低レベルだということ、さらに自分が国民、それも子供に憧れられている「聖職」の人間達のトップだということを認識されているのだろうか。

 個々の警官の不祥事はいい。なぜならそれは劣悪なモラルを持った個人の問題で、それが全部でないことくらい世の中の子供はまだ理解できるし、憧れる子供はそれを反面教師として、成長の糧とすることもできる。僕自身も過去に経験した仕事の中で、警官や教師という職業に就く人々の醜態などさんざん目の当りにしてきたが、別に警察組織全体への信頼は失わなかった。しかし本部長様。あなたの言葉は違う。あなたの言葉は一警官の言葉ではない。「警察」という組織の言葉だ。なぜそれがわからないのか!それがわからなくて県警のトップなぞになれる警察の組織はいったいなんなのだろうか。

あなたはあの会見で、警察組織の人格を表したのだ。さぞ日本の子供達はびっくりしたことだろう。悲しかったことだろう。そしてそんな警察という組織に憧れ、志す子供がこの国にいるとでも思うのか。そしてその憧れ志しもしない警官という謎の人々が「正義」を振りかざしたとして、誰がその言うことを聞くというのか!

 「秩序」を守るとはどういうことか。民主主義の世の中で正義と平和を守るという大儀名分を背負い、そのための権利と義務が警察に与えられた。やっと誰もが何の疑問も持たずに、「警察」というだけの理由で「正義」と思い、従う常識が構築された。だから秩序が成り立っているのではないか。ではなぜ何の疑問も持たない?

憧れほど人間にとって都合のいい先入観はない。つまりその理由は、子供が素直にその正義に憧れ、志す対象であったからということひとつに尽きるのではないか。でも一昔前、その憧れには具体性があったからこそ、今の抽象的な「正義の使者の偶像」を築き上げることができたのだ。それが、いま、崩れ落ちようとしている。憧れられもせず志されもしない、そんな秩序維持部隊など低レベル共産主義国家の軍隊と同じことであろう。(高レベル共産主義国家での軍隊は例外なく強い憧れの対象になっている。)

 秩序を守ったり教育したり、本部長様、あなた方の仕事は「いつの世にも子供に憧れられる存在でいる」ということが、その責務の半分を占めていて、そしてそれが実は最も重要で、あなた方にとっても最も仕事をやりやすくするポイントであることに気付いたら、もっと日本はいい国になるかもしれない。

 我が神奈川県は、人間社会にとり致命的な失しものをした。失ったものは何だろう。わからない。数えきれない。正義・秩序・信頼・安心・よりどころ・誇り・期待・説得力・・・。それじゃすまされない。

 

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